その日・・・家族全員が揃っての夕食時、私はピョルの腕を突いた
こんな名誉な話は私の口からじゃなく、やっぱりピョルが言うべきだわ
ピョルは私からの催促に笑顔を浮かべるとひとつ頷いて深呼吸をする
『えっと・・・あの~私から報告したいことがあります。』
『なんだね?ピョル~随分真剣な顔で・・・』
これは私の夫の言葉
『ピョル・・・一体何の報告だ?早く言いなさい。』
これは父であるシンの言葉・・・母のチェギョンさんは堂々としたもので、笑顔でピョルを見つめている
弟ハヌルとウォルは目をらんらんと輝かす
さぁ~ピョル・・・言いなさい。言うのよ!
『私・・・海外交換留学生に選ばれてしまいました~♪』
『なにっ?本当かピョル・・・』
『グランパ本当ですぅ~♪』
『その制度は確か学年でも成績優秀者が選ばれるんだったな?母さん・・・』
『ええその通りよあなた。ピョルはすごいでしょう~♪おほほほほ・・・
シンの血を引き継いだのね。さすがだわピョル~♪』
『すごいじゃないのピョル。頑張った甲斐があったわね。』
チェギョンさんも嬉しそうに目を細めたわ
でも・・・
『ピョル・・・確か交換留学生は男女一名ずつだったな?』
『そうだよ。パパ・・・』
『男子は・・・誰が決まったんだ?』
シンのその言葉を聞いた途端、ピョルは少し顔を曇らせた
それもそのはずよ・・・あの時シンが≪もう二度と送って来るな≫と追い返した男子ですもの・・・
『あ~あのねパパ・・・ハン・テヤン君だよ。』
『なんだと!ピョル・・・それはダメだ。明日パパが学校に行って断って来よう。』
『えっ?どうして?・・・ダメなの?』
『当り前だろう。ピョルを家まで送って来るような男だ。留学先でよからぬことを企んでいるに決まってる。
男はみんな狼なんだぞ。いいなピョル!』
きぃ~~っ・・・言うに事欠いてピョルを家まで送ってくれた男子を狼扱いするなんて・・・
狼はあなたの方でしょ?シン・・・
『でもテヤン君は暗くなったから危ないって送ってくれただけで・・・悪い子なんかじゃないよ。
中学からずっと一緒だったから、私・・・テヤン君の事よく知ってるもん。』
『言うことを聞きなさい!』
全く聞く耳を持たないシンにピョルは抗議の目を向けると席を立ちあがった
『ピョル・・・ちゃんと食事をしないとダメだ。』
『パパは・・・横暴だ。ピョルの話なんかちっとも聞いてくれない。
パパなんか・・・大っ嫌い!!』
ピョルは食事もほとんど食べずにリビングを出て行ってしまったわ
ったく・・・シン、あなた横暴過ぎよ
そんなシンに向かってチェギョンさんは少し苛立った表情で言ったわ
『シン君・・・いくらなんでもあんまりじゃない?あれじゃあピョルが可哀想よ。
ピョルはきっと褒めて貰えると思って報告したのよ。なのにあんな言い方って・・・』
『仕方ないだろう?男子と一緒なんだぞ。それに・・・ただでさえピョルとは一緒に暮らせる時間が短いんだ。
手放したくなくて当然だろう?』
『シン君!!』
今度はチェギョンさんが立ち上がったわ
『それって私の事を責めているように聞こえるわ。ピョルが自分の思い通りの道を進めないなら・・・
シン君と結婚なんかしなきゃよかったわ。』
あ~~チェギョンさん・・・そこまで言う?言ってもいいけど・・・
見てみなさいシンのあの顔・・・顔面蒼白よ
チェギョンさんは空いたお皿を手にキッチンに立ってしまったわ
折角の嬉しい報告だったのに、シンの横暴な態度で台無しになっちゃったじゃないの~~!
どうしてくれるのよシン・・・
でもね・・・チェギョンさんとピョルから嫌われて、シンも相当なダメージを受けたみたい
あまり食が進まないまま部屋に戻ってしまったわ
後に残されたハヌルとウォルは、やはり食欲が失せたみたいよ
『グランマ~ピョル泣いているかなぁ・・・』
『きっと大丈夫よ。ピョルは強い子だもの・・・』
『グランマ~ピョルか~いそ~、でもパパもか~いそ~。』
まぁ確かにそうね
食事の後片付けをしながら、私は傷ついたピョルの為にせっせと海苔巻きを作った
『お義母様・・・海苔巻きなんてどうなさるんですか?』
『あ~ピョルがきっとお腹を空かせているから差し入れよ。』
『ありがとうございます。ピョルを気に掛けてくれて・・・お義母様・・・』
私はピョルの為に熱いお茶を煎れてそれと一緒にトレーに載せた海苔巻きを持ってピョルの部屋に向かった
<トントン>
『ピョル~グランマよ~♪』
部屋には鍵がかかっていたのかピョルはすぐに自ら扉を開けて、私を部屋に招いてくれたわ
『ピョル・・・お腹空いてるでしょ?食べなくちゃ。』
『グランマ~~~!パパ・・・酷すぎる。』
『ええそうね。グランマも酷すぎると思ったわ。でも大丈夫よ。あのあとパパはママに・・・すごく叱られていたから。』
『えっ?ママに?』
『≪ピョルが思い通りの道に進めないなら結婚しなきゃよかった≫とまで言っていたわ。』
『ママ・・・すご~~い!でも大丈夫でしょうか。パパとママ喧嘩になったりしない?』
『しないわよ。全面的にパパが悪いんですもの・・・
さぁ~ピョルお食べなさい。』
『はぁ~い!グランマの海苔巻きなんて久しぶり~~♪』
そうね・・・ピョルの運動会以来かしら・・・
『ありあわせの具材しかなかったから美味しいかどうかわからないけど・・・』
『そんなことない。すっご~~く美味しい♪』
ピョルは私と話をして気持ちが落ち着いたのか、持参した海苔巻きをぜ~~んぶ食べてくれたわ
翌朝・・・早々に朝食を済ませシンがリビングに入ってきた時には席を立とうとしていたピョル
『行ってきます。』
強張った表情でカバンを手に持ったピョルをシンは呼び止めたわ
『ピョル・・・待ちなさい。』
振り向こうともせずピョルはその場で立ち止まった
さて・・・シン、あなたはどうするつもり?私はシンが何を言おうとしているのか予想がついていたけど
口出しせず静かに見守ったわ
『なあに?パパ・・・』
『留学の事なんだが・・・』
『その事だったらもういいよ。自分で先生に断るから・・・』
そう言って一歩前にピョルが足を踏み出した時、とうとうシンは言ったわ
『行ってきて・・いい。』
『えっ?』
漸くピョルがシンに向かって振り向いた
『行ってきなさい。』
『パパ…本当?』
『あぁ。・・・・・・・・・・・・』
シンは本当だったらその後に続く言葉を言いたかったに違いない
でもチェギョンさんから止められていたんでしょうね。なにも言わなかったわ
『わ・・わ・・・わぁ~~~い!!』
ピョルはようやくシンに笑顔を見せた
シンも本当は行かせたくないのだろうけど、この娘の笑顔には勝てないわね
『本当に?本当に行ってきてもいいの?パパ・・・』
『あぁ。行っておいで。』
『うん!じゃあ早速先生に報告する。じゃあパパ~~行ってきま~~す♪』
満面の笑みで手を振りピョルは出掛けて行ったわ
シン・・・良く言えました
これもチェギョンさんの教育の賜物ね
偉いわチェギョンさん・・・
そんなシンを見つめチェギョンさんはやはり満面の笑みで頷いていたわ
後は私の夫の嘆きを慰めてやるだけだわ
夫もシンとさほど変わらない反応で、昨晩は愚痴られて大変だったもの・・・
それは私に任せておけばいいわ
クリスマスイブの夜・・・家族でパーティーをしている時、外のインターホンが鳴った
『あ・・・きっと私の友達だから、私が出るね~♪』
ピョル・・・ひょっとして?
そう思ったのは私だけじゃなかったみたい
シンは外のモニターを凝視して、一体誰が来ているのか確認しているみたい
それを背後から見ている私・・・シンとはやはり母子だわ。おほほほほ~♪
あ・・・やっぱり?ピョルに逢いに来ていたのは、一緒に留学するハン・テヤン君だった
テヤン君はどうやらピョルにプレゼントを持ってきたみたいね
そしてピョルもテヤン君にプレゼントを用意していたみたい
二人はプレゼント交換をしてテヤン君は帰って行ったわ
ピョルが戻ってくる気配に私はキッチンに入って行き、シンはリビングに向かったわ
戻ってきたピョルにシンは何気なく問い掛ける
『誰が来ていたんだ?』
『あ~一緒に留学するテヤン君だよ。プレゼント交換の約束をしていたの。』
『そっ・・・そうか。』
あ~~どんなにかその先を追及したかったことでしょうね
でももう二度と≪パパなんて大っ嫌い!≫といわれたくないシンは黙っていた
おほほほ~~~でもね、私は聞いちゃったわ~♪
ピョルがテヤン君にあげたのは手袋で、テヤン君がピョルにくれたのは星のモチーフのペンダントよ
シンには~~教えてあげないわ~おほほほほ~~♪
新年早々旅立つピョルの為に、その後我が家は準備に追われた
そしてピョルが旅立つ日・・・家族総出で空港まで見送りに行った私達一家
『グランパ・・・行ってきます。』
『ああピョル。身体に気を付けるんだよ。』
『グランマ・・・いっぱい勉強してきます。』
『ええ、ピョル・・・食事はちゃんととるのよ。』
『パパ・・・行かせてくれてありがとう。』
『あぁ・・・まめに連絡しなさい。』
『ママ・・・パパと喧嘩しないでね。』
『くすっ・・・しないわよ。一回り大きな人になって返って来なさいね。』
『ハヌル・・・ウォルの面倒ちゃんと見てね。』
『うん。任せておいて。』
『ウォル・・・いい子で待っていてね。』
『ピョル~~いつかえってくる?』
『90回寝たらね♪じゃあみんな~行ってきま~~す♪』
ピョルはハン・テヤン君と共に搭乗ゲートをくぐり・・・やがてその姿は見えなくなってしまった
えっ?・・・なにっ?・・・
ピョルの留学を一番に応援したのは私の筈なのに、涙が頬を零れて止まらない
『ぴょ・・・ぴょ・・・ピョル~~~~~!!』
幼い日・・・自分の父親が誰なのかを知りたいと、私と結託した日の事がよみがえる
あの日からピョルは間違いなく私の世で一番大切な存在だった
ピョル・・・早く帰ってきて~~~!!
人目の多い空港でしかもハン家が見ているその前で・・・私は自分の感情が抑えきれず号泣し続けた
そしてやはり続いてしまうのです(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
しかし・・・寒い。寒すぎます~~!
大寒波…皆様どうぞ気を付けてお過ごしください。