翌日ミンが病院に顔を出すと、生まれたばかりの赤ん坊はベビーベッドで健やかに眠っており
その傍らでチェギョンは手帳を見つめながら何かを悩んでいた
『チェギョンさん♪こんにちは~~♪
赤ちゃんのご機嫌はどうかしら?あら~~よく眠っている事。これじゃあ抱っこできないわね。
あら?どうかしたの?チェギョンさん・・・』
『お義母様~それが・・・お産が早くなってしまったのでちょっと予定が狂ってしまって・・・困ったことが・・・』
『どうしたの?』
チェギョンは手帳に挟んであったプリントをミンに手渡した
『まっ!ピョルちゃんの運動会ね。』
『はい、そうなんです。私はまだ入院中で・・・』
『そんなことを悩んでいたの?もぉ~私に任せておけばいいのよ。去年あなたがしたようにお弁当を作って
シンに場所を取りに行かせたらいいんでしょう?』
『はい。そうなんですが・・』
『チェギョンさん・・・産後にそんなことをあれこれ悩むのは良くないわ。
大丈夫よ~すべて抜かりなく私が仕切るから。』
『よろしいんですか?』
『いいに決まっているわ。さて~~そうと決まったら、私は準備に取り掛からないとね。
今年はチェギョンさんが来られないけど、その分ピョルちゃんが寂しくないように、しっかり準備するわね~♪』
『すみませんお義母様・・・』
『何を言っているの!家族でしょう?どうか甘えて頂戴。善は急げだわ。早速メニューを考えましょう♪』
その日ミンは前日よりも早く病室を去り、ピョルの運動会の為の準備に取り掛かった
今年・・・母であるチェギョンは来られない
ピョルが寂しさを感じない様にと一生懸命考えを巡らすミンだった
夕方・・・退社後のシンはやはり病院に立ち寄った
『チェギョン♪あぁやはりこの時間には赤ん坊はいないんだな。』
『くすっ・・・そんなこと言いながらまたナースステーションでお願いするんでしょう?』
『あぁ?なぜ知っている?』
『ふふふ・・・昨日こっそり見ていたもの。看護師さんの間でもシン君は有名なのよ。』
『有名?一体なぜ?』
『素敵なご主人様だって。』
『くっ・・・そんなお世辞を看護師は君に言うのか?』
『お世辞じゃないと思うわ。あなたの事を話している時・・・未婚の看護師さんはともかく既婚の看護師さんまで
目を輝かせるもの。』
『くっ・・・それはありがたい話だが・・・そんなことでヤキモチ妬くなよ。』
『いやね。妬かないわよ。あ・・・ところでピョルの運動会が近いの。
準備はお義母様がしてくださるって言ってたわ。あなたも場所取りとかお弁当運びとか…お願いね。』
『あぁ。心配するな。写真もビデオもたくさん撮っておくから、君はここで応援してやってくれ。』
『ええそうするわ。あ・・・そうだわシン君・・・赤ちゃんの名前どうするの?』
『名前か?考えてきたよ。』
『どんな名前?』
『ピョルが星だろう?だからやはり空に関係する名前がいいと思うんだ。
太陽のテヤン・月のウォル・空のハヌル・・・なんかどうかなって思っているんだが・・・
テヤンだと同じ空に存在できない。だったらいっそのこと・・・ピョルを包み込む男になってほしい・・・
姉を守れる男になってほしいという意味で空のハヌルはどうだ?』
『イ・ハヌル?とてもいい響きね。気に入ったわ。』
『じゃあハヌルに決定だ。届けは早速俺が出しておくから。』
『お願いするわ。今夜もハヌルを抱いていくんでしょう?』
『あぁ。そのつもりだ。』
『私も一緒に行こうかな。ハヌルの顔が見たいし・・・でも看護師さんにはあなたがお願いしてね。』
『あぁそうするよ。』
二人は病室を出るとナースステーションに向かった
シンの姿を見た看護師はすぐにシンの元に駆け寄った
『すみませんが子供を抱かせて貰えますか?』
『は・・・はい。すぐにお連れいたします。』
なぜかハヌルが連れて来られた時には、看護師が三人もその場に顔を出した
『ありがとうございます。』
『いいえ///どういたしまして。』
妻のチェギョンがいるにもかかわらず、頬を赤らめる未婚の看護師
なかなかこんな上質な男性に、ここでお目にかかることのない看護師はイ・シンが来たというだけで色めきだった
『ハヌル♪』
『ハヌル・・・あなたの名前はハヌルよ。』
『チェギョン・・・昨日より重くなったような気がする。』
『たくさんおっぱい飲んでいるからかしら。この子もきっとピョルみたいに、すぐに大きくなっちゃうわね。』
『あぁそうだな。間違いない。くくっ・・・』
ハヌルを見つめ微笑み合う夫婦を、看護師達は溜息混じりに眺めていた
母親のチェギョン不在の大きな穴を埋めるべく・・・いやそれ以上にするために気合を入れた運動会の準備
運動会当日シンは一番に場所を取り、愛娘ピョルを存分に撮影できる場所を確保した
そしてミンも夫のヒョンと共に早い時間からその場所に荷物を運び、ピョルを応援する体制を整えた
運動会が始まりピョル達の学年の100m走が始まると、プレッシャーを掛けてはいけないと思いながらも
ついゴールの位置にミンとヒョンは立ち、声を張り上げて応援した
ピョルは余裕の笑顔でミンとヒョンに向かって疾走する
『やっぱりピョルちゃんは隼みたいね。すごいスピードだわ。
あ・・・あなた!ピョルちゃんが一位よ。やった~!!やったわ~~❤』
『おお・・・ピョルちゃんのあの誇らしそうな顔・・・嬉しいだろうな。』
シンも離れた場所でその走りをビデオカメラに収めた
病院で応援しているであろうチェギョンに、この姿を見せてあげなければと思ったのだ
『見て見て~~あなた!ピョルちゃんがVサインwしているわ。ほら・・・・私達もしなくちゃ。』
『ああそうだな。』
ミンとヒョンはピョルに向けてVサインを送った
『もぉ~ピョルちゃんったらお勉強はできるし、足も速いなんて・・・将来が本当に心配だわ。』
『何が心配なんだね?』
『気立てだってとてもいいのよ。お嫁さんにくださいって早々に言われそうで~~!』
『母さん・・・今からそんなことを心配してどうする。』
『あらっ?あなた・・・先に席に戻っていてくださいな。』
『あ?ああ。だがピョルちゃんがお昼を食べに来るんだ。早く戻りなさい。』
『ええ。すぐに戻りますわ。』
ミンは運動場の端でピョルを見つめている人物に気が付いてしまったのだ
ミンはその人物に近づき声を掛けた
『あら?イ・ユルさんじゃなくって?』
『あ・・・イ家の奥様。ご無沙汰しております。』
『ええ。結婚式の時ぶりかしら。今日はもしかしてピョルちゃんの応援に来てくださったの?』
『ええ、チェギョンさんが出産で入院中と聞いたものですから・・・』
『まぁ~♪ありがとうございます。折角いらして下さったんですから、一緒にお昼ご飯を食べて行ってくださいな。』
『えっ?いえ僕は仕事がありますから・・・』
『仕事があってもお昼ごはんは食べなくちゃ・・・。ねっ♪ご一緒しましょう。』
『お邪魔してよろしいんですか?』
『いいんですよ~~♪さぁ参りましょう。』
ミンに誘われて同行したイ家の席・・・シンは一瞬ギョッとしt顔つきをしたが、娘のピョルは満面の笑みを浮かべた
『あっ!ユルさんも来てくれたんですかぁ~♪』
『うん。応援に来ちゃった。ピョル・・・すごく速かったね。』
『ありがとう~~♪』
『イ・シンさん・・・お邪魔します。』
『あ?あぁどうぞ。』
シンの少し不機嫌そうな顔つきにピョルはやはり気が付いたようだ
『さぁさぁ召し上がって♪』
例年に負けないほどのご馳走を詰め込んだ弁当箱をミンが開けた時、ピョルはスティックにおかずを刺すと
左手でシンの口元に運んだ
『パパ~どうぞ❤』
『あ?あぁ、ありがとう///』
大の大人が小学生の仕草に照れながら、おかずを口に運ぶ
『美味しい♪』
『でしょ~~グランマが心を込めて作ってくれたんだから~♪ピョルは朝味見したから知ってるんだも~~ん♪』
そういいながらスティックに刺したおかずを、ヒョン・ミン・・・そしてユルにも運ぶ
みんなそんなピョルの仕草を喜んで受け入れ、おかずを口にする
『さぁさぁピョルちゃんもお世話焼いていないで食べなさい。』
『はぁ~い♪グランマ・・・』
そういったと同時にシンとピョルは左手で箸を持ち、器用に食事をし始めた
そんな様子を啞然としながら見ていたユルに、ミンは更に取り分けた料理を勧めた
『さぁ~ユルさんもたくさん召し上がってくださいね~♪』
『あ・・・ありがとうございます。ご馳走になります。』
なんの違和感もなく楽しそうに食事をするシンとピョルを見ていて、ユルの胸の中に疑問が湧いた
(もしかして・・・もしかしたら・・・ピョルの父親はこの男・・・なのか?
だとしたらすべてが納得できる。チェギョンにずっと男の影がなかったのも・・・
全く結婚する意志が見えなかったのも。そうか・・・そうだったのか!)
確かに容姿はチェギョンに似ているピョルだったが、そう考えてみれば他の子よりも成長が早いのも頷ける・・・
そう思うユル・・・
その時ピョルがシンに話しかけた
『パパ~来年はハヌルも来られるかなぁ。』
『そうだな。来年はきっとピョルの応援に来るだろうな。』
『そっか~~よかった~♪』
イ家の中にいて普通再婚相手の子だったら遠慮してしまい、こんなに伸び伸びと振る舞える筈はない・・・
ユルはそんなピョルを心配して見に来てしまったのだ
なのにピョルは何の不自然さもなくイ家の家族に溶け込んでいた
『ママに・・・報告したいな~♪』
『じゃあ今日運動会が終わったら、ママのところに寄ろうか。』
『うん~~♪』
ミンはご機嫌なピョルに進言する
『ピョルちゃん・・・病院に行くにはシャワーを浴びてからにしましょうね。』
『あ・・・そうですぅグランマ。でないとハヌルを抱っこさせてもらえない~~♪あはははは~♪』
『そうよ。ハヌルはまだ赤ちゃんですからね~♪』
『あ・・・』
ピョルが何かを思いついたようにミンとヒョンにおねだりの視線を向けた
『グランパもグランマも・・・ハヌルの事はハヌルって呼ぶでしょう?
ピョルも…ピョルちゃんじゃなくてピョルがいいな~~~~♪』
『解ったわ。ピョル♪』
『ピョル・・・これでいいかい?』
はいぃ~///♪』
少し照れ臭そうに微笑むピョルを見て、ユルは心から安堵する
(たとえチェギョンがこの場にいなくても、ピョルは間違いなく幸せなんだね。
良かった。これで僕も安心できるよ。)
その日・・・チェギョンの病室にはイ家の家族6人が勢揃いした
チェギョンはピョルからの報告を受け、目を細めてピョルの頭を撫でた
『偉いわね~ピョル。さすがお姉ちゃんになると違うわね。』
『あはははは~~♪』
その日だけでピョルがシンから貰ったアルバムにはたくさんの写真が収められた
ピョルの一番のお気に入りは、チェギョンやシン・・・またミンやヒョンとではなく、
ハヌルを抱いて微笑む自分の写真だった
イ・シンの長男、お名前募集にたくさんコメントを頂き
ありがとうございました❤
イ・ハヌル君に決定いたしました❤