≪来夢生花店≫・・・この店は大きな大学病院の目の前にある
この店は両親が始めた生花店の一号店なのだが、今は二号店の≪来人生花店≫の方が建物の規模や
従業員の数も売り上げも・・・すべてが≪来夢生花店≫の比ではなくなってしまった
今では両親や弟は二号店の≪来人生花店≫の方で仕事をしている。向こうが本店のような扱いだ
なぜこの名称になったかって?
父がずっと昔の喜劇王が演じた無声映画の≪ライムライト≫が大好きだったからだ
私はこの店の店長でシン・チェギョン25歳。フラワーアレンジメントの勉強中で、大きな大会などにも
出場してはいるけれど、今だ入賞の兆しはない
店長とは言ってもとても小さなこの店・・・他には社員のウナとアルバイトのユリンがいるだけ・・・
でも向かいの大学病院のおかげか、お見舞いに訪れるお客様の需要は多く非常に繁盛している
朝は9時に店舗に出勤し、お店の掃除と届いたお花の管理をする
そして10時が開店時間だ
閉店時間は夜の8時。お店を閉めてからお花の在庫確認・・・9時頃漸く店を出る
そんな私の日常は大好きな花に囲まれて、非常に充実している
プライベートは・・・聞かないで。
『チェギョン・・・昨日もユル先生に送っていただいたの?』
ユル先生と言うのは私のフラワーアレンジメントの先生だ。恐らく年は一つか二つ上
優しい物腰だが指導に入るととても厳しい人だ。そんな人になぜか目を掛けて貰って、スクールの日は
家まで送ってくれる事も少なくない
でも・・・互いの間に浮いた話はない。あくまでも師弟の関係だ
『うん。送っていただいたわ。』
『ねえ?あなたとユル先生って一体どんな関係?』
年頃の娘がいるのだから母も気になるのだろう。ユル先生に送って貰う度に母はそう聞いて来る
でも私は毎回こう答える
『ただの師弟関係よ。』
すると母は途端に落胆の表情を浮かべ、私をけし掛けるのだ
『もぉ・・・チェギョンったら、お付き合いしている男性の一人も居ないの?
ユル先生だったらお家も大きなフラワーショップだし、申し分ないのだけどね・・・』
『お母さん・・・だからユル先生とはそんな関係じゃないんだって!』
最近特にうるさくなった両親。私はユル先生に送られる度受ける尋問に、少し辟易していた
だけどそんな私の毎日に癒しを運んでくれる人が現れたのだ
そのお客様が来店するようになったのはいつからだっただろう
いつも閉店ギリギリの時間に、そのお客様は駆けこむように来店する
如何にも高級そうなスーツを身につけ、サラサラの髪をなびかせドアを開ける様は
まるで映画のワンシーンを見ているような錯覚に陥った
もちろんそのお客様に目をハート型にしてしまうのは、私だけじゃなくウナやユリンも一緒だ
彼はいつも一本の薔薇の花を買っていく
その日目に留まった薔薇の花を一本だけ買っていくのだ
ウナやユリンはそのお客様の接客がしたくて、現れるとすぐに声を掛ける
だけど不思議なことに、そのお客様がいつも声を掛けるのは私だけだった
この店には駐車場がない。なので恐らく向かいの大学病院の駐車場に車を止め
道路を横断してこの店に来るのだろう
毎日欠かさず買っていく薔薇の花を受け取るのは恋人だろうか・・・
ひょっとしたら入院しているのかもしれない
お客様のプライバシーを詮索することなど絶対に許されない事だが、それでも非常に気になって仕方がない
あ・・・あのお客様だ。今日も素敵・・・だなんて顔には出さない。私はこの店の店長だもの
『いらっしゃいませ♪』
『こんばんは。』
『今日はどれになさいますか?』
『そうだな。その上品なピンクの薔薇を貰おうか。』
『シャルル・ドゥ・ゴールですね。はい、かしこまりました。』
そのお客様はいつも私がラッピングする様子をじっと見ている。じっと見られていると非常に緊張するが
私にとってはその人から見つめられる至福の時間だ
一つ一つの棘を指の腹を使って取り除き、フィルムでラッピングし今日の私の気分でリボンを掛ける
『大変お待たせいたしました。』
『いつもありがとう。』
たったこれだけの会話・・・それが私にとって一日の疲れを癒す幸福なひと時となった
≪来夢生花店≫そこに通うようになって半月になる
最初は従兄弟のユルの生徒がその店の店長だと聞いたから興味本位で立ち寄っただけだった
『不器用なんだけど・・・とても気立てのいい子なんだ。』
ユルのその子の事を話すその目はとても優しくて、明らかに生徒以上の感情を持っていると俺は感じていた
ユルのお気に入りの子を見てやろう・・・そんな軽い気持ちで、母が入院した大学病院前の≪来夢生花店≫の
扉を開けた
その店には三人の女の子が働いていたが、俺には一目で彼女がユルのお気に入りのシン・チェギョン嬢だと
解った
国内でユルの家と俺の家はシェアの一位を争うフラワーショップだ
ネットでの宅配を始めそれが大ヒットしたおかげで、俺の家の方が現在は頭一つリードしている状態だ
俺は両親の設立したイ・カンパニーの専務を務めるイ・シン28歳
そんな環境にあるのだから花は自分の周りにいくらでもある
なのに・・・なぜ毎日≪来夢生花店≫に通う様になったかと言うと、ネットと言う無機質な環境で
通販を成功させた俺に、彼女は忘れていた何かを教えてくれたからだ
・・・花と一緒に心を届ける・・・
彼女がそう言った訳ではない。彼女のラッピングした花がそう言っているんだ
売った花の棘を態々取る事さえ珍しいと言うのに、彼女はナイフなどの器具を使わず自分の指で棘を取る
時にはそれが刺さったりするのだろう。彼女の指先は若い女性とは思えないほど傷だらけだ
それでも薔薇に語りかけるような優しい眼差しで、一つ一つ丹念に棘を取る作業に俺は胸を打たれた
最初が興味本位だったものだから、習慣的に毎日一本だけ薔薇を買っていく俺なのだが
そんな利益にもならない客に実に親切な彼女
もちろん・・・薔薇の棘を取るという作業は、それを受け取った客が怪我をしないようにとの配慮もあるだろう
その一挙一動に花に対する愛情を感じられた
なんにしても見習うべきその精神を毎日見ているうちに、俺はすっかり彼女のファンになってしまったようだ
彼女から受け取った薔薇の花を持って、≪本日の業務連絡≫と言う名の母の見舞いに行く
母はイ・カンパニーの副社長を務めているが、重役であるにも拘わらずここ暫くの無理が祟ったのだろう
過労・・・で入院しているのだ
この機会にとゆっくり静養を兼ね、全身くまなく検査をする毎日だ
もちろん一時期は心配になった母だったが、今では元気そのもので退屈を紛らわせるために
秘書を呼び付けている
今日もそうだった
『シン~帰る時にミン秘書を送って頂戴♪』
ミン秘書・・・ミン・ヒョリンは母の秘書をしている。非常に仕事も出来るしフラワーアレンジメントの腕も
高く評価されている
だが・・・俺にはユルも認めるそのデザインが、どうにも毒々しく思えて仕方がないのだ
『すみません副社長。もうプライベートタイムなので私は失礼します。』
母がミン秘書を非常に気に入っているのは知っているが、俺にとって彼女は母の秘書・・・
ただそれだけでしかなかった
この店は両親が始めた生花店の一号店なのだが、今は二号店の≪来人生花店≫の方が建物の規模や
従業員の数も売り上げも・・・すべてが≪来夢生花店≫の比ではなくなってしまった
今では両親や弟は二号店の≪来人生花店≫の方で仕事をしている。向こうが本店のような扱いだ
なぜこの名称になったかって?
父がずっと昔の喜劇王が演じた無声映画の≪ライムライト≫が大好きだったからだ
私はこの店の店長でシン・チェギョン25歳。フラワーアレンジメントの勉強中で、大きな大会などにも
出場してはいるけれど、今だ入賞の兆しはない
店長とは言ってもとても小さなこの店・・・他には社員のウナとアルバイトのユリンがいるだけ・・・
でも向かいの大学病院のおかげか、お見舞いに訪れるお客様の需要は多く非常に繁盛している
朝は9時に店舗に出勤し、お店の掃除と届いたお花の管理をする
そして10時が開店時間だ
閉店時間は夜の8時。お店を閉めてからお花の在庫確認・・・9時頃漸く店を出る
そんな私の日常は大好きな花に囲まれて、非常に充実している
プライベートは・・・聞かないで。
『チェギョン・・・昨日もユル先生に送っていただいたの?』
ユル先生と言うのは私のフラワーアレンジメントの先生だ。恐らく年は一つか二つ上
優しい物腰だが指導に入るととても厳しい人だ。そんな人になぜか目を掛けて貰って、スクールの日は
家まで送ってくれる事も少なくない
でも・・・互いの間に浮いた話はない。あくまでも師弟の関係だ
『うん。送っていただいたわ。』
『ねえ?あなたとユル先生って一体どんな関係?』
年頃の娘がいるのだから母も気になるのだろう。ユル先生に送って貰う度に母はそう聞いて来る
でも私は毎回こう答える
『ただの師弟関係よ。』
すると母は途端に落胆の表情を浮かべ、私をけし掛けるのだ
『もぉ・・・チェギョンったら、お付き合いしている男性の一人も居ないの?
ユル先生だったらお家も大きなフラワーショップだし、申し分ないのだけどね・・・』
『お母さん・・・だからユル先生とはそんな関係じゃないんだって!』
最近特にうるさくなった両親。私はユル先生に送られる度受ける尋問に、少し辟易していた
だけどそんな私の毎日に癒しを運んでくれる人が現れたのだ
そのお客様が来店するようになったのはいつからだっただろう
いつも閉店ギリギリの時間に、そのお客様は駆けこむように来店する
如何にも高級そうなスーツを身につけ、サラサラの髪をなびかせドアを開ける様は
まるで映画のワンシーンを見ているような錯覚に陥った
もちろんそのお客様に目をハート型にしてしまうのは、私だけじゃなくウナやユリンも一緒だ
彼はいつも一本の薔薇の花を買っていく
その日目に留まった薔薇の花を一本だけ買っていくのだ
ウナやユリンはそのお客様の接客がしたくて、現れるとすぐに声を掛ける
だけど不思議なことに、そのお客様がいつも声を掛けるのは私だけだった
この店には駐車場がない。なので恐らく向かいの大学病院の駐車場に車を止め
道路を横断してこの店に来るのだろう
毎日欠かさず買っていく薔薇の花を受け取るのは恋人だろうか・・・
ひょっとしたら入院しているのかもしれない
お客様のプライバシーを詮索することなど絶対に許されない事だが、それでも非常に気になって仕方がない
あ・・・あのお客様だ。今日も素敵・・・だなんて顔には出さない。私はこの店の店長だもの
『いらっしゃいませ♪』
『こんばんは。』
『今日はどれになさいますか?』
『そうだな。その上品なピンクの薔薇を貰おうか。』
『シャルル・ドゥ・ゴールですね。はい、かしこまりました。』
そのお客様はいつも私がラッピングする様子をじっと見ている。じっと見られていると非常に緊張するが
私にとってはその人から見つめられる至福の時間だ
一つ一つの棘を指の腹を使って取り除き、フィルムでラッピングし今日の私の気分でリボンを掛ける
『大変お待たせいたしました。』
『いつもありがとう。』
たったこれだけの会話・・・それが私にとって一日の疲れを癒す幸福なひと時となった
≪来夢生花店≫そこに通うようになって半月になる
最初は従兄弟のユルの生徒がその店の店長だと聞いたから興味本位で立ち寄っただけだった
『不器用なんだけど・・・とても気立てのいい子なんだ。』
ユルのその子の事を話すその目はとても優しくて、明らかに生徒以上の感情を持っていると俺は感じていた
ユルのお気に入りの子を見てやろう・・・そんな軽い気持ちで、母が入院した大学病院前の≪来夢生花店≫の
扉を開けた
その店には三人の女の子が働いていたが、俺には一目で彼女がユルのお気に入りのシン・チェギョン嬢だと
解った
国内でユルの家と俺の家はシェアの一位を争うフラワーショップだ
ネットでの宅配を始めそれが大ヒットしたおかげで、俺の家の方が現在は頭一つリードしている状態だ
俺は両親の設立したイ・カンパニーの専務を務めるイ・シン28歳
そんな環境にあるのだから花は自分の周りにいくらでもある
なのに・・・なぜ毎日≪来夢生花店≫に通う様になったかと言うと、ネットと言う無機質な環境で
通販を成功させた俺に、彼女は忘れていた何かを教えてくれたからだ
・・・花と一緒に心を届ける・・・
彼女がそう言った訳ではない。彼女のラッピングした花がそう言っているんだ
売った花の棘を態々取る事さえ珍しいと言うのに、彼女はナイフなどの器具を使わず自分の指で棘を取る
時にはそれが刺さったりするのだろう。彼女の指先は若い女性とは思えないほど傷だらけだ
それでも薔薇に語りかけるような優しい眼差しで、一つ一つ丹念に棘を取る作業に俺は胸を打たれた
最初が興味本位だったものだから、習慣的に毎日一本だけ薔薇を買っていく俺なのだが
そんな利益にもならない客に実に親切な彼女
もちろん・・・薔薇の棘を取るという作業は、それを受け取った客が怪我をしないようにとの配慮もあるだろう
その一挙一動に花に対する愛情を感じられた
なんにしても見習うべきその精神を毎日見ているうちに、俺はすっかり彼女のファンになってしまったようだ
彼女から受け取った薔薇の花を持って、≪本日の業務連絡≫と言う名の母の見舞いに行く
母はイ・カンパニーの副社長を務めているが、重役であるにも拘わらずここ暫くの無理が祟ったのだろう
過労・・・で入院しているのだ
この機会にとゆっくり静養を兼ね、全身くまなく検査をする毎日だ
もちろん一時期は心配になった母だったが、今では元気そのもので退屈を紛らわせるために
秘書を呼び付けている
今日もそうだった
『シン~帰る時にミン秘書を送って頂戴♪』
ミン秘書・・・ミン・ヒョリンは母の秘書をしている。非常に仕事も出来るしフラワーアレンジメントの腕も
高く評価されている
だが・・・俺にはユルも認めるそのデザインが、どうにも毒々しく思えて仕方がないのだ
『すみません副社長。もうプライベートタイムなので私は失礼します。』
母がミン秘書を非常に気に入っているのは知っているが、俺にとって彼女は母の秘書・・・
ただそれだけでしかなかった
(薔薇の画像は、薔薇の奥様こと【花が好き】のkakoさんよりお借りしております。
お持ち帰りはご遠慮ください。)
お持ち帰りはご遠慮ください。)
軽く登場人物紹介になってしまった第一話
毎回・・・両サイドの目線で書かせていただきます。
しっとりと大人のハートフルロマンス
いっちゃおうかな~♪
毎回・・・両サイドの目線で書かせていただきます。
しっとりと大人のハートフルロマンス
いっちゃおうかな~♪