洗面所から戻ったチェギョンは、シンの元にピョルがいないことに気が付き驚いて問い掛けた
『あら?シン君・・・ピョルは?』
シンはつい今ピョルから受け取ったばかりの書類をポケットに入れ、チェギョンをまじまじと見つめた
『あぁ?・・・あぁ・・・ピョルはイ家でお留守番をするそうだ。』
『えっ?でもどうやってイ家まで・・・』
『あぁそれなら、母が迎えに来ていた。最初からそのつもりだったのだろう。』
『もぉ!ピョルったら結婚式が済んだ途端、図々しいんだから・・・』
『くっ・・・まぁいいじゃないか。飛行機に乗り遅れる。行こう。』
『そうね。あとで電話したらいいわね。』
シンはチェギョンの背中に手を添え二人は搭乗ゲートに向かっていった・・・
済州島までの飛行時間はさほど長くない
その間シンは寝たふりをして必死に考えていた
(ご丁寧にもピョルの生年月日まで記載されていたな。ピョルの誕生日は4/11・・・
女性の妊娠期間は10カ月・・・10カ月遡ると・・・まさに俺とチェギョンが逢っていた頃だ。
そう言われてみればピョルは俺と同じ左利きで、手足も他の子供より随分長い・・・
なぜ!なぜ俺はこんな大事なことに気が付かなかったんだ!
それになぜ・・・チェギョンはピョルの父親が俺だと言わなかったんだ。
俺は世界一の愚か者だ・・・)
頭の中をフル回転させ、その疑問を解こうとするがシンにはどうしても解けなかった
二人を載せた飛行機が空に飛び立つのを見て、密かに見送りに来ていたイ・ユルは心の中で呟いていた
(ピョルのいい父親になれると信じていた。チェギョンのいい夫にも・・・
だけど今日思い知ったよ。僕の母が姑じゃあ・・・チェギョンもピョルも幸せにはなれない。
あの家ならきっと二人を大事にしてくれるだろう。
チェギョン・・・どうか幸せに・・・)
もっと強く自分の気持ちをチェギョンに伝えていたらと思った時期もあった
だが・・・結果的にこうなることは運命だった
ユルは小さくなっていく飛行機に手を振って、車に乗り込むと自宅に戻っていった
シンとチェギョンが飛び立った後・・・ミンとピョルはイ家に戻っていった
『あなた~ただいま~♪』
『ミン!一体どこに行っていたのだ?あ・・・あや?ピョルちゃん。一緒に済州島に行ったんじゃなかったのかい?』
『グランマが~お邪魔になるからって。二晩お世話になりますぅ~♪』
『そうか。気を遣わずゆっくりしなさい。』
ミンはいそいそと茶を煎れ、ヒョンの元に持って行った
『あなたお茶をどうぞ。』
『あぁ。ありがとう。』
そして同じように自分とピョルの茶を置き、ヒョンの前で不敵に微笑んだ
『あなた・・・実は重大なお話があるんです。』
『なんだ?ミン・・・そんな改まった言い方をして・・・』
ヒョンはお茶を飲みながらミンを茶化すように微笑む
『これを見ていただけますか?』
『どれどれ・・・親子鑑定結果?・・・あぁっ?』
あまりの衝撃にヒョンは持っていた茶碗を膝の上に落とした
『あなた!!お茶が・・・』
『あ・・・あっ・・・熱っ!!』
慌ててキッチンに向かい濡らしたタオルを持ってくるピョル
ピョルからそのタオルを受け取り、ヒョンは目を白黒させている
『ぴょ・・・ピョルちゃんはシンの・・・娘・・・なのか?』
『ええ。間違いないですわ。私が二人の毛髪を鑑定に出したのですから・・・』
『あぁっ・・・・』
思わず両手で顔を覆うヒョン・・・だがすぐに顔を上げ、疑問に思う事を口にする
『だが・・・あの時だってチェギョンさんは、そんな事一言も言わなかった。私に連れ子だと言われたら・・・
普通反論するだろう?』
『実はチェギョンさん・・・私にもまだピョルちゃんがシンの娘だと認めておりませんの。
あなたがあの剣幕で反対した時、もし・・・この事実をその場で告白されたらあなたはどうなさいます?
掌を返したように賛成もできず、相当困ってしまった筈ですわ。』
『今でさえ・・・穴があったら入りたい気分だ・・・』
チラとピョルに視線を向け、すぐにその視線を逸らし俯いたヒョン
ピョルはヒョンの隣に座り、その視線の先に自分の顔を持って行った
『グランパ♪』
『グランパ・・・とは・・・』
すかさずミンが説明をする
『おじいちゃんの事ですよ、あなた。ピョルちゃんがこんなに可愛い仕草をしているのに、
あなたは何とも思わないんですか?』
『ピョルちゃん・・・』
ヒョンは思わずきちんと座り直すと、ピョルの身体を抱き締めた
『ピョルちゃん・・・私の孫娘・・・』
『グランパ・・・グランパは私がママの連れ子でも優しくしてくれました。そんな顔・・・しないでくださいぃ~♪』
『ああ。これからはなんでも私に相談しなさい。なんでも力になるから・・・』
『シンも今頃、相当混乱している筈ですわ。』
『シンも・・・今日知ったのか?』
『ええ。つい先程空港で、この書類の原本をピョルちゃんから渡されて、立ち尽くしていましたから・・・』
『そうか。私も愚かだがシンも相当な愚か者だな。ピョルちゃんは・・・ママから聞いていたのかい?』
『いいえ。ママからはなにも・・・。ただピョルのパパは左利きだって聞いていたので・・・
グランマに相談してみたんです。』
『実は私は初めて逢ったその日に≪ピン≫ときたんです。なので・・・ピョルちゃんと協力して
親子鑑定に持ち込んだんです。』
『そうか。だからお前とピョルちゃんは随分仲が良かったのだな。』
『はいぃ~♪』
『ええその通りですわ~♪おほほほほ~♪』
『母さん・・・特別な時に利用する料亭にすぐ電話をしなさい。あの店は子供の好む料理も出してくれるはずだ。
今日は・・・お祝いだ。』
『はい~~ただいま♪』
ミンでさえ年に一度連れて行ってもらえるかどうかの高級料亭・・・ヒョンはピョルがイ家の子であることが
余程嬉しいらしい
この分では二泊三日の短い間に、ピョルは贈り物の山に埋もれそうだ
イ家がピョルを間に挟んで話に盛り上がっている頃、シンとチェギョンはチ済州島に到着し滞在先のホテルに
荷物を置いた
飛行機の中ではずっと寝ていたシン・・・降りてからも妙に言葉は少なめだ
『シン君・・・どうかしたの?何か嫌なことでも・・・』
『チェギョン・・・少し散歩に出よう。』
『えっ?でももうすぐ夕食よ。』
『待ってもらえばいい。行こう。』
『ええ。』
ホテルの中は快適な温度だが、外は真冬の季節・・・チェギョンは一旦脱いだコートを再び羽織り、シンと共に
ホテルの外に出て行った
もう・・辺りは既に夕闇に包まれ、散歩を楽しむような季節でも時間でもない
ホテルの前にある道路を横切り、シンは砂浜に降りて行った
チェギョンも後に続く・・・
黙って歩いていくシン・・・一体どこまで行くつもりなんだろうかとチェギョンが思った時、いきなりシンは振り向いた
『チェギョン・・・正直に話してほしい。ピョルの父親は俺なのか?』
『えっ・・・?ど・・・どうして?』
『ピョルから結婚祝いにピョルと俺の親子鑑定結果をもらった。それには・・・親子だと書かれていた。』
『どうしてピョルがそんなものを・・・』
『母さんとピョルがきっと結託したんだろう。どうなんだ?チェギョン・・・君の口から真実を聞きたい。』
チェギョンの頭の中にもいろんな思いがこみ上げてくる
ひた隠しにしてきた父親の真実を、娘のピョルは既に知っていたと聞き相当動揺している
『ええ。間違いないわ。』
『どうして・・・言ってくれなかったんだ?妊娠した時・・・いくらでも連絡できただろう?』
『連絡してどうするの?その時あなたに連絡をしたら・・・あなたはあの人と私の板挟みになって苦しむでしょう?
それに・・・政略結婚で結婚したばかりのあなたに、そんな事を言える?
あの時・・・10年前、後腐れがないよう綺麗に別れた筈でしょう?
正直な気持ちを言うと、言うつもりはなかったわ。一生ね・・・あなたと逢うこともないと思っていたから。』
『だが再会した。その時だったら言えただろう?』
『言えなかったわよ。今更そんなこと言える筈ないわ。』
『知らなかったとはいえ、俺はピョルにどんな顔をして逢ったらいい?君達親子を放っておいた罪を
どう償ったらいいんだ?』
『シン君・・・私は誰にも告げずに勝手にピョルを産んだことを責められたくはないの。
だからシン君も自分の事を責めないで・・・』
『だが・・・』
『あなたは自分の子だとしたない時も、十分すぎるほどピョルを愛してくれたでしょう?
だからそれでいいの。』
『チェギョン・・・一人でピョルを産んで辛くなかったのか?』
『以前、あなたのご実家で言ったはずよ。私が生きていくためにピョルを産んだって・・・。
それほど幸せだったのよ。あの子との毎日が・・・。
あなたが辛い毎日を送っているなんて知らなかったから、その点に関しては申し訳なく思うわ。』
『ピョルは俺を・・・許してくれるだろうか。』
『親子鑑定にお義母様が関わっているのなら、ピョルの耳にもソン君の事情は入っている筈よ。
なんといってもピョルはシン君が大好きだもの。
はぁ・・・でもお義母様とピョルが結託していたなんて・・・全く気付かなかったわ。
実はね・・・シン君と再会したその日に、お義母様から聞かれたのよ。≪ピョルちゃんはシンの子でしょう?≫って。
その時にね・・・親子鑑定するわよって脅されたの。くすくす・・・』
『母さんがそんなことを?』
『お義母様は最初から気付いていた。だから何としてもあなたと私を結婚させたかったのよ。』
『参ったなぁ。くくくっ・・・』
『それがすべてよ。10年寂しい思いをしてきたあなたの家族に、私とピョルが加わったのも
お義母様の願いなの。』
『つまり俺達は・・・母の手の上で転がされていたっていうのか。』
『そうね。もしかしたらピョルの手の上かもね。くすくす・・・』
『真実を君の口から聞けて安心した。あぁ・・・寒いな。ホテルに戻って食事にしよう。』
『ええそうしましょう。あ・・・ご実家に電話しなくていいの?』
『いいだろう。恐らく今頃・・・向こうも盛り上がっている筈だ。』
『きっとそうね。じゃ・・・行きましょう。』
足場の悪い砂浜を二人は手を繋いで歩いた
姿はここになくても二人の間にはピョルがいる
シンは星空に向かって感謝の言葉を胸の中で呟く
≪ピョル・・・生まれてきえくれてありがとう。≫と・・・
んっと・・・次回のお話は・・・
音読皇子がお休み中の為
軽く流させていただく方向で~(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
台風・・・来なければいいなぁ。
余計な物も・・・絶対に来ませんように・・・
もうお気づきかと思いますが
陽の当らない場所にいたのはチェギョンとピョルではなく
実は伸シン君の方だったのよね~♪
陽の当たる場所・・・それは温かい家族のいる場所なんです。