その日深夜に帰宅した夫をミンは出迎えた
『お帰りなさいあなた。ずいぶん遅かったんですね。』
『ああ。付き合いで飲まされてしまってね・・・』
ミンはグラスに冷水を入れると夫に手渡した
『どうぞ。』
『ああ、ありがとう。』
ヒョンは美味しそうにその水を飲み干し、ネクタイを緩めながらリビングのソファーに腰掛けた
『はぁ・・・少し飲み過ぎてしまったな。』
『お疲れのところ申し訳ありませんが、少しご相談したいことがあるんですの。』
『なんだね?言ってみなさい。』
『実は・・・チェギョンちゃんとそのお友達のガンヒョンさんが、あの例のファミレスのアルバイトを
クビにされてしまったんです。』
『えっ?一体なぜ・・・ガンヒョンさんというのは、あの店に行った時・・・最初に声をかけてくれた子だろう?』
『そうです。その通りです。』
『あの子もとても感じのいい子だった。色んな女性を面接してきた私が言うくらいだ。
何か腑に落ちない点があるな。』
夫も自分と同じ意見だと知り、ミンは深夜であるにも拘らずテンションを上げた
『でしょ~~♪信じられないことが起こったんですの。』
『一体なにが起こったんだい?』
『なんでもあのファミレスの本部に、クレームが入ったそうなんですよ。』
『ああ・・・そうか。んっ?なんだか話が見えてきたぞ。』
『えっ?何の話が見えてきたんですか?』
『今日は経済界の集まりだったのだが、その後主要メンバーで会員制のクラブに行ったんだ・・・
そこで私とチャンさんが手厚い接待を受けたわけのだよ。
しかもその時の中心は≪うちとチャン家の息子たちとの縁組について≫だった。』
『な・・・なんですって~~!』
ミンは声を荒げ夫の話に食いついた
『私とチャン家の当主の周りを他のメンバーが取り囲み、酌をしながら自分の娘を売り込んできたんだ。
≪大学でもご一緒させていただいている≫と言っていたが・・・つまりシンやギョン君の
取り巻きだった娘達の親が、とにかくしつこくてね。』
『それで・・・あなたは何て仰ったんですか?チャン家の御当主はなんと?』
『もちろん・・・≪そういうことは親が関与する事ではない≫と言ったよ。チャン家の当主も同じ考えだった。』
『それでよろしいんですよ。』
『ところが・・・問題はそこから先だ。』
『なんですの?』
『シンとギョン君が一般人の娘にたぶらかされていると言い出してね・・・』
『ま・・・まぁ~自分の娘を棚に上げてなんということを・・・』
『もちろんそんなことはないと、私もチャン家の当主も言ったよ。ところが・・・
≪その娘達がアルバイトしている店に行ったのですが・・・接客態度の悪さと言ったら・・・≫
そんなことを言い出したのだ。』
『えっ?ミン家やホン家の当主がファミレスに?あり得ないですわ。
行ってもいないのに言いがかりをつけたのかもしれません。』
『だろうな・・・それにチェギョンさんとガンヒョンさんは私達が≪ばあや夫妻≫として
行ったにも拘わらずとても良い接客をしてくれた。』
『では…そのクレームを入れたというのは・・・その中の誰かということになりますでしょうか?』
『そうとは限らないが近い人間だろう。』
『私・・・調べてみますわ。いざとなったらあなたの名前を出しても構いません?』
『ああ。構わないよ。可哀想に不当な解雇をされたのだろう。しっかり調べてあげなさい。』
『そう致しますわ。あっ!相談というのはこれからなんですの。』
『はは・・・もしかして二人に良いアルバイト先を見つけてほしいというのかね?』
『あなた~流石ですわ♪その通りです。』
『明日会社に行って検討しておこう。チェギョンさんとガンヒョンさんには。大学の講義が終わったら
私のところに来るように言ってくれるかね?』
『解りましたわ。シンに伝えておきます。あなた・・・感謝いたしますわ。』
その翌日・・・朝食の時間に、ヒョンはシンに言った
『シン・・・今日、チェギョンさんとガンヒョンさんを連れて、会社に来なさい。』
『お父様・・・アルバイト先の件ですか?』
『ああそうだよ。気負わなくていい。一応形だけ履歴書は持ってきてくれるように言ってくれ。』
『もちろんです。夕方になりますが伺わせていただきます。行く前に連絡いたします。』
『そうしてくれ。』
シンは朝食もそこそこにチェギョンとギョンにその旨をメールした
チェギョンはすぐに準備に取り掛かり、ギョンからメールをもらったガンヒョンもすぐに面接用のスーツを
身に着けた
家族が出払った後…時間を見計らってミンは昨日調べたファミレスの本部に連絡を入れてみる
『恐れ入りますが責任者の方に電話を繋いでいただきたいんですが・・・。
私ですか?イ財閥のミンと言ったら、恐らく話が通るかと思いますが・・・』
電話を受けた女性は慌てた様子で、すぐに責任者に電話を代わった
『お電話代わりました。イ財閥の奥方様がどのような用件でしょうか・・・。』
明らかに緊張極まりないと言った声色の責任者・・・恐らく今まで電話を受けた中で、一番の大物なのだろう
『そちらの店舗で≪芸大前店≫というお店がございますわよね?』
『は・・・はい。ございます。あの・・・何か店のスタッフに≪また≫不手際でもあったのでしょうか・・・』
語るに落ちるとはこのことだ
責任者は思わず≪また≫と以前もあったことを匂わせる発言をしてしまった
もちろんそれを見逃すミンではない
『また?今…またと仰いましたわよね?』
『あ・・・はい。』
『ということは以前にもこのような電話があったのかしら?』
『えっ?あ・・・つい先日、その店のスタッフの接客態度が悪いと、お客様からお叱りを受けたものですから・・・』
『お客様?その方をご存知なの?』
『あ・・はい。ミン貿易のお嬢様だと仰っておいででした。』
(ミン貿易のお嬢様って言ったら・・・あの破廉恥な格好がお好きなミン・ヒョリン?やっぱりね・・・!
やらかしてくれたわね~~!)
『そう。ミン貿易のお嬢様がそんなことを?』
『は・・・はい。その時のスタッフ達は解雇いたしましたが、今回はどのような・・・』
平身低頭の責任者をミンは追及した
『それって・・・ちゃんと調べた上で解雇なさったんですか?』
『いえ、ミン貿易のお嬢様が仰るのですから、間違いないと判断いたしまして・・・すぐに解雇を申し渡しました。』
『そう。その店の店長さんは何か仰いませんでしたか?』
『そんなはずは絶対にないと食い下がりましたが、本部にクレームの電話が入った以上
そのままにしておくわけには・・・』
『あなたは責任者失格ですね。』
『は?』
『あの店でシン・チェギョンさんとイ・ガンヒョンさんが、どれだけよく働いていたか知りもしないで
解雇を申し渡すなんて言語道断ですよ。お客さんに聞いてみたらいいんですわ。
あの二人がいなくなってどれだけ残念がっているお客さんがいることか・・・
それにスタッフも働き者の二人が急に解雇されて、どれだけ困っているか・・・。
ちゃんと調べた上であの二人には相応の謝罪をお願いしますね。
いわれのないクレームでどれだけ傷ついているか・・・人の上に立つ人間だったら、
その辺り少しは考えるべきですわ。』
『は・・・はい。わかりました。ちゃんと調査をし・・・店に復職・・・』
『いえ結構よ!このような人事管理をするお店で、あの二人は働かせられません。
私の夫の下で働くので結構ですわ。』
『は・・・はぁ申し訳ございません。』
『とにかくきちんと調べた上で謝罪はお願いいたしますよ。』
『は・・・はい。かしこまりました。』
『では失礼。』
電話を切った後ミンは、ドリンクバーでアイスのロイヤルミルクティーを注ぐと、その場で一気に飲み干した
『ミン・ヒョリン~~~~!見てないさいよ~次に逢った時には許しておかないわ!』
いつも豪快に笑っているミンの憤怒の表情は・・・メイドたちを怯えさせるほどだった
そして・・・その日の夕方、大きな菓子折りと詫び状を持った本部の責任者は、チェギョンとガンヒョンの家に
それを届けたそうだ
ミン様怒りの鉄拳は・・・そのうち飛んじゃうかも~~♪
イ財閥での面接の様子は次回にね。
今日はウネちゃんのお誕生日だから
ヒョリンに相当意地悪してみた(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!