クリスマス当日・・・シン家の娘五人は、母スンレの用意した洋服に着替えた
ガンヒョンは紺色のパンツスーツ姿、他四人は其々に似合いそうな色のワンピースを美しく着こなした
『お母さん…髪、これでいい?』
『あ~~もうお母さん、このワンピースちょっときつい~~!!』
『お父さんは用意できた?』
本日は両親共々皇帝陛下の元に伺う約束の日・・・宮殿に入ると娘達は其々の近い未来の伴侶と共に
皇帝陛下の元に並ぶのである
もちろんシン家の夫妻は、自分達の本当の娘が誰を選んだのかも熟知しており・・・
皇位継承者がどの皇子になるのかも、既に分かっていた
(こんなに賑やかなのも・・・これが最後かもしれないわ。)
母スンレは自身が出産した一年以内に、他四人の王族会の娘達を一手に引き受け、身を粉にして育て上げた
18年の歳月を思うと一抹の寂しさが胸に込み上げる
本日・・・他の娘達の両親も、皇帝陛下の元に招集されている
だがこれもすべて、先帝の願い・・・皇室の未来を最も信頼できる王族五家へ託した先帝の望み
この18年に渡る大掛かりな仕掛けは、すべてこの日の為にあったのである
『さあ、出掛けようか。』
父ナムギルの先導の元、夫婦と五姉妹達は宮殿へと向かって行った
宮殿の謁見の間・・・その前で其々カップルになった五組は、皇子の年の順に並びその中に入っていく
ファン皇子とスニョン・イン皇子とヒョリン・ユル皇子とヒスン・シン皇子とチェギョン・ギョン皇子とガンヒョン
皆穏やかな表情で三陛下の前に立つ
三陛下より少し下がった場所にシン家の夫妻と、他四夫妻が席に腰掛けその時を待っている
その顔触れは姉妹達にとっても初対面の顔ぶれではなく、何かの折には
顔を合わせた事のある夫妻ばかりだった
その状況に動揺する娘達は、何度となくその五夫妻の顔に目を向けていた
三陛下は微笑み、しっかりとカップルになった皇子と娘達を見比べた
『短期間の間に先帝の遺言を守り、見事全員が将来の伴侶を決めてくれた。
これから先帝の遺言状を読み上げる。
皆…心して聞くように。』
五人の皇子と娘達は神妙な面持ちで頷いた
【遺言状
皇子達よ。私の遺言に従って将来の伴侶を見極めてくれただろうか。
私の命により愛する娘と引き離してしまったイ家・ユン家・ミン家・キム家には本当に寂しい思いをさせたと思う。
だが、これも皇室の安泰の為と思い、どうか許して欲しい。
そして五人の娘達を立派に育て上げてくれたであろうシン家の夫妻に感謝する。
娘達の本当の名前をここに記する。
イ・ガンヒョン ユン・ヒスン ミン・ヒョリン シン・チェギョン キム・スニョンが、娘達の生まれついた時の名だ。
娘達の中でシン家のチェギョン嬢を選んだ者に、皇太子の称号を授ける。
時期を見てシン・チェギョン嬢を選んだ者は、兄弟の中で一番早く婚礼するがよい。
他の皇子達は相手の娘と相談をし、その婚礼時期を決めるがよい。
シン家の娘と結婚した者が皇位を継承はするが、他の皇子達もこの宮殿内に住まい
皇位継承者と共に皇室を守って欲しい。
慣例にある様に別の場所に住まいを移し。宮殿を出て行くことなどない様に。
そして娘達もシン家の娘の後押しをし、共に助け合いこの皇室を盛りたてて行って欲しい。
勢力争いや権力争いなど・・決して起こらぬ事。それが私の願いである。
姉妹として育った五人の娘なら、きっと仲良く終生幸せに暮らしてくれる事と私は信じている。
私の最後の贈り物が、皇子達にとって生涯の宝とならん事を祈る。】
先帝からの遺言状を一気に読み上げた皇帝陛下は、袖に控えていた王族会の五夫妻を
其々本当の娘の前に立たせた
『以上が先帝の遺言だ。先帝はこの宮で君たち全員が共に暮らし、共に協力し合うことを望んでいる。』
皇子の中でも一番動揺したのはシン皇子だった
まさか・・・自分が皇位継承者になろうとは夢にも思っていなかったのである
だがチェギョンを選んだ時点で、それはもう決められた運命
他の誰かではダメだったのだから、シン皇子はその運命を受け入れる覚悟を決めたようだ
不意にユル皇子が右手を挙げると、皇帝陛下と目の前に立つユン夫妻に問い掛けた
『陛下。発言させていただいてもよろしいでしょうか?』
『構わない。』
『シンが皇位継承者となった以上、シンは留学する事はないでしょう。
僕は昨晩・・・ヒスンと一緒に留学することを約束しました。
そして帰って来たら結婚をするつもりでいます。
ユン夫妻・・・一緒に留学しても構いませんか?
ヒスンと一緒に暮らせるのは高校卒業までのほんの数カ月になってしまいますが
それでも構いませんか?』
逆にヒスンの気持ちはどうだろうと、ユルは発言をしながらヒスンに視線を向ける
だがヒスンはユルに従うとばかりに微笑み、こくりと頷いただけだった
ユン夫妻もその様子を見て安心したように微笑む
『ユル皇子・・・確かに一緒に暮らせる時間は少ないかもしれません。
ですが私達夫婦は、何かあるごとにヒスンの成長を見守って参りました。
ユル皇子が一緒に留学したいとまで仰ってくださるのは、本当にありがたいことです。
私達に異存はございません。』
『よかったです。ヒスンとの約束が守れます。』
安堵するユル皇子・・・その様子を見ていた三陛下も、幸せな気持ちでいっぱいになっていた
二年という歳月・・・ユルはここから旅立っていくが、また再びこの場所に戻って来る
出産より随分早く母ソ・ファヨンの母体から救出されたユル
小さく保育器の中でしばらく管理されたユルが、これほどまでに立派な青年になったことを喜ばしく思う
(先帝・お義兄様お義姉様・・・私を褒めてくださいますか?)
感極まった皇后ミンは、密かに目頭を押さえるのだった
クリスマスの日・・・先帝の遺した最後の贈り物は、きっと皇子達にとって生涯の宝となるに違いない
その後は本当の両親を伴い、自分が住むであろう宮殿を案内して回る皇子と娘達
そしてそのまま・・・娘達は本来の家へと戻っていく
シン家に戻ってきたチェギョンは、両親と弟の四人でクリスマスの食事を摂った
『なんだよ~~、よりによってチェギョンが本当の姉ちゃんか?』
悪態を吐く弟のチェジュンに反論することもなく、その閑散としたテーブルを寂しそうに見つめるチェギョンである
18年共に暮らしてきた・・・血の繋がりはなくても通じ合う何かは存在する
途轍もなく寂しさに襲われ部屋に戻ったチェギョン
その時・・・スマホにシン皇子から電話が掛かって来る
『おい。元気にしているか?』
『ん~~あまり元気じゃない。なんだか寂しいよ・・・』
『くっ・・・お前が嫁いできたら、続々と皆嫁いで来るさ。まぁヒスンは留学から戻ってからだけどな。』
『そっか~~そうだね♪』
『しかし・・・お前がシン家の娘だったとはな。』
『後悔してる?』
『いや。責任は重いが、兄弟も助けてくれる。それにお前もいるだろう?だから大丈夫だ。』
『よかった♪』
『俺達の婚礼が一番早いんだ。今のうちに家族に甘えておけよ。』
『うん♪』
必然的に高校を卒業と同時に入宮することとなったチェギョン・・・クリスマスの夜、気持ちが高ぶって
なかなか寝付けなかったようである
『チェギョン!!一体いつまで寝ているの?そんなことで皇太子妃になれるのかしら・・・』
呆れ顔の母スンレに起こされ、寝惚け眼のチェギョンは階下に降りて行く
『おはよ・・・・』
『アンタ遅いわよ!!』
『チェギョン何時だと思ってるのよ!!』
『全く休みだと思うと、いつまでも起きて来ないのね。』
『早く座ってご飯食べな!』
『えっ?・・・』
昨日確かに本来の家に戻った筈の四人が、いつもの場所に腰掛け当たり前に用に朝食を食べているのである
『みんな・・・・あれ?昨日の事は夢?』
『何寝ぼけたこと言ってんの!!アタシ達はさっき来たの。お母さんの朝ご飯が食べたくってね~~♪』
『あ!”心配しないでよ。ちゃんと家でも食べてきたから。ふふふふふ・・・』
『一応気は遣うわけよ。へへへ・・・』
『チェギョンも早く食べなさいよ!』
信じられない想いでチェギョンは席に着いた
『嬉しい・・・。お母さんご飯頂戴っ!!』
『はいはい。』
呆れたように答えるスンレ・・・だが本当はスンレが一番、娘達の訪問が嬉しかったに違いない
(クリスマス画像はチング様から頂戴いたしました★)
皆様にとって・・・素敵なクリスマスになりますように・・・