シンとチェギョンが15年ぶりに言葉を交わした日・・・帰宅したチェギョンは狼狽する母に出迎えられた
『チェギョン・・・あなた、お妃候補に選ばれたの?』
『へっ?どうして知ってるの?』
『こんな物が皇室から届いたからよ。』
スンレは大きな箱をチェギョンの前に置いた
『なにこれ・・・』
訝しく思いながらチェギョンはその箱を開けてみる
すると中にはミドル丈の美しいドレスと、どうやって調べたのかチェギョンのサイズのパンプスが入っていた
(つまり・・・民間人にはこんなもの用意する余裕はないだろうからという施し?
ったく・・・信じられない~~~!!)
ドレスを前に唖然としているチェギョンに。母スンレは尚も問い掛ける
『ねえ…どうなの?チェギョン・・・』
『うん。合格って通知が来たよ。でも安心して!私がこの先選ばれることはないから・・・』
やけに自信満々でそう言うチェギョンに、母スンレは余計不安を募らせた
ドレスの入った箱を持って自室に入ったチェギョン・・・
中に入っていたメッセージカードを見つめた
≪これをお召しになって宮殿で行われる二次選考会にお越しください。
当日は宮殿から迎えの車をよこします。≫
『はあ~つまり・・・民間人は宮殿に乗りつけるような車もないだろうから、わざわざ迎えに来てくれるって事?
なんかすごく・・・見下されてる気分だ・・・』
チェギョンはそんな気分を紛らわせるために親友のガンヒョンに電話を掛けた
『ガンヒョン?』
『なあに?チェギョン・・・』
『あのさ・・・二次選考会って迎えの車が来るんだって?』
『ええ。今日届いた書類にそう書いてあったわ。アタシの家でアタシを拾ってからアンタの家に行くって・・・』
『そうなんだ~。そっかガンヒョンが一緒なら安心。』
『まぁアタシ達が三次選考に残ることはないわよ。安心していいんじゃないの?
アタシの得た情報だと王立高校からも数名合格者がいるそうよ。全員王族の娘だけどね。』
『確かうちの学校の二年の女子は財閥の娘だったよね?』
『そうよ。もしかしたら・・・庶民はアタシ達だけかもね。』
『庶民のパワーを見せてやろうじゃないのぉぉぉぉ~~~~!』
なんだか妙に気合の入っているチェギョンに、ガンヒョンは一抹の不安を覚えた
そして週末・・・皇太子妃二次選考会の日がやってきた
着替えを済ませてキッチンに入ってきた娘を見て、両親は驚愕の声を上げた
『ちぇ・・・チェギョン、もうすぐ宮殿の車が来るんだろう?早く着替えないと。』
『そうよチェギョン・・・あのドレスはどうしたの?』
『えっ?あのドレス?着るわけないじゃ~ん♪あれはそのまま返却するよ。』
『だ・・・だからってその格好は・・・』
『今の若者ファッションをお妃選考委員会メンバーに見せてあげようかなって思ってさ~あはは~♪』
『チェギョン・・・いくら何でも宮殿に行くのにその格好では失礼・・・』
『お父さん!お母さん!私はね・・・不合格になるために行くの。だからこれでいいの!!』
両親が驚いたのも無理はない
オフショルダーのカットソーに両膝にわざと穴を開けたダメージジーンズ姿の娘
薄々、皇室の魂胆が読めている両親だったが、あまりにも小汚い感じのファッションに胃の痛くなる想いだった
『あ・・・迎えの車が来たみたい。ガンヒョンも乗ってるし~♪じゃあ行ってきま~~す♪』
先日家に届いたドレスの入った箱を抱えチェギョンは車に近づくと、運転席の男に声を掛けた
『すみません。シン・チェギョンですが・・・トランクを開けていただけますか?』
『は?はい・・・』
チェギョンは開いたトランクにその箱をしまうと、後部座席のガンヒョンの隣に乗り込んだ
『おはようチェギョン・・・ってアンタ・・・』
『あ・・・ガンヒョンは素直に言うことに従ったんだ~~!』
『ん?何のこと?』
『そのドレス・・・皇室から届いたんでしょう?私のは今トランクに入れたの。お返ししようかなと思ってさ。』
『えっ?あ・・・うん・・・』
一応話を合せているガンヒョンだが、チェギョンの話によるとチェギョンには皇室からドレスが届いているようだ
(一体どういうこと?アタシに来た封書にも、アタシを拾ってからチェギョンを迎えに行くなんて態々書いてあったし
なんか・・・あの合格通知もそうだったけど、チェギョンだけ特別扱いに感じるのはアタシだけ?
しかし・・・チェギョンのこの格好、大丈夫かしら。アタシも親が用意したドレスなんか着ないで
チェギョンに合わせればよかった。これじゃあチェギョン一人に恥をかかすことになる。困ったわ・・・)
ガンヒョンの苦悩を乗せ車は宮殿内の迎賓館の前に到着した
『シン・チェギョンさん・・・イ・ガンヒョンさんどうぞお降りください。』
内官と思しき男性に扉を開けられ、二人は降りていく
その場にいた宮殿に仕える人達は、一瞬チェギョンのその格好に目を奪われ、そして何事もなかったかのような
顔をした
(あ~もう・・・一体どうしたらいいのかしら。)
ガンヒョンの胸の内を知らないチェギョンは、トランクからドレスの入っている箱を取り出すと内官に託した
『すみません。シン・チェギョンと申しますがこれを≪お妃選考委員会の方≫にお返しいただけますか?』
『は・・・はい。承知いたしました。』
内官はその箱を抱えると、どこかに運んで行った
それを目の当たりにしたガンヒョンは胃の痛くなる思いだった
ここで万が一チェギョンのハリネズミスイッチを誰かが押してしまったら、
チェギョンは宮殿で不敬罪に問われるどの悪態をついてしまうに違いない
会場内には色とりどりのドレスを纏った、いかにもお嬢様風の女性が10名ほど集っていた
そしてみんなチェギョンのその格好を見て、一瞬ギョッとした顔をするが・・・
その後、なにも見なかったかのように視線を逸らす
ガンヒョンは上座の席にいるであろうお妃選考委員会のメンバーを探す
ところがそこにはお歳を召した一人の婦人が座っているだけだった
(あ・・・あれはもしかして皇太后様?)
満面の笑みを浮かべた皇太后に、ガンヒョンはなるべくチェギョンが目につかない様
自分の後ろに隠して歩いていった
『皇太子妃候補の皆さん・・・よくお越しくださった。さぁ椅子に腰かけてくだされ。』
皇太后のその言葉に従い席に着く皇太子妃候補達
だがやはり華やかなドレスの中・・・場違いな格好をしたチェギョンは目を引いてしまったらしい
皇太后はチェギョンに視線を向けると話しかけた
『そなたは・・・なんと申すのだ?』
チェギョンはその場で態々立ち上がると答えた
『私は韓国芸術高校美術科三年在籍のシン・チェギョンと申します。』
『まぁ・・・なんとも可愛らしい格好であるなぁ・・・』
チェギョンのハリネズミスイッチを押してしまったのは、あろうことか皇太后だった
その時・・・お妃二次選考会が気になった皇太子殿下イ・シンが、そのタイミングで入場してきたのだ
『皇太后様・・・生意気なのを承知で申し上げさせていただきます。
皇太子殿下のお妃選びなど、慣例では王族から選出していた筈ではありませんか?
このような大掛かりな選考会に国民の血税を費やすなど・・・私にはどうしても納得がいきません。
こんなくだらない事で右往左往させられる民間人の身にもなってください。
ここに集まった中に皇太子妃になりたいと心から願う人物がいたら、その中から選べばよろしいかと思います。
私やここにいるイ・ガンヒョンは民間人ですので、ここで辞退させたていただきます!』
チェギョンがハリネズミの棘を皇太后に向けている間、シンは皇族とは思えないほどの大きな声で
何度もチェギョンを制した
『シン・チェギョンやめるんだ!』
『それ以上何も言うな!シン・チェギョン!!』
だが皇太后はチェギョンの攻撃の棘を何でもないとばかりに受け止めた
『太子や・・・咎める事ではない。シン・チェギョンさんの言っていることは尤もな疑問だ。
だがな・・・シン・チェギョンさんや、そなたが思っている事は事実と違うのだ。
それを説明させていただこうかのぉ。
今回のお妃選考に関わる費用一切は、国民の血税から賄われているのではない。
私の・・・財の中から賄っておる。大事な未来の国母を選ぶ為なのでな。
だからその辺りは誤解しないでいただきたい。
納得していただけたかのぉ?シン・チェギョンさんや。』
皇太后を前に不躾な物言いをしたチェギョンは、ハリネズミの棘を静かに寝かせた
『大変・・・失礼いたしました。納得いたしました。失礼な言い方をして申し訳ありませんでした。』
『わかって貰えればそれでよい。だがな・・・辞退は認められぬのぉ・・・』
こんな場違いな格好で二次選考会に出れば、不合格になるのは間違いないと思っていたチェギョンは
ハリネズミの棘が自分に刺さりそうな気分だった
その気分に追い打ちをかけるように、隣に座ったガンヒョンは席を立ちあがると宣言をした
『皇太后様・・・私は韓国芸術高校美術科三年在籍のイ・ガンヒョンと申します。
私はもう二年も皇太子殿下の親友と親しいお付き合いをしています。
もしこれ以上私が選考に残れば、皇太子殿下は必ず親友を失くすことになるでしょう。
辞退することをどうぞお認め下さい。』
『なにっ?イ・ガンヒョンさんや・・・そうであったか。それは申し訳ないことをしたのぉ・・・。
良いだろう。辞退することを許そう。他にこの中で辞退したい者はおるか?』
他に辞退を申し出る者はいなかった
そこでチェギョンは慌てて手を挙げた
『皇太后様!!』
『シン・チェギョンさん・・・どうぞ。』
皇太子の親友が恋人なら・・・辞退が許されると思ったチェギョンは、突拍子もない事を言ってみる
『あの・・・私は、皇太子殿下の親友の・・・リュ・・・リュ・・・』
咄嗟に名前の出てこないチェギョンはガンヒョンに小声で問い掛けた
『ガンヒョン・・・なんだっけ?リュ・・・って人いたよね?』
『リュ・ファンよ。』
『サンキュ~♪』
そしてまた皇太后に向かって告げる
『皇太子殿下の親友のリュ・ファンさんに、明日交際を申し込んでオッケーを頂く予定なんです。
なので辞退させてください!』
それを聞いた皇太后はケラケラと笑い出した
『ほ・・・・ほほほほ~~なんとシン・チェギョンさんは、楽しい女性なのだ。
だがな・・・そのような理由で辞退は認められぬ。空手形は受け取らない性分なのでな。ほほほ~♪
本日は皆さんの顔を見せていただけてとてもも嬉しく思う。
後日・・・今回の結果を郵送するのでな、待っていてくだされ。
本日は御足労いただいてありがとう。気を付けてお帰りなさい。』
宮殿に到着して一時間も経たないうちに終了してしまった二次選考会
帰りの車の中ガンヒョンは晴れ晴れとした気持ちで、逆にチェギョンは鬱々とした気持ちで車に揺られていた
まさかまさかの~皇太后様に毒吐いちゃうなんて・・・
やっちまったチェギョンです(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
でもさすがに皇太后様には・・・
すぐに棘をひっこめるチェギョンなのです~♪