もうすぐ高校の卒業式・・・
その日私は親友のガンヒョンがいつも乗り降りするバス停で、いつも通り彼女を待っていた
ガンヒョンとは中学からの大親友だ
歯に衣を着せないガンヒョンの物言い・・・竹を割ったような性格は、私の性に合っていた
あっ!バスが来た
私はバスの乗客の中からガンヒョンを探そうと目を凝らす
その時・・・バスの中ほどで立っていた王立高校の制服を着た男の子から目が離せなくなった
なんて・・・綺麗な男の子なんだろう・・・
不覚にも私はその彼を見つめたまま身動きができなくなってしまった
私のそんな視線に気が付いたのか、彼も私をじっと見つめている
あ・・・バスが行ってしまう・・・
走り去っていくバスの中にいる彼に視線を向けたまま・・・私は首だけを移動させていた
『チェギョン・・・アンタ、何をぼぉ~っとしているのよ!』
『えっ?あっ・・・ガンヒョンおはよう~♪』
『魂抜かれたみたいな顔をしちゃって・・・朝から一体どうしたの?』
『ガンヒョンの・・・乗ってきたバスにすごく素敵な人がいた・・・』
『すごく素敵な人?気が付かなかったけど・・・』
『真ん中あたりに立っていたんだって。王立高校の制服着てた。』
『王立高校の生徒?まさかぁ~~!王立高校って言ったら、お坊ちゃまお嬢様の通う高校よ。
バス通学なんかするわけないでしょ!』
『でもぉ・・・確かにいたんだって・・・。ねっ♪ガンヒョン~~明日から真ん中あたりに乗ってみて♪』
『無理言わないでよ。あの時間帯のバスは混み合っているのよ。真ん中あたりまで行けるはずないわ。』
『そっか~~・・・』
でもきっと明日も待っていれば彼に逢えるかもしれない
ガンヒョンを待つのが日課だった私に、新たなる楽しみができた
それから毎日・・・私はバス停で彼に逢えるのを心待ちにしていた
卒業式の・・・その日まで・・・
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卒業を目前に控えたある日、母が俺に言った
『シン~悪いんだけど、明日から暫くバツ登校して貰える?』
『あぁ?なぜだ?』
『キムさんが・・・ご実家のお母様の具合が悪くて、里に戻ったのよ。
もしどうしても嫌なら私が送迎するけど?』
それは勘弁してほしい
この歳になって母親の送迎だなんてありえない
『あぁわかった。明日からバスで行くよ。』
『卒業式前には戻ると言っていたから、それまで我慢して頂戴ね。』
『あぁ。』
バス登校ななんて・・・正直初めてのことだった
ある意味卒業までの短い間、小さな冒険をするような気分だった
あまり外部と接触する機会がない俺には、刺激的だった
そんな風にお気楽に考えていたのが間違いだった
朝の登校時間はすなわち通勤ラッシュと重なる
満員のバスの混雑は辟易して・・・帰宅したら明日から送ってくれと、母に言おうと考えていた時だった
俺が降りるバス停の5つ手前のバス停で、女の子が自転車を傍らに置いて誰かを待っていた
その子と・・・目が合った瞬間、俺は目が離せなくなった
丸い顔に大きな目・・・色白でお団子頭の彼女
その彼女は俺の顔をじっと見ている
どこかで逢ったことがあるのか?いや・・・記憶にない
停車したバスが再び動き出した時・・・彼女は俺に視線を合わせたままずっと俺を見送るかのように想えた
あの制服は芸高だな?
とても印象的なそんな彼女のおかげで、俺は満員バスでの登校を続行することにした
親友のチャン・ギョンは、俺がバス登校してくるのがよほど面白かったらしい
『シン~一体どうしたんだよ。お前がバスで学校に来るなんてさ~♪』
『あぁ。運転手が休みを取っているんだ。』
『そっか~うちの車をお前の家に向かわそうか?』
余計なことはするな
『いやいい。』
『なぜ~~?満員のバスなんてお前の性格じゃあうんざりだろう?
ほら・・・制服だって、今日はヨレヨレだ。』
そんな風にもみくちゃになりながらも、そのバスに乗る楽しみを見つけてしまったんだ・・・とはギョンにはいわない
そんなことを言った日には、あいつもバス通いすると言い出しかねないからな
そうして俺は…毎日バスが停車して彼女が見えなくなるまでの一分にも満たない時間が、
何よりも幸せな時間となった
数日後・・・運転手のキムさんが仕事に復帰し、俺を送っていくと言ったが・・・俺は迎えだけを頼んで
行きはバスに乗ることを選んだ
卒業式はもうすぐ
彼女に遭えるのもあとわずかだ
どこにでもあるような出逢いを
書いてみました~(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
多分数話で終わる予定です。