『・・・そなたが太子の元へ行って、背中を押してやりなさい。』
チェギョンに向けて放たれた皇帝陛下の命令
それを横で聞いていた皇太后と皇后は、チェギョンにとってあまりにも非道な命令を下す陛下に
抗議の目を向けた
『陛下よ・・・いくらなんでもそれは酷というものではないか?』
『さようでございます陛下。この状況を見てそのような酷い言葉を仰るとは・・・信じられませんわ。』
皇帝陛下は皇太后と皇后に視線も向けずに言い放った
『お二人は黙っていてください!!シン・チェギョン・・・私の命令が聞けぬと言うのか?』
『はい。申し訳ございません。』
『そなたでなければ務まらない任務でもか?』
『はい。だからこそ・・・できません。』
『はぁ・・・シン・チェギョンよ、よく聞くがよい。あの太子の顔はまるで血の通わぬ死人の様だ。
今のままでは隣に寄り添ったどんな娘であろうと、きっと投げやりな気持ちで手を取る事だろう。
そうなったらこの国の未来はどうなる?あの様な顔をしたままこの国を治められると思うか?
そなたの任務は太子が道を踏み誤らないようにする事だ。
太子が心から望む娘の手を取れるよう、背中を押してやりなさい。』
俯いていたチェギョンの顔が徐々に陛下に向けられていく
『えっ・・・・・?』
『まだ解らぬのか!そなたが太子を真っ当な道に導きなさいと言っておるのだ。』
『そ・・・それはつまり・・・』
『これ以上言わせるでない。早く行くがよい。』
『は・・・はいっ!!』
チェギョンは陛下に深々と頭を下げ、それからドレスの裾を翻しシンの元へと向かっていく
『陛下・・・そなた、なかなかやるのぉ・・・』
『参りました。陛下・・・降参いたします。』
『結局・・・私は皇帝陛下である以前に太子の父親なのです。』
『さすがだ。おほほほほ・・・・』
『後は二人の様子を見守りましょう。おほほほ・・・』
三陛下は微笑みシンの元に向かうチェギョンを見守った
『シン君!!』
いきなり目の前に現れたチェギョンに、見表情だったシンは顔色を変えた
『お前にはこの場所に来て欲しくないと言っただろう?なぜこんな場所に来る!早くこの会場から出て行けっ!』
『そうはいかないの。皇帝陛下にシン君の背中を押すように言われて来たんだもの。』
『余計なお世話だ!なぜそんな命令を受ける?』
『シン君!!ちゃんと話を聞いて。皇帝陛下はシン君が誤った道に進む事を恐れてる。
気持ちの通わない相手じゃなくて、心から望む人の手を取れるようにって仰って、私をここによこしたの。
だから私・・・陛下の許可をいただいてここに来たの。』
チェギョンはゆっくりとシンに向かって右手を伸ばした
『シン君・・・私の手を取って。シン君が好きなのは私でしょ?
そして私が好きなのはシン君だよ。だから・・・王族のご令嬢じゃなく、リスクは多いけど私の手を取って。』
『チェギョン・・・』
シンはじっとチェギョンの目を見つめ、それから三陛下の座る方向に視線を向けた
すると満面の笑みの皇太后と皇后の横で、なんとも複雑な顔をしながらも頷いてみせる皇帝陛下がいる
その三陛下を見た瞬間、シンは初めて公然とチェギョンの手を取った
そしてその場に片膝を着き、チェギョンの右手の甲に口づけるとそのまま視線をチェギョンに向けた
『シン・チェギョン・・・私の妃になってくれるか?』
『はい♪』
チェギョンは目を細めシンに微笑みかけると、何度も・・・何度も頷いた
そんな主役の二人を目の当たりにし、王族とその令嬢達は驚きと同時にざわめきだした
皇太子妃は王族の娘の中から選出するのが仕来りである
だが・・・今、皇太子殿下が手を取った相手は、王族の娘ではない
しかも前回の親睦パーティーの時には、ハン・チョルスのパートナーとして現れた娘・・・
そんな事を覚えている者も中にはいて、会場はさらにざわめきだした
そんなざわめきの中、お互いの事しか目に入らない当の二人は三陛下の元へ向かって歩いて行く
一度もお互いの気持ちを言おうとしなかった二人。だが常に想いは一緒だった
まさに感無量の想いであろう二人は、認められ並んで歩ける喜びに心を震わせた
三陛下の元に辿りついた時、シンは皇帝陛下に頭を下げた
『この女性に決めました陛下。ありがとうございます。』
『そうか。解った。』
陛下は微かに微笑むと会場の王族とその令嬢に向けて告げた
『集まってくれた諸君に告ぐ。皇太子はここに居るシン・チェギョン嬢を生涯の伴侶と決定した。
シン・チェギョン嬢は先帝が懇意にしていたシン氏の孫娘で、明朗活発な娘だ。
今後王族は若いこの二人を支えてやって欲しい。ではこれにて親睦会を終了する。』
王族は皆・・・どこか面白くなさそうな顔をして帰っていく
心に悪しき思いがあったとしても、その場で抗議できる者などいない
皇室に娘を嫁がせる夢を見ていた者達は、鬱憤を抱えたまま迎賓館を後にした
『さてど・・・料理長に食事を用意させておる。皆で食事をしようかのぉ。』
皇太后の先導で会食の場に向かう途中、シンは皇帝陛下に問い掛けた
『陛下・・・お聞きしてもよろしいですか?一体なぜ・・・このような決断をなさったのですか?』
『不満か?』
『いえそうではありません。ですが・・・腑に落ちなくて・・・』
『ははは・・・・根負けしたのだ。』
『根負け・・・した?』
『ああ。太子とチェギョンの勝ちだ。ははははは・・・』
チェギョンを認めると口に出して言う事の出来なかった皇帝陛下は、漸く安堵できたとばかりに高らかに笑った
一方、迎賓館に出す料理を作り終えた調理場では、いきなり会食の用意をするよう命じられ慌ただしく
作業が進んでいた
『なんでも・・・皇太子妃が決定したらしい。』
『ほぉ・・・それはおめでたい事で・・・』
『それが・・・王族のお嬢さんじゃないそうだ。』
『そうなんですか?一体どんなお嬢さんなのでしょうね。』
『ああそれが・・・慈慶殿で女官見習いをしている娘さんだとか?』
『慈慶殿で・・・女官・・・見習い?』
『シン・チェギョンさんと言って殿下のご学友らしいが・・・』
『シン・チェギョン・・・・えっ・・・えぇぇぇっ・・・・そんな馬鹿な・・・』
『ああそう言えばナムギルくんの娘もこの宮殿に居るって聞いたが?』
『あの・・・うちの娘・・・シン・チェギョンと言うんですが・・・まさかですよね~~~~!!』
調理室は大騒ぎとなり、何も手に着かないままチェギョンの父シン・ナムギルは一人うろたえていた・・・
『シン君・・・』
『くくくっ・・・』
『笑ってないでちゃんと答えてよ。私の事、好き?』
『あぁ。お前が好きだ。初めて逢った日からずっとな。』
『えへへ~♪』
さりげなく手を握り合い会食の為に用意された場所に向かう二人
この先どの様な苦難が待ちかまえていようと、もう家族を味方につけたシンには怖いものなど何もなかった
陛下の≪背中を押しなさい≫とは・・・結局チェギョンの背中を押したんだよ~♪
肩揉みのお礼かな・・・(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
肩揉みのお礼かな・・・(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!