『シンさん、ここにどうぞ♪』
ピョルに促され腰掛けたピンクのソファー
なんとも居心地の悪い気分で部屋の中を眺めていると、ピョルは本棚の中からアルバムを取り出し
シンの元に運んだ
『シンさん・・・どうぞ。見てください~♪』
『ピョルのアルバムか?』
『はいぃ~♪』
『じゃあ見せて貰おうかな。』
ちょこんと隣に腰掛けたピョルは、シンの膝の上に置かれたアルバムの説明をしようとしていた
その大きなアルバムを開くと、まず一番最初のページに生まれたばかりのピョルの写真があった
『ピョルは・・・赤ん坊の頃から美人さんだったんだな。』
『そうでしょう~♪あはは~♪』
何枚もの生後間もないピョルの写真・・・その後にはチェギョンがピョルを抱いている姿があった
『これは・・・誰が撮ってくれた写真だろう。』
ついシンは呟くように尋ねた
『あ~ガンヒョンおばちゃんだって言ってました~♪』
『ガンヒョンが?』
今は親友チャン・ギョンと結婚し、二人の男児の母となっているガンヒョン
(ガンヒョンも知っていたのか。一言でもチェギョンの様子を教えてくれていたら・・・
いや、チェギョンが子供を産んだと聞かされても、その時の俺になにができたというんだ!
しかし・・・ピョルの父親は、こんなに可愛い娘が生まれたことすら知らないなんて・・・
なんて愚かな男なんだ。)
まさかその愚かな男というのが、自分を指すとは思っていないシンはその見えない敵に向かって悪態をついた
その写真の端に小さく日時が映っていたのだが、シンはそれにも気が付くことはなかった
ピョルはピョルで父親であるシンに、自分が生まれてから今までの写真を見せて幸せな気分に浸っていた
(パパ・・・これが私の歴史だよぉ~♪可愛いでしょう?ママに負けないくらい・・・)
アルバムをめくっていくうち、小学生になったピョルの運動会の写真がたくさん張られていた
そしてそこには毎回イ・ユルの姿があることを知ったシンは、思わず顔を顰めた
(あの男が・・・この親子の席に当たり前のように座っている。なんだか非常に腹立たしい・・・)
チェギョンの作ったであろう豪勢な弁当を幸せそうに口に運ぶユルを見て、余程不機嫌そうな顔をしたのだろう
それに気が付いたピョルは心配そうに問い掛けた
『シンさん?シンさん・・・どうかしましたかぁ?』
『あぁ?あ・・・いや、今年の運動会はこれからなのか?』
『はいぃ~♪』
『今年は私が・・・一緒に行っても構わないか?』
『えへへ~♪もちろん❤』
『そうか。だったら今年はテントにテーブルも用意しないとな。』
『えっ?・・・シンさんどうしてですか?』
『直射日光を浴びるなど、絶対によくないだろう?』
『いやいやいやいや~~シンさん、この写真を見てください。みんな敷物を敷いてお弁当を食べているでしょう?
そんな目立つこと・・・うちのママは嫌いなんです。他の家と同じように・・・っていつも言ってますから~♪』
『そう・・・なのか?』
『はい!だからシンさんは、ママと一緒に敷物を敷いて、その上に座って運動会を見ていてください♪』
『ピョルがそういうのなら・・・』
生まれた頃からのたくさんの写真を眺めながら、シンはこの親子が決して不幸ではなかったと改めて思う
どの写真も幸せそうに微笑んでいるのだ
(それに比べてこの俺は・・・)
何の実りもなくただ我武者羅に仕事をするだけの日々・・・幸せとは程遠くただ身体を休めるためだけの家
そんな10年を思い返し切ない気持ちに陥っていた時、不意にピョルは思いがけないことを言い出す
『そうだ~~!≪デザートは別腹のおばちゃん≫も誘ったら、きっと来てくれるかも~♪
おばちゃんとピョルはすんご~~く仲良しなんですぅ♪』
もちろんミンがその誘いを断る筈はないと、ピョルは確信した上で言ったのだ
『母を?そうだな。誘ってみよう。』
シンにしてもこの先家族にと考えている人の娘の運動会に、ミンが顔を出すのはとても喜ばしいことに思えた
アルバムを閉じた時部屋がノックされ、チェギョンが顔を覗かせた
『お待たせしました。今準備するからもうちょっと待っててね。』
『あぁ。なにか手伝おうか?』
『ええそうね、準備ができたら呼ぶから、そうしたら一緒に屋上に運んでくれるかしら?』
『あぁわかったよ。』
再び扉が閉まった時ピョルは満面の笑みで言った
『ママ・・・いいお肉が買ってあるって言ってた。いいお肉なんか滅多に買ってくれないけちんぼのママなのに
今日は特別かなぁ~♪ひょっとしてシンさんに食べさせたくて買ってきたのかなぁ~♪』
『くっ・・・ピョルがたくさん食べて大きくなるようと買ってきたに決まってる。』
『そうかなぁ・・・❤』
娘からみても母親が嬉々として食事の支度をする様子は、二人の気持ちがかなり近づいているからと感じていた
(あと一押し♪)
そう思いながらもピョルは極力出しゃばらず、二人の仲睦まじい姿を見ていたいと思うのだった
『本格的だな・・・』
『そうでしょう?ピョルとよくこうして約肉をするのよ。』
『いつもは安いお肉だけどね~♪あははは・・・』
『もぉ・・・ピョルったら、そんなこと告げ口しないの!くすくす・・・』
バーベキューコンロの中には赤々と燃える炭が並び、その上に置かれた網は食材が並ぶのを
今か今かと待っている
チェギョンはその網の上に次々よ肉や野菜を並べた
<ジューーーッ・・・>
たちまち辺りには野菜や肉の焼けるいい匂いが立ち込める
『あ・・・もう食べ頃かも♪』
ピョルが利き手を伸ばしたその時、シンはそれを遮った
『ピョル・・・私が取ってあげるから、待ちなさい。』
『えっ?自分で取れますぅ~♪』
『いいから!』
シンはチェギョンが用意したサンチュを皿に敷き、その上にご飯を載せると焼けた肉を更に載せくるくると包んだ
『ほら・・・食べなさい。』
『えっ❤はぁ~~い♪』
シンにしてみれば今日火傷を負わせてしまったピョルの左手を、バーベキューコンロに近づけさせたくなかったのだ
まさに無意識の父性愛発揮
次々と肉や野菜をサンチュに包み、ピョルに手渡すシン
ピョルはその都度嬉しそうにそれを口に放り込み、幸せそうに微笑む
『シン君・・・あなたも食べて!』
隣りにいたチェfギョンは、シンの為に肉をサンチュで包みシンの皿に置いた
『あ?あぁ。ピョルの食べる顔があまりにも美味しそうだから、ついもっと見ていたくて・・・』
シンはチェギョンが包んでくれた掻き肉を口に放り込み、少し照れ臭そうに食べた
『あぁ!本当に美味しい肉だな。これは・・・』
『本当に美味しいよね。シンさんも食べなきゃ・・・』
『あぁ。』
そういいながらもシンはピョルの世話に忙しい
『あら?もうお肉がなくなっちゃったわ。ちょっとキッチンまで取りに行ってくるわね。』
『あぁ。一人で運べるのか?』
『大丈夫よ。ピョルの相手をしていてね。』
『あぁ。』
チェギョンがキッチンに向かった後、シンはピョルにサンチュで包んだ肉を手渡しながら言った
『火傷が酷くなったら大変だろう?』
『あ~それでシンさん、私のお世話ばかりしていたんだぁ。確かにバーベキューコンロは熱いし・・・』
『しかしピョルの美味しい顔は最高のご馳走だな。』
『え~~っ?そんなに美味しい顔してましたかぁ?』
『あぁ、ずっと見ていたい癒される顔だ。』
『えへへ~~~♪(それはパパとママが一緒にいるからですぅ~♪)』
『ピョル・・・私は君のお父さんになりたいと願っている。お母さんとの結婚に賛成して貰えないか?』
『えっ?ママと結婚?(てか…元々パパだよ~あはは~~♪)
もちろん大賛成~♪シンさんにパパになってほしい。』
『わかった。ピョルも賛成してくれたことだし、君のお母さんと結婚できるよう頑張るよ。』
『はいぃ~♪早くパパになってください♪えへへへ~❤』
『くくくっ・・・』
二人が楽しそうに顔を寄せ合い笑っていた時、チェギョンもまた笑顔で次の材料を運んでくる
『あらあら・・・なんだかとても楽しそうね。何を話していたの?』
『あぁ?君との結婚をピョルに承諾してもらったんだ。』
『くすっ・・・そうだったの。でもあなたのお父様が反対なさっているうちはダメですからね。』
『問題はそこなんだ。どうも父は君の事を誤解しているらしい。』
シンのその言葉に同調しピョルも頷いた
『誤解?』
『あぁ・・・俺が騙されているんじゃないかと勘繰っている。』
『まぁ・・・。』
一瞬顔色を曇らせ、今持ってきた材料をバーベキューの網に載せたチェギョン
『確かに・・・環境だけ見たら誤解されても仕方ないかも。
でも・・・私はシン君を騙すつもりもないし、騙す理由もないわ。
(あるとしたらピョルの事だけ・・・。他は何も後ろめたいことはないわ。)
誤解されるのは・・・あまりいい気分じゃないわね。わかった。次の日曜日・・・シン君のお父様に
お時間作っていただけるようお願いして貰えない?
私から話をしてみるわ。』
『えっ?君から?いや・・・だが・・・父は君に酷い事を言うかもしれない。』
『うふふ~そんなの怖がっていたら、店なんか続けていけなかったわ。。
シン君…アポイントを取っていただける?』
『あぁ、わかった。だがその時は俺も同席する。』
『ええ。私の営業手腕をシン君に見せてあげるわ。』
人の助けは借りたが、長い年月両親から受け継いだ店を切り盛りしてきたチェギョンには
たとえ大会社の社長であろうと勝つ自信があった
『ピョルも~一緒に行っていい?』
『ええ。邪魔をしないのならね。』
『もちろん~私は≪デザートは別腹のおばちゃん≫と遊んでいるも~~ん♪』
こうして負けず嫌いが発揮され、チェギョンはイ・ヒョンに直接誤解を解きに行くことになった
もちろん・・・その場で娘の出生の秘密に触れることはなく、あくまでも自分という人間を認めさせようという
正面突破の作戦だった
あらやだわ奥さん・・・
チェギョンたら、シン君がヒョンさんを説得するするのを
待てなかったらしい(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
さて次回・・・チェギョンは乗り込むぞ~イ家に・・・
頑張っていただきましょう~♪