部屋の中に充満したケーキの匂いを消す為、空気の入れ換えをしようと窓を開けた俺
部屋の中に爽やかな風が入り込む・・・
その途端
『クシュッ・・・はっ・・・ハクション!!』
シマッタ・・・部屋の隅に置かれた空気清浄機がフル稼働する
まるでレッドゾーンまでアクセルを踏み込んだような勢いで、花粉を除去しようとしている
やはり・・・この時期に窓を全開にするなど自殺行為だった
窓を閉めよう
一国の皇太子が重度の花粉症だなんて・・・人に知られるわけにはいかない
東宮の中でも知っているのはコン内官とチェ尚宮だけだ
もちろん国一番の名医から薬を処方してもらっているので、何とか人に気づかれずに毎日を過ごしているが
皇太子がマスクをして過ごすなんて、格好の悪い真似はできないだろう?
チェギョンのお返しも出来上がったことだし、俺は意気揚々と作ったチョコレートケーキをふたつ箱に入れ
自室の冷蔵庫の中にしまった
今日焼いたチョコレートケーキは10個
ひとつは俺がスポンジの状態で味見をし、ギョンに味見でひとつチェ尚宮にお礼でひとつ消費したから、
チェギョンにふたつあげてもまだ半分の6個が冷蔵庫で眠っている
もしチェギョンが俺のケーキ作りの腕に感動し、もっと食べたいというなら・・・全部あげてもいいと思っている
だが万が一そう言わなかったら残りの5個は・・・一体どうしたらいいんだ?
執務室の廊下が・・・なんだか騒がしくなる
きっとチェギョンが帰ってきたに違いない
俺は何食わぬ顔で書類に目を通している・・・ふりをする
そして執務室にチェギョンが顔を出す
『ご苦労様・・・』
俺がそう言ったらチェギョンは執務室から出て行ってしまった
正直・・・チェギョンが執務室から出て行ってくれてほっとした
なぜなら・・・この時期の外から帰ってきた人間は、俺にとっては何よりの天敵なのだ
花粉を全身に纏って帰ってくるんだからな
そろそろチェギョンが着替えを済ませただろうという頃、俺は一旦自室に戻り冷蔵庫の中で冷やしておいた
俺様特製ケーキを持ってチェギョンの部屋に向かった
チェギョンは俺が作ったチョコレートケーキを無心で食べている
どうやらバレンタインに俺にくれたケーキは、捨てられたと思い込んでいたらしい
いくら俺でも・・・そんなことはするはずがない
不器用な見た目同様・・・お前も感情の伝え方が不器用だからな
そしてそういっている当人の俺は・・・手先は器用でも感情表現は最大級に不器用だ
『味は・・・美味しかった・・・』
俺がそういった瞬間、チェギョンはふたつ目のチョコレートケーキを持ったまま俺をじっと見つめた
『美味し・・・かった?』
『あぁ・・・』
『本気で言っている?』
『あぁ・・・』
『ホントのホントの本当に?』
何度俺にその恥ずかしい言葉を言わせるつもりだ?
『あぁ。美味しかった。』
するとチェギョンは今まで俺に見せたことも無いような、蕩けそうな笑顔を浮かべた
か・・・可愛い・・・
『美味し・・・かった?へへへ…へへへ~~♪』
もういいだろう?今食べているチョコレートケーキの感想を聞かせろ
『ところでチェギョン、それは・・・美味しいのか?』
『うん。もう~頬っぺたが落ちそうなくらい美味しい~~♪
あ・・・そうだ。どこのお店で買ったのか聞いてくれってガンヒョンから頼まれたんだった。
一体どこで買ったの?』
どこで買ったかだと?くくくっ・・・
『どこでも売っていない。』
『えっ?じゃあ・・・料理長さんが作ってくれたとか?』
『いや・・・手作りは手作りだが作ったのは料理長ではない。』
『じゃあ一体誰が?あっ!チェ尚宮さん?』
『いいや・・・俺だ。』
『お・・・俺とは?』
俺は人差し指で自分の胸を差し、口角を上げた
『うっそだ~~!だってお料理なんかしたことも無いだろうシン君が、
こんな綺麗でしかも美味しいケーキが作れるなんてありえない。』
完全に疑って掛かるチェギョンに、俺は表情を崩さずそのままの姿勢を続けた
するとチェギョンは、明らかに落ち込んだ表情で俯いてしまった
あぁ・・・いじけダヌキだ・・・
確かに同じチョコレートケーキを作ったのだから、嫌がらせと取られても仕方がない
だが俺はチェギョンを落胆させたかったわけじゃない
チェギョンは暫くその姿勢のままじっとしていたが、漸くその眉が八の字になった情けない顔を上げた
『ふぅ・・・』
『別に落ち込むことはないだろう?人間誰だって得手不得手があるんだ。
得意な方がすればいいことだ。』
『だって・・・』
『それより俺はこのチョコレートケーキの正直な感想が聞きたいんだ。』
『ほっぺが落ちるほど美味しいってさっき言ったよ。』
『ふたつじゃ足りない程か?』
『もちろん。このふたつじゃあ・・・食前のデザートにしかならない。もっと食べたい~~♪』
チェギョンが俺の望む言葉をくれた
『俺の部屋に行けばまだある。』
『本当?いこっ!』
良かった。もっと食べたいと言ってくれなかったら、俺が大変な目に遭うところだった
俺とチェギョンは席を立ちあがり、俺の部屋に向かっていった
そして冷蔵庫の中にある5つのケーキを見せた
『一体・・・いくつ焼いたの?』
『10個だ。失敗したら…と思って大目に焼いておいたが、失敗することはなかった。』
『ふぅっ・・・』
『全部お前のだ。』
『えっ?ヒョリンには・・・?』
『ヒョリン?ちょっと意味が分からないな。これはお前の為に焼いたんだ。』
ヒョリン?そう言われてみればチョコレートをもらった気がする
気がする程度だ
『あのさ・・・シン君、これからは一緒にお庭を散歩したり、夜は一緒に映画を鑑たりできるかな?』
『映画は構わないが、庭の散歩は勘弁してくれ。』
『・・・一緒に歩くのがそんなに嫌?』
『そうじゃない!この時期は窓を開けるのも辛いんだ。』
『ん?どうして?窓を開けた方が気持ちがいいのに・・・』
『・・・重度の花粉症でな・・・』
『えっ?・・・じゃあお庭の散歩を拒まれたのは?』
『そう言う理由だ。』
『じゃあ・・・東宮の至るところに空気清浄機があるのも?』
『あぁその通りだ。』
『そうだったんだ。じゃあ・・・食事の時…あまり話をしてくれなかったのは?』
『食事中にくしゃみを連発するような真似をしたくなかったからな。早く食事を済ませて自室に戻った。』
『そうだったんだ。言ってくれればよかったのに・・・』
そうだ。言わなければわからないことも多い
言わずに気づいてもらおうと願うのはあまりにも傲慢だ
『じゃあいつか・・・子供が生まれてケーキを焼く時には、一緒に手伝ってくれる?』
『こ・・・///子供?///あ・・・あぁ・・・』
それにはまず・・・お互いをもっと尊重し合わないとな
『食事に行こう。』
『うん。くしゃみしてもいいから、これからはいっぱい・・・おしゃべりしよう。』
『あぁ。』
自室を出て食堂に向かいながら、俺の左手はチェギョンの右手を握り締めた
『歩くのが遅いぞ。』
『へへへ♪』
チェギョンは少し照れ臭そうにしながら俺の左手を握り返した
これからは言えなかったことも何でも話そう
秘密なんか作らずにおこう
そうしないと一番近くにいる大切な人を見失ってしまう
さて・・・いつか生まれてくる子供の為に、ケーキ作りの腕を磨いておこうかな。くくくっ・・・
ちょっとシン君のイメージとは
違っていたかもしれません。
たまにはいいよね。
こんなシン君がいても(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
明日は長男君の卒業式なので
お話の更新はできません。
まだ次のお話の構想が固まっていないので
もうちょっと待っててね❤