翌年・・・それぞれの企業では来年度の新卒採用試験が行われた
イ財閥も他の企業と同様に、優秀な人材を得るべくまず筆記試験を行った
採用人数に対し30倍もの応募があった超人気企業である
重役たちはまず筆記試験で成績優秀者を絞り込み、合格者は役員面接を受けた後
例年通り採用者を決定することとなった
応募者には一次試験の合否が郵送された
その封書が届く予定の日、ヒョンは会長室に息子のシンを呼び出した
『会長・・・お呼びでしょうか?』
『シン・・・そこに掛けなさい。』
『はい。』
応募者にとってイ財閥はかなり人気のある財閥だと知っていたシンは、少し顔を強張らせ父の向かいに腰掛けた
もちろん筆記試験の合否が出たのは耳に入っていた
恐らくチェギョンの合否について呼んだのだろうと、シンは神妙な面持ちで父を見つめた
すると父はふっと笑みを零し、シンに一枚の書類を見せた
『なんですか?これは・・・』
『我が財閥の筆記試験合格者名簿だ。成績順に記されているから見てみなさい。』
『はい・・・』
1番から順にシンは目を通していく
すると・・・
『あっ・・・チェギョンの名が・・・』
強張っていたシンの表情は、安堵しようやく笑みを浮かべた
『どうだ?すごいだろう?』
思わず自分の事のように自慢げに話す父に、シンは顔をくしゃくしゃに歪め胸の辺りを叩いた
『はぁ・・・すごいですね。あの人数の中で10人以内に入るなんて・・・』
『これには重役たちも感心していたよ。筆記試験問題の傾向など、私でさえ知らされなかったからな。』
『ですがまだ面接が残っております。』
『ああだがチェギョンさんなら大丈夫だろう。きっと堂々とした態度で面接に臨んでくれるはずだ。』
『そうなることを祈っています。』
『今日あたり一次試験の合格通知が届く筈だが、先にシンには知らせておこう。』
『ありがとうございます。きっと彼女も相当緊張していると思うので、聞いていないことにします。
自分で合格通知を受け取って知る方が感動が大きいと思いますので・・・』
『ははは・・・そうか。シンの思った通りにしたらいい。面接は二週間護だ。応援してやりなさい。』
『はい。』
四年生になりほぼ毎日のようにこのビルに出勤しているシンは、チェギョンの面接を隣室から
密かに見守ることとなりそうだ
その日・・・アルバイトが終わったチェギョンを乗せ、食事を一緒にしてから家に送り届けたシンは
チェギョンから電話がかかって来るのを待っていた
やはり・・・シンは筆記試験に合格したことを秘密にしていたのだ
家に到着して玄関に入ったところで、チェギョンからの電話が鳴り響いた
『シン君~~♪今どこ?』
『今…家に入ったところだ。』
『そっか~よかった。あのねっ!筆記試験に合格したよ~~♪』
『そっそうか~それは良かったな。』
『シン君?実は知っていたでしょう?』
『あぁ?なぜ・・・』
『だって今日のシン君はすごく上機嫌だったから。』
『あ・・・あぁ実は、今日会長室に呼び出されて聞いた。』
『もぉ~~教えてくれればよかったのにぃ~~!』
『自分で開けて合格を知った方が感動するだろう?』
『うん。まぁね。でね~面接は二週間後だって。』
『あぁ頑張れよ。ただでさえ存在が知られているんだから。地味な格好でな。』
『もちろん~~♪もうガンヒョンと一緒にスーツ買ったんだ。低いヒールの靴も買ったの~♪』
『そうか。ハイヒールに慣れちゃったからって低いヒールで転ぶなよ。』
そこまで話している間に、リビングのドリンクバーでコーヒーを淹れソファーにシンは腰かけた
すると電話の内容を聞いていたのか、はたまたヒョンから報告を受けたのかミンがシンの隣に座った
『シン~~ちょっと電話代わって♪』
『チェギョン・・・お母様が話したいそうだから電話を代わる。』
『うん~~♪』
ミンはシンのスマホを受け取ると徐に叫んだ
『チェギョンちゃんやったわね~~♪』
そのあまりの大声にシンはたじろいだ
『おば様~やりました。第一関門突破ですぅ~♪でもまだ面接が残っていますから、そちらの方がドキドキです。』
『な~に~を動じているの。チェギョンちゃんの成績は10位以内に入っているのよ。』
『えっ?本当ですか?信じられない。』
『お勉強を頑張った甲斐があったわね。』
『はい~~♪』
『面接もその調子で頑張るのよ。』
『はい!頑張ります!!』
ミンは心の中で≪私も応援に行きますからね~~♪≫と叫んでいた
一週間かけて行われる二次試験の面接・・・本日はチェギョンの面接日だ
時間になるまで一階のカフェでアルバイトに勤しんだチェギョンは、ロッカールームで着替えを済ませ
ガンヒョンと責任者の女性・・・他スタッフに背中を押され、面接会場である会議室に向かった
会議室の廊下ではリクルートスーツに身を包んだ学生たちが、椅子に腰かけ名前を呼ばれるのを待っていた
チェギョンの前に名前を呼ばれた人たちは、実に堂々とした態度で笑みを浮かべ会議室に入っていく
段々・・・胸の高鳴りが大きくなるチェギョンは、膝の上に置いた両手をぎゅっと握り締めた
会議室から女子学生が退出し、いよいよチェギョンの番だ
≪シン・チェギョンさん・・・中へお入りください。≫
そう名前を呼ばれた瞬間・・・周りにいた学生たちは揃ってチェギョンの顔をじっと見つめた
(あ~ここまで知れ渡っているとは・・・)
だが決して縁故でここまで来たのではない
そのことは会長をはじめとする重役たちも承知の上だ
『失礼いたします。』
会議室の中に入っていったチェギョンは、その場で自己紹介をする
『韓国芸術大学4年シン・チェギョンと申します。』
『どうぞおかけください。』
ズラリと並んだ重役の真ん中には、いつも温厚な表情の会長がチェギョンに向かって少しだけ口角を上げた
それはまるでチェギョンに≪落ち着いて頑張りなさい。≫と励ましているようだった
その頃隣室ではシンとミンが薄く開けた扉の隙間から面接の様子を見守っていた
『お母様・・・そんなに扉を開けては、誰かに気づかれてしまいます。』
『別に構わないでしょう?あなたはこの財閥の後継者で私は会長夫人なんだから~~!』
面接の様子を覗きながら、シンと密かに話しているミンの耳に・・・ある重役からとんでもない質問が
投げかけられた
『シン・チェギョンさんはお付き合いされている方がいらっしゃるそうですが、この企業は結婚までの腰掛で
務まるような企業ではありません。甘い気持ちで応募したのであればここで辞退なさることをお勧めしますが・・・』
ミンとシンは耳を疑った
チェギョンにとんでもない質問・・・そして助言をしたのは、企業の中でも温厚な性格で有名な副社長のソンだった
ミンは目を吊り上げて密かに抗議する
『ソンさん・・・なんてこと言ってくれるの~~!仮にもシンの恋人よ。無礼にも程があるわ。』
もぉ~出て行って懲らしめてやらなくちゃ・・・』
今にも大きな音をたて扉を開けて文句を言い出しそうな母に、シンは窘めるように言う
『お母様・・・ソン副社長は、そんな人ではありません。何か考えがあってのことではないかと・・・』
『むぅ~~ん・・・』
怒り心頭の顔色で何とか踏みとどまったミン
その時・・・チェギョンがその問いに答えた
『結婚までの腰掛にするつもりはありません。ですがいずれ私も結婚を考える時が来ると思います。
こちらの企業は女性が結婚や出産に寛大だと聞いています。出産後産休を消化した後
職場復帰ができるとても女性に働きやすい環境を、整えてくださっているとお聞きいたしました。
ですので・・・腰掛などで終わらず結婚しても堂々とお仕事ができる素晴らしい環境だと信じております。』
棘のある言い方をしたソン副社長の顔が緩んだ
『ほぉ・・・なかなか我が社の事をよく調べておられる。その通りです。出産を経て職場復帰した女性社員が
ここにはたくさんいますよ。ここがあなたの活躍できる場所になることを祈っています。
お疲れ様でした。』
『どうもありがとうございました。』
落ち着いた表情でチェギョンは部屋を退出した
『お母様・・・ソン副社長は、チェギョンがどう受け答えするか知りたかったんですよ。
意地悪な質問を投げかける人材も、面接官の中には必要不可欠ですから・・・
見てください。お父様とソン副社長の満面の笑みを・・・あのお顔を見れば質問の意図が分かりますでしょう?』
『ええ。早合点しなくて本当に良かったわ。ねっ?シン・・・好感触じゃないの?』
『ええ。何人か面接をこうやって見てきましたが、チェギョンが一番堂々としていた気がします。』
二人が覗いていたのを知っていたヒョンは、何日もも続く面接の疲れを感じさせない良い笑顔で
隣室に続く扉に向かって目配せをした
それから二週間後・・・チェギョンの元にイ財閥本部ビル販売促進部への採用内定通知が届いた
というわけで
次回40話でこのお話を完結させていただきます。
詰め込みます(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!