その日シンに送られて帰宅したチェギョンは、悲喜交々の表情でフォーマルドレスのまま
母スンレの淹れてくれたお茶を飲み大きな溜息を吐いた
『ふぅ~~~~・・・』
『どうしたの?チェギョン・・・そんなに深い溜息を吐いて。
ガンヒョンちゃんが結婚したから寂しいの?』
『確かにそれもあるけど・・・。あのねお母さん・・・シン君に逢ったの。』
『シン君って・・・あの時の男の子?』
『うん・・・』
『一体どこで?』
『ガンヒョンの結婚式。』
『えっ?まぁ・・・それは奇遇ね。でも一体なぜ・・・』
『新郎の友人だった。』
『もしかしてチェギョン・・・大人になったシン君は期待外れだったの?』
『ううん。思っていたよりずっと素敵な人だった。』
『まぁ~だったらなぜそんな浮かない顔をしているのよ。』
そんな母娘の会話を聞いて、父のナムギルは口角を上げ呟く
『じゃあ・・・いよいよ玉の輿・・・』
父の無遠慮な言葉が、チェギョンは癪に障って仕方がない
『お父さん!もっと現実を見て!私がどう足掻いたってあの名高イ・グループ後継者の玉の輿に
乗れる筈ないでしょ!』
『だってチェギョン・・・あちらのご両親はお前の事をとても気に入ってくださっているだろう?』
『それはシン君がいなくて寂しかったからよ。きっとこの先おば様からお誘いなんて来ないよ!』
『そうかぁ・・・』
落胆する父のナムギル・・・本気で玉の輿に乗れると思い込んでいたようだ
自室に入って着替えながらチェギョンは考えた
(そっか・・・ひょっとしておじ様が私を採用したのも、シン君の強い味方になってくれると信じたからなのかも。
だったら頷ける。何のコネも実績も無い私が、イ・グループ傘下のワールド遊園地のデザイン部に入れるなんて
普通だったら考えられないもの・・・)
だとしたら・・・やはりチェギョンの立ち位置は、シンの心強いサポート役である事・・・
チェギョンは今一度自分の立場を強く自覚し、入社式に臨む覚悟を決めた
入社式を無事終え其々の社員が配属先に向かう中・・・チェギョンはワールド遊園地代表であるシンに案内され
イ・グループの本社ビル七階に連れていかれた
『あの・・・代表・・・』
『なにか?』
『オフィスはこのビルの中にあるんですか?』
『あぁそうだ。』
『ワールド遊園地の中にあるのかと思っていました。』
『くくっ・・・まさか。このビルの七階フロアーがワールド遊園地に配属された社員のオフィスだ。
私の部屋は一番奥にある。何かあったら訪ねてきてほしい。』
『はい。わかりました。』
シンは一番奥の部屋に向かい、チェギョンはデザイン部と書かれた部屋をノックした
そしてデザイン部の部屋に入ると、意外とラフな服装の社員たちが仕事をしていた
チェギョンが声を掛けられずに困っていると、一番年配の社員が席から立ち上がりチェギョンに笑顔を向けた
『ようこそデザイン部へ!』
その声で社員たちは仕事の手を止め、チェギョンに目を向けた
最初声をかけてくれた人は、デザイン部の社員たちにチェギョンを紹介してくれた
『新卒採用のシン・チェギョンさんだ。芸大を優秀な成績で卒業している。』
『(えっ❓優秀?・・・そんなことないんですけど・・・)シン・チェギョンと申します。どうぞよろしくお願いいたします。』
最初に挨拶してくれた人はデザイン部の部長だった
部長はその部屋の中にいる社員を、チェギョンに紹介して回った
『チェギョンさんにはワールド遊園地のメリーゴーランドのデザインを担当して貰おうと思う。』
『えっ?メリーゴーランドですか?』
『そうだ。』
(なんと因縁深いメリーゴーランド・・・)
そうチェギョンが心の中で思った時、部長はチェギョンに指示を出した
『今からワールド遊園地に行ってメリーゴーランドのデザインを考えてきて。
今日はそのまま直帰して構わないから。』
『はい。』
『これは入園証だよ。』
手渡された入園証には自分の名前と部署名・顔写真が入っていた
それとタクシーチケットを受け取ったチェギョンは、意気揚々と部屋から出て行った
イ・グループのビルから出ていこうとするチェギョンは・・・自分の名を呼ぶ声に呼び止められた
『チェギョンちゃ・・・君!』
振り向いてみるとそこには、このグループの会長であるイ・ヒョンが手を振っていた
『会長・・・こんにちは。』
『入社の感想はどうだね?』
『とても大きな会社で夢のようです。』
『そうか。どこに出かけるんだね?』
『あ・・・ワールド遊園地に視察に行ってきます。』
『そうか。頑張ってくれたまえ。』
そして小声でイ・ヒョンは言った
『家内が近いうちに遊びに来て欲しいと言っていたよ。』
『ありがとうございます。またお邪魔させていただきます。』
秘書が背後に控えているイ・ヒョンはそういうと笑顔で去っていった
その後ろ姿を見送りながらチェギョンは思う
(もうシン君が返ってきたから寂しくない筈なのに、おば様・・・遊び位来いだなんてなぜだろう?)
ビルを出たチェギョンはタクシー乗り場に急いだ・・・
早く現地に行かないと日が暮れてしまい、細部にわたって確認することなどできなくなるからだ
タクシー乗り場が見えた時、また・・・誰かがチェギョンを呼び止めた
『シン・チェギョンさん・・・どこに行くんだ?』
『代表。あ・・・ワールド遊園地です。』
『そうか。じゃあ行先は一緒だ。乗って行ったらいい。』
『えっ?ですが・・・』
ここはイ・グループビルのすぐ近くだ
万が一社員にそんな場面を見られたら、詮索をされ余計な誤解を受けるに違いない
『タクシーチケットは会社が発行している者だ。俺は経費節減に一役買うだけだ。くくっ・・・』
『代表がそう仰るのでしたらお言葉に甘えて・・・』
チェギョンは辺りを気にしながら車の助手席に乗り込み、シンはチェギョンがシートベルトを付けたことを確認し
車を発進させた
『なんだか会社では堅苦しいな。くくっ・・・』
『だって・・・立場が違うでしょう?新入社員が恐れ多くも代表にタメ口きいていいと思う?』
『まぁそれもそうだな。』
『シン君は何をしに行くの?』
『新代表になった挨拶だな。』
『そっか・・・従業員もアルバイトも多いから大変ね。』
『まあな。この間はすまなかったな。』
『ん?なにが?』
『あまり人に言えないことを吐き出した。』
『くすっ・・・いいよ~♪友達になるって言ったじゃん♪』
『あぁ。どうぞよろしくな。俺には敵も多い。会長の後継者を狙っている人間がたくさんいるからな。』
『うん。仕事の愚痴も心の闇も吐き出していいよ。』
『ありがとう。帰りは遅くなりそうなのか?』
『ううん。明るいうちにメリーゴーランドの確認をして帰るつもり。』
『送っていくからメリーゴーランドの前で待ってろ。』
『え~~いいよぉ。』
『馬鹿だな。ワールド遊園地から君の家までタクシーーを使ったらいくらかかると思うんだ?
あくまでも経費節減だ。』
『そっか。だったら甘えちゃおうかな♪』
本音を言ってしまえば、シンがまだ忘れられない女性の話など聞くのも辛い
だが・・・シンはチェギョンが写真だけで四年間も片想いしていたなんて知りもしないだろう
(シン君の傍にいて色んな心の内を聞いて、少しずつ自分の立場を受け入れて
そして気持ちの整理をしなくっちゃ・・・)
シンが別れた女性の事を吹っ切ることができても、その空いた場所に自分が入り込む余地はないことを
チェギョンは理解していた
なんだかとても寒いですね・・・
四月に入ってからの寒さで
黒法師たちが・・・危険な状態になり
マジカルキューティーは撃沈しそうな気配。
もう泣けてしまいます~~!!
コメントのお返事は明日にさせていただきます。
どうぞよろしく❤