王立幼稚舎に通うシン・チェギョンは、その日いつも以上に幼稚舎に行くのが嫌だった
『いい?チェギョン・・・皇太子殿下に、これをお渡しするのよ。』
『え~~~っ!ろくに話したことも無いのにぃ?』
『あなたは殿下の許嫁なのよ。こういうことはちゃんとしておかないとね・・・』
『ぷぅ~~ん・・・』
渋々幼稚舎バッグにそれを入れ、迎えに来た送迎バスに乗り込んだチェギョン
『あ~ガンヒョンおはよ~~♪』
『おはよチェギョン。』
『あれあれ~~どうしたの?なんかご機嫌悪そうだね~~。』
『めちゃくちゃ機嫌悪いよ。ギョンの馬鹿がさ・・・チョコくれなかったら
明日から幼稚舎に来ないってゴネるんだもん。』
『それで?ギョン君に持ってきたの?』
『仕方ないから持ってきた。』
ガンヒョンは無造作に袋に入れただけのハート型チョコをチェギョンに見せた
『本当だ・・・』
『アンタは?アンタも持ってきたんでしょう?』
『うん。お母さんに持たされて仕方なく・・・』
思えば民間人のチェギョンとガンヒョンが、わざわざ二人しか乗らない送迎バスに乗って王立幼稚舎に
通っているのが不思議だった
近所には歩いて通える幼稚園がたくさんあるのだ
身の丈に合っていない立派な制服を着せられて、通わなければならない理由が今一つ理解できない
『でもさ・・・どうして王立幼稚舎に通わなきゃならないんだろう・・・』
『アタシはアンタんちのおじさんとおばさんに頼まれたからよ!チェギョン一人じゃ心配だからって・・・』
『そうだっんだぁ。ごめんねガンヒョン・・・』
思えば幼心に他の園児とは生活レベルが違うのを感じていた二人
それもすべてチェギョンが皇太子と親しむためにとの、皇室側の配慮だった
王立幼稚舎に通う子供たちは送迎バスになど乗らない
みんな自家用車で幼稚舎に乗りつけるのだ
そして二人だけを乗せた送迎バスが・・・王立幼稚舎に到着する
チェギョンとガンヒョンは弾むような足取りでバスから降り、幼稚舎の園庭に入っていった
建物の入り口では待ちきれなかったチャン・ギョンが、ガンヒョンを待っていた
『が・・・ハンヒョン♪持ってきてくれた?』
『っつ・・・なによアンタ。朝っぱらから・・・』
『持ってきて・・・ないの?』
『あるよ。ほら!』
ギョンの手の上に小さな包みが載ると、ギョンは満面の笑みで叫んだ
『わぁ~~い♪』
民間人のガンヒョンが小銭を握りしめて近所の店で買ってきた小さなチョコ・・・
それを受け取ったギョンは、チャン航空の後継者とは思えないほどの喜びを全身で表した
『ったく・・・ギョンはホント馬鹿・・・』
そう呟きながら微笑むガンヒョンを、チェギョンは少し羨ましく思った
それからチェギョンはこの幼稚舎バッグの中に入った物を渡す為シンを探す
すると探すまでもなく、既にシンは女子園児の真ん中にいた
『殿下・・・これどうぞ❤』
『このチョコレートは最高級品なんです~♪』
皆上流階級の息女らしく、高級メーカーのラッピングが施された箱にたどたどしい文字で書いた自筆の手紙を添え
シンの手の上に置く
そしてそれらの物は高く積み上げられ、困り果てたシンを見兼ねたコン内官が紙袋に入れた
『みんな・・・ありがとう。』
そういい建物の中に入って行こうとするシンを、チェギョンは引き留めた
『殿下っ!』
『なんだ?』
『あの・・・これ・・・』
チェギョンは幼稚舎バッグから出したチョコレートをシンに差し出した
『お前まで・・・っつ・・・いらない。』
『えっ?でも皆のは・・・・』
『いらないと言ったらいらない。自分で食べろ。』
『えっ・・・』
それだけ言い残すと建物の中に入っていったシン・・・
チェギョンは途方に暮れすごすごとチョコレートの包みを幼稚舎バッグにしまった
そして園庭で紙袋を持って立っていたコン内官の元へ行くと話しかけた
『コン内官さん・・・』
『なんでしょうチェギョン様・・・』
『殿下の車って確か一杯ありますよね?』
『一杯・・・とは?』
『殿下が帰る時、車が一杯並んで走ってます。』
『ああ・・・イギサの車ですか?はい。ございます。』
『帰りに乗せてください!』
『は?』
『宮殿に行くんです。』
『宮殿にお越しになると仰るのですか?』
『はい。皇后様に逢いに行くんです。』
『かしこまりました。皇后様に連絡しておきましょう。』
そうしてその日の午後・・・チェギョンはまんまとイギサの車に乗り込み宮殿に向かった
もちろんコン内官は皇后にそのことをお伝えすると同時に、シン家にも連絡を入れておいた
曲がりなりにも皇太子殿下の許嫁だ
それなりの対処をするコン内官だった
イギサが運転する車の中で、チェギョンは窓の外を見つめ心の中で叫んでいた
(皇后様に言いつけてやる~~!私のだけ受け取らないなんて・・・ひどすぎる!)
幼心に沸々と沸いた怒りをそのまま皇后にぶつけようというのだから、幼いながらに度胸が据わっている
宮殿に入っていったチェギョンの乗った車は、本殿前に停まりチェギョンは車から降りた
そして本殿の中に入っていき、そこにいたイギサに声を掛けた
『皇后様に逢いに来ました。』
『はい、伺っております。シン・チェギョン様・・・』
皇后付きの尚宮に案内され皇后の部屋に通されたチェギョンは、臆することなく皇后に頭を下げた
『皇后様こんにちは。』
『チェギョンやよく来たな。まぁお掛けなさい。』
『はい!』
チェギョンはソファーによじ登り、そこから体勢を変えて漸く腰掛けた
『ほほほ・・・チェギョンにこのソファーは高すぎるな。それで・・・どのような用件で来たのだ?』
『殿下が・・・幼稚舎の他の女の子のチョコは受け取ったのに、私のだけ≪いらない≫って言うんです。
だから皇后様に告げ口に来ました。』
チェギョンの怒っている表情を見て、皇后は可笑しそうに笑った
『ほほほ・・・そうだったのか。チェギョンや・・・園児から貰ってきたチョコレートをシンが食べると思うか?』
『えっ?食べないんですか?』
『もちろん食べない。』
『え~~~っ・・・』
『それはなぜかというとだな・・・シンはこの国の皇位継承者だ。外から持ち込まれたものなど
口に運ぶことはない。』
『じゃあ・・・あの袋にいっぱいのチョコレートは?』
『焼却処分される。』
『そうだったんだ・・・。でもっ!私のは食べてくれてもいいと思います。許嫁・・・ですよね?』
『ああそうだ。だが・・・今シンは歯科にかかってるのだ。いくらチェギョンがくれたからといって
チョコレートを口にすることはできぬ。』
『歯医者さんに?』
『ああそうだ。そなたも虫歯で葉がボロボロになったシンなど、嫌であろう?』
『嫌です!でも・・・これどうしよう・・・』
チェギョンは幼稚舎バッグの中から取り出したチョコレートの包みを大事そうに抱き締めた
『それは・・・私がもらっておこう。』
『えっ?皇后様が?』
『ああ。私が美味しくいただくとしよう。それで許して貰えるか?』
『はい!』
チェギョンはソファーから飛び降りると、皇后の前にチョコレートを置いた
『どうぞ。』
『ありがとうチェギョン。だがチェギョン・・・この中に愛は入っておるのか?』
『あい?』
『ほほほ・・・今はまだわからなくてよい。あと10年もしたらわかるようになるだろう。』
そんな日がやってくることを願わずにいられない皇后
まだ幼すぎてそのチョコレートに愛情など微塵も感じない皇后だったが・・・
シンが食べることができないチョコレートを、チェギョンの物だけ受け取らなかったことは
チェギョンのチョコレートが他の物と一緒に焼却処分されることを阻止したかったのではないか・・・
そんなシンの気持ちを信じたい皇后だった
バレンタインのお話なのに・・・
シン君がほとんど出てこない~(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
後編はこの二人の十数年後の姿を
お見せいたします❤