『私と・・・お茶ですか?』
チェギョンはチョ・ユラをじっと観察しながら思案していた
(この人って確か・・・あの三次選考会の時にピアノの演奏をしていた人だ。
もちろんここに来た理由は、私の動向を探りたいからなんだろうけど・・・
あの時・・・私に嫌味を言った女の子たちとは違う。
でも・・・この人だって王族・・・何を考えているのかわからない。用心に越したことはない。)
『ええ。シン・チェギョンさん・・・うちの車に乗ってください。
とても美味しいフワフワのパンケーキの店にご案内しますわ。』
フワフワのパンケーキに心が揺れるチェギョンだったが、よく知りもしない人の車に乗るのは危険極まりない
『ん~~フワフワのパンケーキにはとても惹かれるんですけど、そんなに時間が取れません。
すぐそこのカフェでどうです?そこなら自転車や車も停められるし・・・』
『それで構いませんわ。じゃあ参りましょうか。』
実に嬉しそうに微笑んだチョ・ユラは、運転手付きの車に乗り込むとチェギョンが指定したカフェに向かった
チェギョンも自転車を走らせそのカフェに向かう
もちろん後から一人のイギサが、ジャケットを着替えついてきているのを知っていた
万が一の時には助けを求められる
店に入って行ったチェギョンは、チョ・ユラの座っている席に向かった
『どうぞ♪』
『失礼します。それで・・・チョ・ユラさん、私に一体どのような話があるんです?』
『別に話というほどじゃ・・・。まず何か注文しましょう。私はミルクティーとレアチーズケーキを。』
『でしたら私は、カフェラテを・・・』
誘ってきた以上チョ・ユラのおごりだろう
メニューに載っている美味しそうなケーキを横目で見ながら、チェギョンは借りは必最小限にとどめておいた
注文した物が目の前に並んだ時、チョ・ユラはチェギョンに訪問の理由を話し始めた
『シン・チェギョンさんは・・・皇太子殿下や皇太后様と親しいんですか?』
『えっ?いいえ別にそんなことはありません。』
『でも・・・三次選考会の時、一緒に席でお食事なさってましたでしょう?』
『それはきっと皇太后様が、民間人の私が一人では可哀想だと思ったからじゃないでしょうか?
王族のお嬢さんたちはひとつのお席にいらっしゃいましたし・・・』
『でも・・・あなたはお友達も同行されたでしょう?親しいから食事の席を一緒にしたようにしか、
私達には見えませんでしたわ。』
この言葉は王族の娘の総意なのだろうとチェギョンは思った
『お言葉を返すようですけど、私は指示に従って皇太后様たちのお席にご一緒しただけです。
それに隣のテーブルには私の友人たちもいましたし・・・』
『ご友人も民間人でしょう?』
チェギョンの棘がむくむくと起き上がる
『民間人?ええ確かに民間人です。でもご存知ないようですから教えて差し上げますが
あの時一緒にいた友人のチャン・ギョン君は財閥の御曹司で皇太子殿下の御友人ですよ。
民間人だなんて・・・見下さない方がよろしいかと・・・♪』
『ふふっ・・・財閥の御曹司であっても、私達にとっては同じ民間人です。』
益々チェギョンの棘は起き上がる・・・今45度くらいの角度になっている
『そうやって民間人を卑下する考え方が、ひょっとしたら皇族の方々はお嫌いなんじゃないでしょうか~♪』
ゴクリとカフェラテを飲み干し、チェギョンはこんなくだらない時間を早く打ち切ろうとしていた
『シン・チェギョンさん・・・あなたは御存知ないでしょうけど、私たち王族の娘は幼い頃から
いつ皇族に望まれてもいいようにと教育を受けてまいりましたわ。あなたはそうじゃないでしょう?
きっと大変なご苦労をなさると思うんです。』
(なるほど・・・私から身を引けと言いたいわけね。)
『それはそうでしょう。元々立っている土俵が違いますから。
でも・・・一番大切なのは、国母にふさわしい人間性なんじゃないですか?
たとえ言葉遣いは丁寧でも、あなたの今仰っているいる言葉は私に対する脅迫にもとれますよ。
皇太后様も仰ったじゃないですか。≪決してほかの候補者の足を引っ張るな≫と・・・
聞いてらっしゃいませんか?』
『私は決してそんなつもりは・・・』
『そんなつもりはなくても、私には牽制しにやってきたように見えますよ。
それに・・・なぜ私をライバル視するんです?本当にライバル視しなきゃならないのは
お仲間である王族のお嬢さんなんじゃないですか?』
『私・・・これで失礼しますわ。どうやらあなたは・・・お話の通じる人じゃなさそうだから・・・』
チョ・ユラは最初に見せた優しい微笑みを一転させ、非常に不機嫌そうに席を立つと会計を済ませ去っていった
チェギョンはチョ・ユラが去って少ししてから店を出て、その後さりげなく自転車の様子を確認した
もし・・・ここで話をしている最中に、自転車に細工でもされたら事故を起こしてしまう
まさに疑心暗鬼にならざるを得ない状況のチェギョンだった
その日の夜・・・シンからいつも通り電話がかかってくる
『チェギョンか?』
『うん。』
『今日は王族の娘に待ち伏せされたらしいな。』
『あ・・・うん。イギサさんから聞いた?』
『あぁ報告を受けた。さすがに話の内容まで聞けなかったらしいが・・・一体何を言われた?』
『別に気にしなくていいよ。』
『いや・・・皇太后様も他の候補者の足を引っ張るような真似はするなと、苦言を呈していただろう?
何を・・・言われたんだ?』
『ん?あ~それはね・・・王族の娘は如何に大変かってことを訴えられただけ。』
『それだけか?イギサの話では・・・怒って席を立ったそうだが?』
『あ~ちょっと怒らしちゃったかも。あはは~だってさ・・・あまりに民間人を愚弄するから
民間人代表として闘っちゃったみたいな?ただそれだけ~♪
もう二度と逢いに来ないと思うよ。』
『だったらいいが・・・。とにかくもう誘われても行くな。』
『誘われないって。安心して。』
『あぁ。』
だがシンはやはり不安でならなかった
イギサにチョ・ユラの動向に目を光らせるようにと指示を出した
その週末・・・チェギョンは再び東宮を訪れた
前回持ち帰ったヒラヒラのひざ丈ワンピースを纏い、イギサとチェ尚宮の指示に従い東宮に到着するまで
シートに寝転んで向かったのだ
そして・・・チェギョンが東宮の建物に入ってものの五分も経たないうちに、チェ尚宮が応接室に慌ててやってきた
『殿下・・・王族のチョ様とそのご息女がお越しになっておりますが・・・』
『なにっ?一体何のために・・・』
まさかチェギョンが東宮に来ていることがばれているのではないかと不安に思ったシンは、
チョ親子の元に出向いた
チョ親子は満面の笑みでシンに頭を下げた
『皇太子殿下・・・ご機嫌麗しゅうございますか。』
『ここに一体何の用なのだ?』
『皇太子妃の最終候補に残った者として、ご挨拶にあがりました。』
『それは必要ない。わざわざ東宮にまで来て挨拶をするのは、少し姑息な手段ではないか?
皇太子妃選出に少しでも有利になるようにと考えての事か?』
『いえ・・・決してそんなつもりは・・・』
『だったら帰ってくれ。アポイントもなしに訪ねて来るのは、私には無礼極まりない人間にしか思えない。』
『失礼いたしました。』
シンの不愉快な表情に慌てて踵を返すチョ親子
シンは溜息を吐きながら、チェギョンの待つ応接室に戻っていった
ところがそこには・・・シン以上に不機嫌な顔をしたチェギョンがシンを睨みつけたのである
まぁ・・・喧嘩して仲良くなるってね❤
さて次回チェギョンの棘は
何度まで起き上がってしまうのでしょうか♪