チェギョンが分娩室に入ってから既に二時間が経過していた
生まれたという報告もなければ産声も聞こえて分娩室の前では、イ家の四人が落ち着かない様子で
その時を待っていた
『母さん・・・いくらなんでも遅すぎませんか?』
焦りを募らせるシンにミンは諭すように言う
『シン・・・一人の人間が生まれてくるのよ。そんなに簡単なわけないでしょう?』
『ですが・・・』
さすがのピョルも不安になったのか、ミンの手をきつく握り締めじっと耐えている
俄かに分娩室の中が騒がしくなった
一人の看護師が慌ただしそうに扉を開けて出てきたが、四人には何の説明もないまま足早に立ち去った
『どうしたんだ・・・まさかチェギョンの身に何かあったのでは・・・』
泣きそうな表情をしているピョルを抱き締め、ミンはシンを咎めた
『縁起でもない事を言うものじゃないわ!』
『すみません・・・』
ミン自身も相当不安な気持ちでいたのだが、孫娘が不安に怯えているのを黙って見ている訳にはいかない
『大丈夫よピョルちゃん・・・もう少しだから・・・』
『はい・・・グランマ・・・』
もう今はチェギョンの呻き声も聞こえてこない
それに赤ん坊の声も聞こえない
家族を諭していたミンだったが、さすがに我慢の限界が訪れジリジリと引き寄せられるように
分娩室の扉の前に立った時・・・その願いが届いたのか漸く赤ん坊の声が聞こえてきた
≪ふ・・・ぎゃぁ~~~ふんぎゃ~~~!!≫
『あ・・・生まれたわ。ピョルちゃん・・・生まれた~~♪』
『あかちゃんの声がしますぅ~~♪』
『チェギョンは大丈夫だろうか・・・』
『どちらが生まれたのかなぁ~~♪』
その時漸く分娩室の扉が開き、中から医師が姿を現した
『先生!!』
医師に縋るような瞳を一斉に向けるイ家の家族・・・
『無事生まれました。おめでとうございます。』
『妻は・・・無事でしょうか。』
不安そうに問いかけるシンに医師は笑顔で答えた
『もちろんです。逆子だった為時間がかかってしまいました。生まれてきたお子さんは仮死状態で生まれて
一時は危険な状態でしたが、もう心配はありません。』
ピョルは思い切って医師に質問を投げかけた
『先生・・・あの・・・弟ですか?妹ですか?』
『ピョルちゃん・・・元気な弟だよ。』
『弟?わぁ~♪』
胸の前で嬉しそうに手を組み合わせるピョル
『男の子かぁ~!』
握り拳を頭上に掲げガッツポーズをとるヒョン
ミンとシンは心から安堵しその場に座り込んだ
『『はぁ・・・・』』
すぐにシンは安堵で脱力した気持ちを立て直し、医師に問い掛けた
『それで妻と赤ん坊にはいつ逢えますか?』
『赤ちゃんはすぐに連れてまいります。チェギョンさんは今後処理をしていますので、もう暫くお待ちください。』
『はい。』
今までの緊張の糸が解けたように椅子に座り込んだ四人・・・
そして・・・再び分娩室の扉が開くと一斉に立ち上がり、看護師の抱いた赤ん坊目がけて駆け寄った
『おめでとうございます。とても大きな男の子ですよ~♪』
『うわぁ~~~・・・』
一番に駆け寄ったピョルは必死にその顔を覗き込もうとするが、ピョルの目線は届かない
『じゃあお父さん抱っこしますか?』
『は・・・はい!』
シンは恐る恐ると言った仕草で赤ん坊を抱くと、ピョルに見えるように椅子に腰かけた
『わっ!パパにそっくりだよ~~♪見て!このお鼻・・・すごく高い~~!』
『あら本当だわ。唇の薄さまでシンにそっくり。』
『色白で綺麗な子だなぁ・・・』
皆が自分とそっくりだという我が子を、シンはマジマジと眺め
そして両手にかかる命の重さと温もりを確かめた
『俺に・・・似ている?』
『うん~パパとおんなじ顔だよ。パパ・・・嬉しいでしょう?』
『あぁ。すごく・・・』
すぐに横に立ったミンが、催促するように両手を差し伸べて来る
『シン・・・今度は私の番よ。』
『あ・・・だが・・・』
『いいでしょう?抱っこさせて~~♪』
『母さん・・・その前にピョルに抱かせてやってくれ。』
『あ!そうだったわ。ピョルちゃん・・・ここに腰掛けて。』
『えっ?ピョルも抱っこしていいんですかぁ?』
『もちろんよ。さぁ~座って。』
『はいっ!』
ピョルは緊張した面持ちでシンの隣に座り、両手をそっと差し出した
シンは立ち上がると、腕の中の赤ん坊をそっとピョルの腕に託した
『お・・・おぉ…結構重い。しかも・・・あったか~~い♪わぁ~い・・・ピョルの弟だぁ~!』
おもわずその頬に頬擦りしたいピョルだったが、やはり赤ん坊はピョルには重すぎてそれは叶わなかった
『ずっと抱っこしていたいけど腕が疲れちゃった。グランマ・・・あかちゃんをどうぞ♪』
『ありがとうピョルちゃん。まぁ~結構しっかりしているわ。髪も黒々していて立派ね。
これはすんご~い美男子になるわよ~おほほほほ~~♪』
暫くの間赤ん坊を抱いてテンション高くしゃべり倒すミン
ずっとその隣で我慢していたヒョンだったが、我慢の限界がきたようだ
『母さんそろそろ私にも・・・』
『えっ?もう~折角いい気分でしたのにぃ~~!』
その時看護師が赤ん坊を連れにやって来てしまった
『あぁ・・・早く母さん!』
『仕方がないですわね・・・』
散々抱いていたくせに、ミンは渋々ヒョンに赤ん坊を託した
だがすぐに看護師は赤ん坊を連れ去ってしまった
ヒョンが抱けたのはほんの一瞬のことだった
『あぁぁ・・・もう少し抱いていたかった。』
『もっと早く言わないあなたが悪いんですよ!おほほほほ~♪』
笑って誤魔化すミン・・・シンとピョルはそんな二人に笑いが止まらなくなった
チェギョンの後処理が済み、漸く面会を許された四人
『ママ~~あかちゃん、凄いイケメンでね~パパにそっくりだよ~♪』
『そう。ピョルはお姉ちゃんになったんだから、ちゃんと面倒見てあげてね。』
『もっちろ~ん♪』
『チェギョンさんお疲れ様。』
『お義母様。時間がかかったのでご心配をおかけしました。』
『ホント・・・生きた心地がしなかったわ。』
『チェギョン・・・よく頑張ったな。ありがとう。』
『うん。頑張ったでしょう?シン君にそっくりだって看護師さんにも言われたわ。』
『あぁ。将来が楽しみだ。』
『チェギョンさん・・・見事男の子だった。』
『お義父様、宣言した通りお約束が守れてよかったです。』
『心配していたのかね?』
『はい。実はとても心配でした。くすっ・・・』
無事出産を見届けミンとヒョン・そしてピョルはイ家に戻っていった
シンはもうしばらくチェギョンの傍にいたいと、病室に残った
『シン君・・・急な出産になっちゃったから慌てたでしょう?』
『慌てたなんてもんじゃない。車を運転中に頭が真っ白になって、どうやってここに来たのかさえ覚えていない。』
『二児のパパがそんなことでどうするの?くすっ・・・』
『そうだな。あ・・・店のスタッフに連絡しなくていいのか?』
『さっきピョルがしていたわ。だから存廃ないわ。あ・・・今夜からイ家にお世話になるんでしょう?
明日の朝ピョルをマンションまで送ってくれる?』
『あぁ。そんなことは気にしなくていい。みんなでしっかりやるから・・・』
『ありがとう。そろそろイ家に戻って。ピョルの事が心配だし・・・』
『君が眠ったら帰るよ。だからゆっくりお休み。』
『ええ。そうするわ。』
チェギョンは目を閉じシンの手の温もりを頭に受けながら眠りに落ちていった
チェギョンが静かな寝息を立て、その満ち足りた寝顔を暫く眺めた後・・・
シンはチェギョンの唇に優しいキスを落とし病室の明かりを落とすとイ家に還って行った
いよいよ親子四人・・・いや親子三代六人の生活が始まろうとしている
チェギョンの出産で終わってしまいました~(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
さて今後・・・どうなるのかな。
同居?それとも今まで通り?
いやいや~~昨日は暑かったのに
今日は寒い・・・
こたつに電気が入っちゃったなんて
電気ストーブ出しちゃったなんて・・・
とても言えないっす(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!