まるでゆりかごで寝かしつけられた子供のように、ぐっすり眠ることのできたチェギョンの耳に
けたたましくノックの音が鳴り響く
<ドンドンドンドンドン!!>
(う~~ん煩いなぁ~~!)
心地よいまどろみを邪魔され、非常に不機嫌そうにうっすら目を開けた時・・・耳に飛び込んできた声
『おい!シン・チェギョン・・・朝食の時間だ。早く起きろ。』
(げっ!皇太子だ。わっ!もうこんな時間。急がなきゃ~~~!)
チェギョンはベッドから飛び起きると、パジャマを脱ぎ捨て鞄の中から着替えを出した
『すぐに向かいま~~す!』
『急げよ。皇太后様ももうホールに入るからな。』
『は~~~い・・・』
ドアの前からシンが遠ざかって行ったのを確認し、チェギョンは独り言を呟いた
『ったく・・・曲がりなりにも好きだといった女への起こし方?ムードもへったくれもありゃしないっ!
あ~そんなこと言っている場合じゃない。急がなきゃ・・・』
着替えを済ませたチェギョンは、顔を洗い乱れた髪をブラシで整えひとつに縛ると部屋から出て行った
『うおっ!』
部屋の前には昨晩この部屋まで送り届けてくれたイギサが、チェギョンが出て来るのを待っていた
『おはようございます。』
『あ・・・おはようございます。昨晩はお騒がせしました。』
『いいえ。よく眠れましたか?』
『はい。ぐっすり~♪ところで・・・昨晩逃走した人は捕まったのですか?』
『あ・・・いえそれが・・・。それより朝食の時間に遅れてしまいます。参りましょう。』
『あ・・・はい!』
それまで普通通りに話していたイギサが、犯人の事を問い掛けた途端妙に口ごもったことに
チェギョンは違和感を覚えた
ホールまでの距離は案内される程遠くない
案内されなくてもチェギョン一人で十分に行ける
だがイギサは不測の事態に備えてチェギョンの護衛に当たる
ホールに到着し中に入って行ったチェギョンは、自分以外全員が着席していることを知りその場で頭を下げた
『大変遅くなって申し訳ありません。』
そういって用意された席に歩いていく途中、王族の娘から嫌味を小声で言われた
『なあに?あの格好・・・それにいかにも寝起きって顔して恥ずかしくないのかしら・・・』
『全くよ。庶民には身分不相応な場所だって普通は辞退するはずでしょう?』
<しゅぴーん!!>
どうやらチェギョンはハリネズミモードに入ってしまったようだ
『お言葉を返すようですけど、私も辞退しようとしたのが許されなかったからここにいます。
文句があるならお妃選考委員会に仰ったらいかがです?
それに昨晩はおかしな人が、私の部屋に侵入して騒ぎになったので眠れなくって・・・
寝起きなのは当然です。』
『あら・・・あの騒ぎで眠れなくなったのはあなただけじゃなくってよ。私達だって迷惑被ったのよ。
立場は同じでしょう?』
『迷惑を被った?ふざけないで!あなたたちは何の被害も受けていないでしょう?私はね・・・』
チェギョンがそれ以上の事を言おうとしたのを皇太后が止めた
『シン・チェギョンさんや・・・まぁ気を鎮めて早く席に着きなさい。』
皇太后に諭され我に返るチェギョン
昨晩と同じように皇太后やシンと同じテーブルに着席した
皇太后はチェギョンが着席した時、その場に立ち上がり参加者に話しかけた
『皆さん・・・おはよう。昨晩はトラブルが発生したようで、皇室のイギサが待機していながら大きな騒ぎになって
申し訳なかったのぉ・・・
さて、お妃三次選考会も朝食を食べ終わる頃、船が港に到着し解散となる。
私は宮に戻って皇帝や皇后・お妃選考委員会のメンバーとゆっくりお妃を決定しようと思う。
そうだな。ひと月・・・いやふた月ほど決定まで時間を頂けるかのぉ。
ここに集まった皇太子妃候補の皆さんは、誰が皇太子妃になってもおかしくない精鋭揃いだ。
全員が選ばれるその日の為に、襟を正し我が国の女性の手本となるよう努めてほしい。
くれぐれも言っておくが、ここにいる候補者をライバルとみなし足を引っ張るような真似は慎む様に。
昨晩の事件もすでに調べが入っている。
万が一この中に関わった者がいる場合は、即刻お妃候補から排除させる。
その家族にも害が及ぶことを、どうかお忘れないようにな。
皇太子妃内定者には直々に連絡をする。そして皇太子の婚約発表をもって結果発表とする。
それまで大人しく待機していてほしい。私の話は以上だ。
さぁ皆さん・・・食事を始めておくれ。皆さんのおかげで楽しい船旅ができて感謝する。』
皇太后が着席したのと同時に、其々は食事を摂り始めた
皇太后は小声でチェギョンに話しかける
『チェギョンや・・・昨晩は大変だったそうだな。』
『あ・・・いえ。』
『怪我がなくて何よりだった。もうこのようなことが起こらないように、そなたには護衛をつけよう。』
『えっ?皇太后様・・・それは困ります。』
『そなたになにかあったら宮が困るのだ。いうことを聞いておくれ。』
『はい・・・』
そんな皇太后の口ぶりに、チェギョンはやはり≪皇太子妃内定≫の訓示は本気なのだと胃の痛くなる思いだった
食事を摂り終えた頃、船は港に到着した
ところがその場所には驚くほど多くの人間が船の到着を待っていた
どうやら警察車両と思しき車も数台停っている
もちろん王族の令嬢を迎えに来た車もずらっと並んでいた
参加者たちはゆっくりと船から降りていく
そして皇室警察官から何か言われるのではないかと、それぞれが困惑の表情をしている
『シン・チェギョンさん・・・』
いきなり一人の警察官からチェギョンは名前を呼ばれた
『はい・・・』
『すみませんが任意同行お願いできますか?昨日の事件の事で少しお話を伺いたいのですが・・・』
『えっ?私がですか?あの・・・私は被害者で・・・』
『ええ。それも重々承知しております。どうかご協力ください。』
『は・・・い・・・』
動揺極まりないチェギョンを目にし、シンが皇室警察官に話しかけようとした時・・・ギョンが間に入った
『すみませんが、私達も同行させていただきます。よろしいですね?』
『君は?』
『私はチャン・ギョンといいます。彼女はイ・ガンヒョンです。二人ともチェギョンの友人です。
私達が同行できないのなら、チェギョンの任意同行は認められません!』
シンが人前であるにも拘わらずチェギョンを庇ってしまうのは非常に拙い
咄嗟に気を回したギョンの条件だった
自分たちが付いていけば、シンもそしてチェギョンも安心するだろうと考えたのだ
『解りました。では後程お送りしますので一緒に警察車両に乗ってください。』
『はい。そう致します。』
財閥の跡取りで大人の世界に顔を出すことも多いギョンは、相手が皇室警察であろうと臆することはなかった
三人は皇室警察のワンボックスカーに乗り込んだ
シンは不安を募らせながら警察車両が去っていくのを見送った
『あの・・・一体何の為に私は警察に行かなきゃならないんですか?』
警察車両の中、そうチェギョンが問い掛けると警察官は神妙な面持ちで答えた
『シン・チェギョンさんの・・・歯形を取らせていただきたいんです。』
『えっ?歯形ですか?』
『はい。昨晩起きた事件の犯人に、チェギョンさんは嚙みついたそうですね?』
『あ・・・はい。つい自己防衛本能で・・・』
『そのことを咎めるためではありません。今朝早く少し離れた港に停泊しているモーターボートのすぐ脇で
男の溺死体が発見されたものですから・・・』
『『『えっ・・・』』』
三人は即座に凍り付いた
『ひょっとして・・・私がその犯人だと疑われているのですか?』
恐る恐るチェギョンが問い掛けると、警察官は即座に首を横に振った
『まさか!そうではありません。皆さんがあの船に乗っていたことは、皇室のイギサが証明していますから・・・』
『では・・・私の部屋に侵入した人と、その・・・溺死した人が同一人物かどうか確認するためですか?』
『はい。その通りです。だからご安心ください。今後は皇室警察もシン・チェギョンさんをお守りしますから・・・』
大変なことになったと三人は胸の中がざわつくのを覚えた
皇室警察での任意取り調べという名の歯形の採取はすぐ終わり、溺死体で発見された男は
チェギョンを襲った男と断定された
疲れ果てギョンの車で家まで送って貰ったチェギョン
チェギョンは気が付かなかったが、ギョンの車の後には皇室警察とイギサが護衛していた
『チェギョンお疲れ様・・・』
『なんだか最後に恐ろしいオチのある三次選考会だったよね。』
『アンタはそんな事忘れて早く休みなさい。』
『うん。二人共ついてきてくれてありがとう。』
『どういたしまして。また明日学校でね。』
『うん。また明日。』
ギョンの車は使命を全うし走り去っていった
その夜・・・自室であれじれと考えていた時、チェギョンの携帯が鳴り響く
チェギョンはその相手の名前に少し躊躇しながら電話を取った
『もしもし・・・』
『俺だ。』
『俺だって・・・なあに?皇太子・・・』
『警察で何か聞いたか?』
『うん、聞いたよ。あのさ・・・私、思うんだけど・・・私を襲った男の人って、計画に失敗したから
殺されたんじゃないの?』
『・・・そうだな。指示した人間が証拠を残した実行犯を、自分に累が及ばないように処分したと考えるのが
妥当だろうな。』
『ちなみにさ・・・この縁ってお互いに損になることばかりじゃないの?
私は命を狙われるし、皇太子は民間人を妃に選んだって一生言われるんだよ。考え直さない?』
『いや。考え直す気はない。俺の妃はお前だけだ。
もう二度とこんな恐ろしい目には遭わせない。だから観念して俺に歩み寄ってくれ。
とにかく明日の昼休み、皇太子ルームで待っている。
映像科に来ればチェ尚宮が案内してくれる。いいな!お前が皇太子妃になる事は決定しているんだ。
猶予期間を与えているのはお前への配慮だと思え。』
『あ~~はいはい。国民の義務でしたね~~!でも言っておくけど、本当にこんなことがまた起きたら
私はこの話・・・降りるから。だって・・・命はひとつしかないんだよ。』
『絶対にお前の身の安全は保障する。』
そう断言したシンではあったが、イギサが隣室で待機している皇室の船舶内でチェギョンは暴漢に襲われたのだ
今以上に気を引き締めないと・・・そう心に誓うシンだった
(お前がどう抗おうと昔の約束は必ず守る。その為にはチェギョンの警護を
寸分の隙もないようにしないと・・・。
俺の妃になるのはお前だけだ。チェギョン・・・)
ひとまずお妃候補に関しては表向き検討中の形をとっている中、二人は秘密の交際をスタートさせるのだった
ふぅちゃんの体調が回復しなくて
今日は点滴に行ってきました。
ふぅちゃんはぐったり疲れていますぅ。
明日ふぅちゃん通信をアップしますね♪