それから私は毎日同じ場所で、そのバスが来るのを待っていた
今はガンヒョンを待っているというより、彼の顔を一瞬だけでも見たいが為だった
ガンヒョンは私が夢中になっている≪バスの君≫を一目見ようと、バスから降りると必死になって
バスの乗客を見ようとしたけど、彼を見つけることはできなかった
『チェギョンアンタ・・・本当にそんなカッコいい人がバスに乗っているの?
しかも王立高校の生徒でしょう?目の錯覚なんじゃない?』
確かに王立高校の生徒がバス通学だなんて・・・あまりない事なのかもしれない
でも・・・間違いなく彼は毎日バスに乗っている
目の錯覚であるはずがない
それから数日経った頃・・・バスの中の彼は私に向かって微笑んでいるような気がした
ん~~ひょっとしたらそれこそ…目の錯覚や私の妄想なのかもしれない
だって・・・話したことも無い私に微笑んでくれる筈がない
でもその妄想や目の錯覚は、翌日からも続いた
寝ても覚めても頭を過るのは彼の事ばかり・・・
そんな私をガンヒョンは『アンタ・・・腑抜けちゃって・・・』と私を揶揄した
でも・・・名前も知らない。話したことも無い。ただ一日のうちほんの数十秒
見つめ合っているだけの憩いの時間は、もうすぐ終わってしまう
卒業式の日・・・本来なら喜びと希望に満ちていい筈の日なのに、私の気持ちはとても重かった
なぜなら・・・彼にもう逢えなくなってしまうから
よくよく考えてみれば、話したことも無いのだから彼の年齢さえ知らない
最後の日のバスが・・・やってくる
彼はやはりいつもの場所に立っていた
もう・・・逢えない・・・これが最後・・・
そう思った瞬間・・・私の目から涙が溢れだす
私は溢れる涙を拭うことも瞬きすることもできずに、いつも通り立ち尽くしたまま彼の姿を見送った
さようなら・・・私の儚い想い・・・
自転車を傍らに置いたまま立ち尽くしひたすら泣く私を、ガンヒョンはまるで引っ張るような剣幕で
学校に連れて行った
ガンヒョンに引っ張られなければ、私は卒業式さえボイコットしその場で立ち続けたのかもしれない
****************
芸校前のバス停にいつも立っている彼女・・・
俺はその彼女に遭う為だけに、満員バスの試練にも耐えた
何年生なのだろう・・・
その答えは卒業式の日にわかった
彼女のお団子頭のリボンが、卒業式の日は赤かったからだ
同級生か?今日は同じように卒業式なのか?
そう心の中で問い掛けるも、彼女に届く事はない
今日でこのバスに乗るのもきっと最後になるだろう
彼女に逢えなくなってしまうのをとても残念な想いで彼女を見つめていた時、
彼女の瞳から涙が零れ落ちるのを見てしまった
胸が・・・締め付けられる
『すみません。降ります。』
満員バスの中でそう言ってみるも、既に走り出したバスの運転手に届く筈はなく
俺も身動き取れないまま、いつもの王立高校最寄りのバス停でバスを降りた
卒業式の間中・・・俺の脳裏には彼女の泣き顔がちらついて他の事は考えられなかった
卒業式が終わり、迎えの車に乗り込んだ時・・・俺は運転手のキムさんに芸校に立ち寄ってくれるようお願いした
車の中で・・・しばらく生徒が帰っていく様子を凝視する
だが残念なことに、卒業生はすでに帰った後のようだった
確か・・・芸校の同系大学進学率は80%だと聞いた
もしかしてもしかしたら…彼女は同系大学に入学してくるかもしれない
俺は落胆する気持ちを奮い立たせ、大学で彼女に遭えるかもしれない期待を胸に抱いた
そして待ちに待った入学式の日・・・俺は意気揚々と自分で車を運転し、芸大に向かった
大学の駐車場の一角にズラリと並んだ高級車の群れは、俺と共に外部受験し、見事芸大に合格した
いつものメンバーだ
『よぉシン♪今日はまた一段と決まってるね~~♪』
『ギョン・・・お前もそのスーツ、様になっている。くくっ・・・』
『なんか芸大って女の子のレベル高そうだね。』
『ファン・・・物欲しそうにあまり見るなよ。』
『インじゃあるまいし~そんなことしないよ。ははは・・・』
意気揚々と入学式の会場に向かう、王立高校出身の俺達・・・
その中でもひときわ背の高い俺は、会場に入るなり目だけを動かし、いるかもしれない彼女を探す
制服姿ではないからなかなか見つけにくい
もしかして他の大学に進学したのでは?期待が落胆に代わろうとした時・・・俺の視線の先の人物に目を奪われた
あっ!あれはひょっとして・・・
高校生の時のように髪をお団子にせず、髪を緩くウエーブさせた彼女を俺は人ごみの中で見つけた
『ギョン・・・すまないが先に席に着いていてくれ。』
『えっ?うん分かったよ~♪』
ギョン達と一緒では話しかけにくい
俺はみんなと別れて一人で彼女の元に歩み寄っていく
薄いピンクのスーツを纏った彼女は緊張からか俯いて、その場にぽつんと立っていた
彼女と3メートルの距離に到着した時・・・俺はその場に立ちじっと彼女を見つめた
あのバス停で彼女が最初俺にしたように・・・ひたすら彼女が気づくまでじっと・・・
俺の視線に漸く気がついたのか、彼女は俯いた顔を上げた
あぁ・・・やっぱりあの彼女だ。可愛いな
お団子頭もキュートだったが、今はすっかり大学生らしくなっている
彼女は俺に気が付き、信じられないものを見たように目を真ん丸にした
口元は何か言いたげに小さく蠢いている
一歩また一歩と俺は彼女に向かって足を進めた
そして彼女の前に立った時・・・俺は言った
『はじめまして。俺は王立高校出身のイ・シンと言います。君は?』
彼女は非常に緊張した面持ちで答えた
『わ・・・私は芸高出身のシン・チェギョンです。』
俺が口角を上げて微笑むと、彼女も満面の笑みを俺にくれた
ただ見つめ合うだけの関係は・・・もう終わりにしよう
Bus stop 完
こんな感じの~恋の始まりがあってもいいじゃないですか~❤
恐縮です。本日ちょっと慌ただしく
リコメができません。
明日させていただきますね~♪