迎賓館から王族の娘と親が去っていった後、皇太后は本殿に向かい陛下と皇后の元へ向かった
両陛下と向かい合いソファーに腰掛けた皇太后は、興奮冷めやらぬ様子で冷たいお茶を一気に飲み干した
『皇太后様・・・王族の処分はどのような結果になったのですか?』
『それがのぉ陛下よ、私達では考えもつかない結果となった。』
『考えもつかない結果とは・・・まさか極刑・・・』
『ほほほ・・・そうではないわ。今回の処分の主導権は未来の皇太子妃に委ねたのだ。』
『一体どのような処分を下したのですか?』
『王族の娘達には・・・お咎めなしだ。』
『なんと・・・チェギョンが王族の娘を赦したというのですか?』
『そうだ。但し条件付きでな。』
皇后はそんな皇太后の言葉に身を乗り出した
『皇太后様・・・その条件とは一体・・・』
『≪このことは皆さんへの貸しにしておきます。
皆さんの命綱は私が握っていると、常に肝に銘じてください。≫王族の娘達にそう言い放ったのだ。』
『なんと肝の座った娘なのでしょう。』
『私と太子という証人もいる。もう二度と王族の娘はおかしなことを考えまい。』
陛下もチェギョンが王族の娘に下した罰には相当驚いたようだ
『しかし・・・少し甘い罰ではないでしょうか。』
『いやいやそうではない。民間から皇室に嫁ぐチェギョンにとって、王族は何とも煩わしい存在だ。
その中に味方ができたのだから、賢い選択と言えよう。』
『ああ・・・確かにそうですね。』
『なんでもおまけでフワフワがどうしたとか言っておったが・・・その辺りは私にはわからぬ。ほほほ・・・』
『つまり先帝も太子も先見の明があったということですね。』
『そうだな。≪この国の母となる人間が・・・平気で人を殺めることができる人では困る≫とまで言っておった。
こうなることを見越しての約束だったのかのぉ・・・』
『きっとそうなのでございましょう。』
三陛下は微笑んで頷いていたが、先帝はともかくとしてシンに関しては先見の明があったからではない
あくまでも初恋貫徹だったのだ
そのあと三陛下は該当する王族達の地位をワンランク下げ、それ相応の財産を皇室が没収する旨を通達した
その日の訓育はあまり時間が取れず、今後学ぶものの説明だけにとどまった
チェギョンはシンと共に夕食を摂り、その後イギサに送られて自宅に戻っていった
チェギョンの自宅周辺はイギサが交代で警護に当たり、万全の対策を取っていた
その翌日、登校していったチェギョンをユルは待ち構えていた
『チェギョン・・・一体どういうこと?』
『えっ?何が?』
『王族がぞろぞろと僕のところにやってきて、大変だったんだから・・・』
『あ~ごめんね。でもそれはシン君がお嬢さん達に命じたんだよ。謝罪に行けって・・・』
『なんだか土地やら不動産やら・・・一財産出来ちゃったじゃないか。ただの捻挫でさ・・・』
『あはは~貰っておけば♪ユル君だってこの先・・・皇族としてお仕事する際必要になるだろうし・・・。』
『でも・・・チェギョン、僕は驚いたよ。よく・・・王族の娘達を赦したね。
その上見事な恩の売りっぷりだ。』
『えへへ・・・こうでもしないと民間人の味方になってくれる王族なんか・・・なかなかできないし。』
『ホント恐れ入ったよチェギョン。』
とても心配していた民間人から皇室への嫁入り・・・チェギョンなら権力に溺れることなく
皇室で清く正しくやっていけるかもしれないとユルは胸を撫で下ろした
そうしてシンとチェギョンの婚約から一週間・・・そろそろ周囲の騒ぎも収まってきた頃の昼休みに
チェギョンが言った
『シン君・・・今日ね、例のフワフワパンケーキの日なんだ~♪だから東宮に行くの少し遅くなるぅ~♪』
『なにっ?お前まさか一人で行く気じゃあ・・・』
『そのつもりだけど、シン君も一緒に行く?』
『馬鹿な・・・俺がそんな物・・・。王族の娘と一緒なんだろう?』
『うんそうだよ。皆さんのおごりだも~~ん♪』
シンは少し呆れながら視線をチェギョンからガンヒョンに向けた
『ガンヒョン・・・すまないが・・・』
『あ~それ以上言わなくていいわ。アタシにも一緒に行けって言うんでしょう?』
『その通りだ。頼めるか?』
『いいわ。アタシも付き合っってあげる。王族のお嬢様達が、どれだけチェギョンを敬うのかも見たいしね。』
そこで黙っていられるギョンではない
『じゃあ~俺も一緒に行くよ。だって~ガンヒョン・・・チェギョンは王族の娘達のおごりでも、ガンヒョンにまで
おごってくれるとは限らないし~それに俺も・・・そのフワフワに興味があるしね~♪』
『じゃあギョンとガンヒョン・・・すまないがチェギョンに付き合ってやってくれ。
もちろんイギサも同行しているから大丈夫だろうが・・・』
『もぉ~シン君、そんなに私が心配?』
『あ?あぁ・・・///』
漸く婚約に漕ぎつけた可愛い姫に、万が一のことがあってはと警戒を募らせるシンだった
放課後・・・チェギョンはギョンやガンヒョンと共に公用車に送られて、指定されたパンケーキの店に赴いた
店内に入って行くと6人掛けのテーブルに王族の娘達は集っていた
『こんにちは~♪』
『あっチェギョン様・・・』
口々にそう言い立ち上がって頭を下げる娘達・・・そのあまりの変わりようにはチェギョンばかりか
ギョンやガンヒョンも驚きを隠せなかった
チェギョンは王族の娘達と同席し、ギョンとガンヒョンはすぐ隣の席に着いた
『先日は寛大な処分をありがとうございました。』
『おうちの方は大変だったようですね。』
『いいえ・・・三次選考の時に罰せられた王族に比べたら、一生チェギョン様に頭が上がらない程
穏便な処分をしていただきました。』
『良かったです。』
娘達お勧めのパンケーキが次々と運ばれてくる
フルーツのたくさん載った物からアイスクリームやチョコレートがかかっているものまで・・・
見ているだけで胸焼けしそうな有様に、隣の席のギョンとガンヒョンは小さく溜息を吐いた
『ギョン・・・アタシ達は二人で一皿をシェアしましょう。』
『うん。そうしよう。』
どう見ても一枚の厚さが数センチはありそうなパンケーキが、一皿に三枚重ねとなっているのだ
『うわ~~♪どれもこれも美味しい~~♪』
それでもチェギョンはとても美味しそうにそのパンケーキを口に運ぶ
もちろん王族の娘達も同様だ
これは・・・一度気まずくなった王族の娘達との親睦会のようなものだった
そんな時一人の娘がチェギョンに問い掛けた
『チェギョン様・・・皇太后様のお話によりますと、元々皇太子妃はチェギョン様に決まっていたとか。
一体どうやって皇太子殿下を射止めたのですか?』
『射止めた?う~~んそれは・・・私は別に何もしていないんです。』
『えっ?でも・・・』
『ものすご~~く昔、一度だけお逢いしたことがあるらしいんです。
殿下はその時の気持ちを今までずっと維持してきた・・・
ただそれだけなんです。』
『じゃあ・・・チェギョン様は射止められた方なのですか?』
『は・・・はぁ///そういうことになります。』
『『ほぉ・・・』』
身分など全く関係ない
皇太子の強い想いを見た気がした王族の娘達だった
その日・・・訓育を済ませ、シンと共に夕食を摂ったチェギョンはいつになく食が進まなかった
それも当然だろう・・・王族の娘達とまるでクラスメートのように談笑しながら、パンケーキを食べ過ぎたのだから
『チェギョン・・・食が進まないようだが?』
『あ~~んパンケーキでお腹が一杯なんだよぉ・・・』
『まったく・・・おやつで満腹になるなんんて、子供と一緒だな。しかも・・・俺に手土産もない。』
『だってシン君は甘い物なんか好きじゃないって、いつも言うじゃん!』
『それにしたって・・・』
外出を許したシンだったが、やはり自分の知らない時間をチェギョンが過ごしてきたことが非常に面白くなく
少し不貞腐れてみる辺り・・・シンは余程チェギョンに惚れているらしい
なんだか梅雨入りしたのに・・・今日もすっきり晴れて
明日もどうやら日中は晴れの予報。
ひょっとして…空梅雨になるの?
それはそれで困るんだけどなぁ・・・