別れた妻ヒョリンの姿を見てシンは顔を顰めた
折角の婚約祝いの席が、台無しにされてしまう気がした
シンが女性連れであるのを知りながら、ヒョリンは当たり前のように近づいて来る
『久しぶりね。元気だった?』
『あぁ。そろそろ君は結婚するんじゃないのか?そう言っていただろう?』
そう問い掛けてすぐ・・・シンはヒョリンの体型に違和感を覚えた
離婚の時・・・確か妊娠しているとヒョリンは言っていた
あれからもう四カ月が経とうとしている
普通だったら妊婦であることが分かるほど、体型が変化する筈だ
するとヒョリンは平然とその疑問に答えた
『ああ・・・結婚?その話はなくなったわ。彼の奥さんと喧嘩になって・・・
子供は残念な結果になってしまったの。彼は元の鞘に納まり私は子供を失い彼も失った代償に
見合う慰謝料をもらって彼とは別れたの。』
『そうか・・・』
『今思えばあなたと一緒にいる時が一番自由で私らしく生きられたわ。
ねえ・・・近々あのマンションに戻りたいって考えているの。異存はないでしょう?』
ヒョリンと暮らしていたマンションなど、シンは既に手放していた
今は実家に戻り、チェギョンやピョルと暮らす家を検討している真っ最中だった
『あのマンションはもう俺のものではない。売却してしまったからな。』
『えっ?どうして?』
『俺は新しい家族を迎えることにしたんだ。新しい住まいを探すのは当然だろう?』
ヒョリンはチェギョンとピョルにチラと視線を向け、無礼にも鼻で笑った
『シン・・・あなたはそんなに子供が欲しかったの?だったらそう言ってくれればよかったじゃない。
何も好き好んで子供のいる人と結婚することはないのに・・・』
黙ってヒョリンの身勝手な言葉を聞いていたチェギョンとピョルだったが、とうとう我慢できなくなったようだ
『シンさんは・・・ピョルのパパになってくれるんです!』
我慢できずピョルはヒョリンを睨みつけた
だが・・・チェギョンはそんなピョルを制した
『ピョル・・・目上の人に対して失礼よ。あなたは黙っていなさい。』
そうピョルの事を制しておきながらも実はチェギョンも我慢の限界だったのだ
今目の前にいる女性が・・・あの時婚約者だった人だと知り、泣く泣く別れた10年前を思い出したのだ
今は・・・あの時と立場は逆転している
それに10年もの長い間、シンを幸せにできなかった人だ
『はじめまして。私はシン・チェギョンといいます。イ・シンさんの婚約者です。』
努めて冷静にそう告げたチェギョン
前妻のヒョリンは目を吊り上げた
『こ・・・婚約?子供のいる人と?ふふふ・・・面白い冗談ね。イ家のお義母様が・・・よくお許しになったわね。』
チェギョンとピョルを侮辱するようなその笑いに憤怒し、シンはヒョリンを牽制した
『冗談なんかじゃない。俺は彼女と結婚する。俺自身が家族になってほしいと心から願った二人だ。
今日は婚約祝いの席なんだ。もう・・・行って貰えないか?折角の食事が不味くなる。』
『ふっ・・・せいぜい世間の笑いものになるといいわ。』
忌々しそうに言い放ち踵を返したヒョリン・・・チェギョンとピョルは、シンの前妻が去っていって漸く
安堵したように溜息を吐く
『ふぅ・・・』
『はぁっ・・・』
そんな様子を見ていたシンは二人に向かってすまなそうに微笑んだ
『チェギョンにピョル、すまなかった。こんな席なのに一番逢いたくない人に遭遇してしまった。』
『いいえ。』
『大丈夫だよ~♪』
笑いものになる筈がない
なぜならピョルの父親はシンなのだ
そんなことは端から心配していなかった
だが・・・今まで逢ったこともなかったシンの前妻を目の当たりにし、チェギョンはシンの寂しかった10年を
改めて思い知らされた気分だった
『あぁそうだ。とんだ邪魔が入って渡すのが遅れてしまったが、これを・・・』
シンはポケットの中から婚約指輪の入った箱をテーブルの上に置いた
『まぁ・・・とても素敵ね。』
『シンさ~~ん、キラキラしてるぅ~♪ママ・・・早く手を出して♪』
『えっ?』
『シンさんにはめて貰わなきゃ~♪』
『あ・・・そうね。くすくす・・・』
シンは照れながらその箱に入った婚約指輪を取り出し、チェギョンの左手の薬指にはめた
『婚約おめでとう~♪』
満面の笑みのピョルは、両親が漸く結婚できると実感し胸を熱くした
その日家に帰ったピョルはチェギョンに話しかけた
『危なかったねママ。さっきの人、もしママがいなかったらシンさんの奥さんに≪また≫なりたいって
言いそうだったね。』
『ええきっとそうでしょう。でもピョル・・・あなたは子供なんだから、あんな風に目上の人に言ってはダメ!
それにきっと赤ちゃんを失くして落ち込んでいただろうから・・・。』
『えぇ~~っ!ママにはそんな風に見えたの?私には悲しんでいるように見えなかったけどな。』
『確かに・・・見た感じはそうだったけど、もしかしたら中身は違うかもしれないでしょう?』
『じゃあなに?ママはもしあの女の人が傷ついていたら、シンさんを譲るの?』
『それは・・・ないわ。』
『でしょう?私だって子供のくせにいけないって思ったよ。でもあの人の目つきが
あまりにも嫌な感じだったんだもん。我慢できなくて・・・
ごめんね。ママの言いつけを守らなかったこと、今回だけは許して♪』
『くすっ・・・仕方がないわね。でも今後は気を付けて頂戴。イ家のご両親にママの躾がなってないなんて
言われてしまうでしょう?』
『もちろん!これからはちゃ~~んと気を付けるよ♪』
そういいながらもピョルはミン・ヒョリンに一言言えたことが嬉しくて仕方がない
またチェギョンも婚約者だと名乗れたことが実は嬉しかったのだ
10年前決して手に入れることができなかった立場に、今自分がいるのだから・・・・
シンとチェギョンがいよいよ新居を決める時になって、イ家ではミンがそのことに関して文句を言い始めた
『どうしてマンションを買うの?ここに住めばいいでしょう?お庭だって広いしピョルちゃんも伸び伸びできるし~♪』
『いや・・・母さん、ピョルの学校の事もあるし、チェギョンの店の事もある。
店の近くに新居を購入します。』
『え~~~っ!そんなの納得できないわ。(折角ピョルちゃんと一緒にいられるというのに・・・)』
『いや・・・母さん、どうか母さんが折れてください。』
非常に不機嫌になったミンを、こっそりリビングに行って慰めたのはピョルだった
『グランマ・・・しょっちゅう遊びに来ますから~♪』
『本当に?』
『本当ですとも~♪』
『だったら仕方ないけど・・・ピョルちゃんと一緒に暮らしたかったわ。』
同居できないことを諦められないミン・・・いつかこの家に呼び寄せてやろうと、その時を待つことに決めた
チェギョンの店の程近くの新築マンションを購入した後、いよいよ二人は挙式準備に取り掛かった
ミンが出してきた招待客のリストを見て、シンは呆気にとられる
『母さん・・・俺は二度目なんですから、もっとこじんまりと挙式をしたいのですが・・・』
『何を言っているの!あなたは二度目でもチェギョンさんは一生一度の晴れ舞台よ。
それにあなたが本当に結婚したいと望んだのはチェギョンさんでしょう?
皆さんに見ていただかなくてどうするの!』
ミンの叱責でシンのこじんまり挙式したいという夢は儚くも消え、結婚式は予想以上に
派手なものになりそうだ
チェギョンサイドは店のスタッフと取引先の人間・・・それにごく親しい友人や近隣の親しい人たちを招くこととなり
それほど人数は多くないが、イ家は桁が違うほどの招待客を招くと聞き少し躊躇する
しかしそれもきっと自分への配慮なのだろうとチェギョンは自分を納得させた
衣装や挙式の演出などもミン主導の元に決められていき、招待状が出来上がった時・・・
チェギョンは親友であるガンヒョンに招待状を持って逢いに行った
恐らくピョルの秘密について感づいているガンヒョンには、再び紡いだシンとの縁を説明する必要があった
その日・・・ガンヒョンの夫は仕事で不在、二人の男児たちも学校で不在・・・そんな時を狙って
チェギョンはガンヒョンの元を訪れた
玄関のインターホンを押すとガンヒョンはすぐに扉を開けた
『チェギョ~ン久し振り~♪』
『ガンヒョン久し振り~♪』
『今日は一体どうしたの?』
『うん。ちょっと話したいことがあって。お邪魔してもいい?』
『もちろんよ。どうぞ上がって♪』
リビングに通された時、チェギョンは土産に持ってきた菓子を手渡した
『ピョルは元気?』
『うん、とっても元気よ。ガンヒョンのところは?』
『子供も旦那も元気よ~♪』
やがてお茶を煎れたガンヒョンがチェギョンの前にそれを出した時、チェギョンはカバンの中から
結婚式の招待状を取り出しガンヒョンの前に置いた
『実は・・・結婚することになったの。』
『えっ?本当に?』
ガンヒョンはその招待状を嬉しそうに封を開けた
ずっとシングルマザーでピョルを育ててきたチェギョン・・・
このまま女として幸せにならずに一生過ごすのではないかと心配していた親友が結婚するなんて
こんな喜ばしいことはない
ガンヒョンは嬉しそうに招待状を開き、チェギョンと連名の名前を見て驚愕の表情を浮かべた
『イ・シン・・・イ・シンってあのイ・シン?』
『うん。そうなの・・・』
『一体どうして・・・。』
『実は数カ月前に彼・・・奥さんと別れたの。』
『まさかアンタ達・・・ずっと逢ってたの?』
『ちっ・・・違うわよ。誤解しないで・・・。ある日彼が店に突然やってきたのよ。』
『そう。アンタ達が昔、こっそり逢っていたのには気がついて居たわ。』
『ふふふ・・・やっぱり?でも結婚前に終わったわ。あの時は・・・』
『ピョルのことは言ったの?』
『やっぱり・・・そう思ってた?』
『当り前でしょう?どう考えたって父親はイ・シンしか考えられないわ。』
『まだ・・・言ってないわ。』
『えっ?言ってないのに結婚することになったの?』
『うん。そのことを知らなくてもピョルのことをすごく可愛がってくれているわ。』
『はぁ・・・もぉ!早く教えてあげなさいよ。ところでうちのギョンは招待されないの?』
『もちろんされるわ。招待状を連名にしようか迷ったんだけど、私の招待客は少なくって・・・
だから招待状は別々だけど、二人の席は隣同士だからね。もちろん夫婦として来てね。』
『解ったわ。でもよかったじゃない。もし未来がこうなるってわかっていたら、あの時奪っちゃえばよかったのに・・・』
『そんなことできなかったわよ。今だから・・・私達は結婚できるの。』
そう言って微笑むチェギョンの言葉には、10年という歳月の重みをガンヒョンは感じた
遠回りしなければ成就することのなかった恋
だが・・・二人の間には美しく育ったピョルがいる
『幸せになるのよ。必ず・・・』
『ありがとうガンヒョン・・・』
仕事を持ちながら子供を産み一人で育てることは、並大抵の苦労ではない
それを知っているだけにガンヒョンは、ようやく訪れた親友の結婚が嬉しくて仕方がなかった
年が変わり挙式を目前に控えたある日、チェギョンとピョルは新しいマンションに引っ越しを済ませた
店舗が見えるほど近い距離にあるマンションは、新しい電化製品が続々と運び込まれ
ピョルも以前より広い部屋をあてがわれとても嬉しそうだ
こうして再会から五か月後・・・二人はいよいよ華燭の典を迎えることとなった
本日・・・我が家の次男君は
センター試験の出願料を払い込んでまいりました。
いよいよ・・・だね。
受験生の皆様~~頑張ってくださいね~❤
いや…受験生の母くらいの年代しか
ここには来ないだろう(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
受験生の母・・・共に頑張りましょう❤