ワールド遊園地に向かうタクシーの中・・・チェギョンはなんともやりきれない気持ちになっていた
今日は朝から先輩社員には絡まれ、とどめにシンの別れた彼女がこの国に来たというのだからそれも当然だ
自分がシンの背中を押しておきながら、心のどこかで行ってほしくない気持ちもあったチェギョン
ワールド遊園地に到着し、担当者にメリーゴーランドの原案を見せ必死に平常心を保とうとしていた
『これ・・・メリーゴーランドの原案なんですけど、いかがでしょうか?』
担当者は何枚もあるスケッチをペラペラとめくりながら笑顔を浮かべた
『へえ~可愛いね。いいんじゃないかな。きっと子供も大人もメリーゴーランドに乗りたくなる。
この遊園地の一押しの遊具になりそうだ。』
『ありがとうございます。では・・・私は遊園地内を見て、それから帰ります。』
『ちょっと待って!シン・チェギョンさん・・・なんかすごく疲れているみたいだよ。
乗って行ったら♪メリーゴーランドが大好きなんでしょう?』
『えっ?なぜそれを・・・』
『代表がそう言っていたよ。』
『そうでしたか。ではお言葉に甘えて・・・』
平日の夕方には・・・客も少なくなっていた
チェギョンがメリーゴーランドの馬車に乗り込むと、担当者はスイッチを押した
軽快な音楽と共に動き出すメリーゴーランド
だけど今日のチェギョンは気持ちが沈む一方だった
『あの頃とは・・・違う。私も大人になって今の私にこの馬車は小さく感じる。
それにシン君も・・・隣にいない。シン君・・・彼女と上手くいったのかな・・・
笑顔で祝福しなきゃね・・・でも・・・できるかなぁ・・・
四年も片想いしちゃったから・・・。馬鹿だな、私・・・』
名前も知らない。写真さえ見たことのないシンの彼女・・・
とても太刀打ちできない妄想の中の女性に、チェギョンは嫉妬した
『いいな。シン君を愛していると・・・素直に言えるんだから。』
それさえできない不甲斐ない自分が、惨めすぎて泣けてくる
『うっ・・・うぅぅ・・・』
メリーゴーランドが動きを停めるまで、チェギョンは息を殺して泣き続けた
一方・・・別れた女性に逢うため空港に向かったシンは、待ち合わせの場所で彼女と再会した
『久し振り。』
そう言って右手を出したシンに、その女性は驚きを隠せなかった
数カ月前・・・泣きながら別れた二人
久し振りの再会にてっきり熱い抱擁をシンはするものと想像していた女性は、困惑しながらその右手に応じた
『ええ。久し振りねシン。あなたの事が忘れられなくて・・・一人でこの国にやってきたの。
あなたが教えてくれた場所・・・たくさん回ってきたわ。もしも・・・あなたが帰るなって言ったら・・・』
シンはまじまじと別れた女性の顔を見つめた
誰一人知りあいのいない国で、心を寄せてくれたとても大切だった人・・・
だが帰国して自分が愛していた人は、もう遠い過去の人となってしまったことを知る
(チェギョンは・・・今どうしているだろうか・・・)
帰国以来陰に日向にシンを支えてくれたチェギョン・・・
別れた彼女に遭いに行くのを躊躇したシンの背中を押した
ミンからチェギョンの気持ちを聞いていたシンは、今チェギョンがどんな心情でいるのか心配で仕方がない
『君を引き留めることはできない。』
『そうじゃないかと思ったわ。』
『君には本当に大学時代世話になって感謝している。だが今・・・もう俺の心には違う人が住んでいる。
だから・・・国井戻ってどうか幸せになってほしい。』
『そうね。それがいい。あなたに逢いたくてここまで来てしまったけど・・・もう愛されていないのに
この国で生きるのは無理だわ。
シン・・・もう一度逢えて本当に嬉しかった。今度こそ本当にさようなら・・・』
『あぁ。どうか元気で・・・』
別れた女性に笑顔を残すと、シンは一度も振り返ることなく去っていった
そしてその女性も・・・予定していた飛行機に乗り込み、自分の国に戻っていった
日が暮れる頃・・・シンはワールド遊園地に到着した
そしてメリーゴーランドに乗っているチェギョンが泣いているのを見てしまった
(あいつ・・・本当は行ってほしくなかったくせに、俺を行かしたんだな。)
メリーゴーランドが動きを停めチェギョンが降りてきた時、シンはチェギョンの元に近づいていった
それに気が付いたのはチェギョンよりもメリーゴーランドの担当者だった
『あ・・・代表!』
その声でチェギョンは慌てて目元を両手で拭って笑顔を取り繕った
『だ…代表。』
シンはメリーゴーランドの担当者に会釈をし、それからチェギョンに話しかけた
『シン・チェギョンさん…仕事は終わった?』
『あ・・・はい。』
『じゃあ戻ろうか。』
『あ・・・でも代表はお仕事が済んでいないのでは?』
『私はまた明日早い時間に来るから構わない。行こう。』
『は・・・い・・・』
今・・・逢ってきた女性の話になるのは確実だ
正直チェギョンは、そんな話を聞くのは辛かった
車まで歩いた時・・・チェギョンは言った
『シン君・・・私、寄るところがあるから・・・』
寄るところがあるというのはチェギョンのいいわけだと知っているシンは、助手席のドアを開けた
『だったらそこまで送っていく。だから乗ってくれ。話があるんだ。』
『・・・わかった・・・』
心底憔悴しながらチェギョンはシンの車の助手席に乗り込んだ
さて・・・次回10話で
一旦このお話を完結といたしましょうか。
なんだかホント・・・お別れしなきゃならない方がいるのは
切ないわ。