イ家の料理長を前にしミンから出された難題に、チェギョンは頭を抱えた
(え~~っ・・・おば様、ちょっと待ってくださいよぉ~~!
イ家の料理長さんって言ったら、恐らく三ツ星レストランのシェフ並みの腕前でしょう?
私はただ思い付くままに盛り付けただけで、そんなお方の前で盛りつけるなんて恐れ多い・・・
でも・・・おば様のあの期待なさっている目!
あの目に逆らえる筈はないよなあ・・・。え~~い思うままにやっちゃえ~~!女は度胸だ!)
出来上がった料理が並んでいる前で、チェギョンは皿を一枚取ると頭の中でイメージしてみる
(料理長さんの盛りつけは美しくて当然。あれは見ないようにしなくっちゃ。
おば様が私に期待しているのは、もっと違うもの・・・
セオリーなんかぶっ飛ばして私らしく盛りつければいいだけ・・・)
備え付けられた箸とスプーンを使い、チェギョンは今までにないほど真剣な表情で盛り付けに挑む
酷評されても構わない
これは自分の感性で盛りつけた作品だ
味は美味しいに決まっているので、チェギョンはただその美味しい料理を更に美味しく見せるよう
デコレーションすればいいだけだ
そう心に言い聞かせたチェギョンは、最後に肉料理にソースをかけ少し離れた場所に置かれている
クレソンを曽於横に添えた
料理長の盛りつけた皿には、クレソンが使われていないのを一瞬で見極めていた
『終わりました。』
盛りつけた料理の皿をミンの前に提示する
『どう?料理長♪』
ミンは満足した顔で料理長にそれを見せた
料理長は目を丸くしてその皿をじっと見つめた
そして口角を上げた
『盛り付けのセオリーに囚われない斬新さがあります。何よりも・・・体裁を考えない、それでいて料理に
つい手を伸ばしたくなる作品です。とても学ばせていただきました。
色使いも実に素晴らしい。これは・・・坊ちゃんのお付き合いされている方だからと、
お世辞を言うわけではありません。今日はこのチェギョンさんの盛りつけを参考にし、
料理を出させていただきましょう。』
酷評を受けるのではと思ったチェギョンだったが、殊の外好評価をもらい非常に戸惑ってしまう
『あの・・・料理長さん、素人が本当にすみません。ただ・・・アルバイト先で
いつもジレンマしに陥っているもおですから
思ったままにやっただけで・・・なんだか本当に恐縮です。』
『アルバイト先とは・・・どのようなレストランですか?』
『普通のファミレスなんです。』
『では…マニュアル通りに?』
『その通りです。』
『ははは・・・それはジレンマに陥るでしょう。
いやいや・・・学んだことがないと言っても、なかなか侮れない盛り付けです。
心底学ぶべきものがあったと思っているんです。』
『本当ですか?・・・恐縮ですぅ・・・』
料理長を前に申し訳ない気持ちになっているチェギョンに、ミンは笑顔を向けた
『さぁさぁチェギョンちゃん・・・そろそろ主人が帰って来るわ。メインディッシュの盛りつけ・・・頼んだわよ~♪』
『えっ・・・料理長さん、私がしても構いませんか?』
『ええ構いません。旦那様にも自慢してください。』
『は・・・はぁ・・・』
メインディッシュの盛りつけを必死にしながら、チェギョンはイ家の当主が帰宅することに緊張を募らせていた
なぜなら・・・≪ばあやさんのご主人≫としてしか逢っていないからだ
『ちょっとシン・・・あなたは邪魔よ。』
『あ?あぁ・・・』
気が付くとチェギョンはメインキッチンの中でメイドさながらに働いている
それを見ていたシンは、ミンにクレームをつけた
『お母様・・・これではメイド扱いじゃないですか!』
『まさか!そんな失礼なことはしないわ。
でもぉ・・・あなただってチェギョンちゃんの盛りつけたメインディッシュが食べたいでしょう?』
『そ・・・それは・・・そうですが・・・』
『メインディッシュだけよ。後は料理長さんがやってくださるわ。
あなたはチェギョンちゃんのパパラッチはもうやめて、席にお着きなさい。』
『はい・・・』
必死に写真を撮っていたことをミンに咎められ、シンはバツが悪そう位一旦自室にカメラを置きに戻ると
再び階下に降りていきダイニングテーブルに腰掛けた
『チェギョン!』
やがてメインキッチンからチェギョンが出てくると、シンはチェギョンに手招きをする
『こっちだ。ここに掛けろ。』
『うん。でもぉ…配膳はお手伝いしなくていいのかな。』
『それはこの家のプロがやってくれる。任せておけばいい。』
『わかった♪あのね~料理長さんに盛り付けを褒められたんだよ~~♪』
『あぁ。見ていた。』
『えっ?シン君・・・見てたの?』
『あぁ。料理長を前に堂々とした態度だなと思った。』
『堂々とだなんて~~ただの開き直り。だって・・・盛り付けのセオリーなんか何も知らないもん。
ただ美味しそうに見えるか・・・見た目が綺麗か・・・それだけなんだよ。
おば様の期待が大きかったからちょっと心配だったんだけどね。』
その時・・・どうやら玄関にイ家の当主イ・ヒョンが帰宅したらしく、メイドやミンが慌ただしく出迎えに出て行った
『シン君・・・私も行った方が・・・いい・・・のかな?』
『お前はお客さんだからいい。今のところはな。』
『うん。』
もちろんシンの思い描く未来には、ヒョンや自分を迎えに出るチェギョンの姿が浮かんでいたが
まだ交際を始めてほんの一週間・・・そんな言葉を口にし、チェギョンの心の負担を大きくしたくはなかった
やがてダイニングルームにヒョンとミンが入ってきた時、シンとチェギョンは席から立ち上がった
『お父様、お帰りなさい。お疲れ様でした。』
『おじ様・・・お邪魔しております。あのっ・・・店にお越しいただいた時は、大変な失礼をしてしまいました。』
困惑した表情のチェギョンに、ヒョンは静かな笑みを浮かべた
『ただいま。チェギョンさん…そんなことは気にしなくていいんだよ。ミンが企てたことなのだから。
家内は悪い人ではないのが、少し悪戯好きでね。チェギョンさんもよく覚えておいてくれるかね?』
『は・・・はい。』
『さぁ座って食事にしよう。』
ヒョンが席に着きミンやシンが席に腰掛けた後、チェギョンは漸く席に着いた
やがてメイドたちが次々と料理を運んでくる
ミンは早速夫に今日の目玉を紹介することにする
『あなた。本日のメインディッシュはチェギョンちゃんが盛りつけてくれたのよ。
いかがかしら~~♪料理長も驚く斬新な盛りつけなのよ。』
『ああ・・・本当だ。いつもの盛りつけとはずいぶん違うが、実に美味しそうだ。』
『でしょ~~♪私が見込んだだけあるでしょう?シンは・・・誕生パーティーの時に、このような盛りつけのお料理を
食べ損ねたのよ。代わりに私がいただいたけど~おほほほほ~~♪』
『それは残念なことをしたな。チェギョン・・・上手だな。』
『シン君まで~~上手だなんて言わないでっ!恥ずかしいじゃん・・・』
『ははは・・・ではお腹も空いたことだし頂こうか。』
『いただきます♪』
家族と息子の恋人が同席している食卓
シンはチェギョンが盛りつけた料理を、心から美味しいと思い口に運んだ
もちろんチェギョンがしたのは盛り付けだけで、料理の味は料理長の手柄なのだが・・・
『チェギョン・・・今度料理も作ってくれよ。』
『構わないけど・・・こんなすごいのは作れないよ。普通の一般家庭に出てくる料理しか・・・
あっ・・・この家では出ないような料理しか作れないかも・・・』
『くっ・・・それはものすごく期待してしまうな。楽しみにしている。』
『う・・・うん。わかった~♪』
時折席を立ち、皆思い思いの飲み物を調達し席に戻る
『ね~~少しは食事中も歩いた方が、お料理が美味しくいただけるでしょう?』
ミンはドリンクバーの存在をこの家にすっかり定着させてしまったようだ
和やかに食事をし、まるで家族の一員になったような気分のチェギョン
食事が終わった時、シンは立ち上がるとチェギョンに言う
『チェギョン・・・そろそろ送って行かないと・・・』
そんなシンの言葉にクレームをつけるのはやはりミンだtyた
『え~~っ…もう帰っちゃうの?』
『お母様…まだ付き合い始めたばかりですし、チェギョンはうちに来ると言ってきたんです。
あまり遅くなってはチェギョンのお父さんの心証を悪くしますから・・・』
そんな会話を聞いていたヒョンは、チェギョンに話しかけた
『ナムギル君はお元気かな?』
『はい、とても元気にしております。今回のお見合いの件では・・・相当驚いていたようですが・・・』
『はははそうか。どうぞよろしくとお伝えしておくれ。』
『はい。』
不満そうなミンにまた遊びに来る約束をし、チェギョンはシンと共にイ家を後にする
シンにとってみれば動く密室が・・・唯一母に邪魔されない空間なのだった
なんだか夕方になると曇って
風も強くなって涼しくなるんです。
まぁ過ごしやすいけどね・・・
でもね~~過ごしやすい時期になると
近所の農家さん・・・畑で木を燃やすんですよぉ。
農家さんは産廃扱いになって
可燃ゴミとして出せないから仕方がないけど・・・
結構・・・煙いんですぅ・・・
お洗濯物がスモークされるのは
閉口しますぅ・・・