夢中になってパスタを口に運びながらシンはチェギョンに話しかけた
『チェギョンが・・・料理上手だなんて知らなかったな。』
『くすくす・・・見直した?』
『あぁ。ピョルは毎日こんな美味しい料理を食べているのか?羨ましいな・・・』
『えっ?うん。もちろん毎日食べているよ・・・』
そう答えながらピョルの視線は右隣に座ったシンの左手に集中している
(シンさんとママって・・・昔どんな関係だったんだろう・・・友達って言っていたけど・・・)
ピョルの幼い頭の中は混乱し、自然と手が止まってしまう
『ピョル・・・どうしたの?暑くて食欲ないの?』
『えっ?ううん、そんなことないよ♪』
頭のをが自分の父親の事でいっぱいにしながら、必死にパスタを口に運ぶ
二人きりの家族に心配を掛けない・・・それがピョルの信念だった
『さぁ食事したらピョルは塾に行かなくちゃね。シン君もお仕事に戻ってね。』
『あぁ。』
『はぁ~い!ママ・・・行ってきまぁ~す♪』
塾用のカバンを手に提げたピョルと店の前で別れながら、シンはピョルに告げた
『ピョル・・・気を付けて行っておいで。寄り道しないで返るんだよ。』
『うん。シンさんまたね~♪』
家を出て塾に向かって歩きながら、ピョルは必死に考えていた
(でもシンさんは結婚していたって言ってた。もしかしたら私は・・・シンさんとママが不倫して生まれた子なの?)
ひょっとしたらシンが父親であるかもしれない喜びよりも、自分という存在が
ひとつの家庭を壊した元凶のような気がして、ピョルは気持ちが沈んでいった
その日の塾の授業は・・・全く頭に入らないピョルだった
その日・・・三時の休憩をスタッフにとって貰っている時だった
店内にはチェギョン一人しかいなかった
そんな時・・・まるでその隙を狙ったかのような客が訪れた
『こんにちは~♪』
『いらっしゃいませ。はっ!』
入り口から入ってきた人物を目にし、チェギョンは非常に狼狽えた
そこに立っていたのはシンの母ミンだったのだ
(うわっ!シン君のお母様だ。ど・・・どうしよう・・・)
『ここがチェギョンさんのお店?素敵な雑貨がたくさんあるのね~♪どれ・・・見せていただこうかしら♪』
『あ・・・はい。』
ミンは輸入雑貨の数々を手に取りながら、小声でチェギョンに話しかけた
『チェギョンさん・・・別にあなたを脅すうつもりはないの。私はあなたやピョルちゃん・・・
それにうちのシンを、一番良い未来に導いてあげたいと思っているのよ。
昨晩シンとはどんな話をしたの?』
『あ・・・お付き合いをして欲しいと言われました。』
『その顔は・・・即答しなかった・・・そうでしょう?』
『はい。私にはピョルがいますから・・・』
『そうね。ピョルちゃんの気持ちが最優先だわ。でも・・・あなたに知っていてほしいことがあるの。
シンは10年間前妻と仮面夫婦を演じていた。我が家に連れてきたことだって一度もなかったわ。
その間あなたは大変な思いをしたでしょうけど、シンも同じように心の通わない人と虚しい時間を過ごしていた。
それだけは理解してほしいの。決して幸せなんかじゃなかったわ。』
『そうでしたか・・・』
『政略結婚だったのは聞いているでしょう?10年間ずっとそのままだった。
私は・・・あなたやピョルちゃんはもちろんの事、シンにも幸せになって貰いたいの。
前向きに・・・考えていただけない?シンと家族になってほしいの。』
『・・・・・ですがシン君のお父様は、あまり私を快く思っていなようにお見受けしました。』
『それは・・・真実を知らないからよ。知ったら大変なことになるわ。』
『・・・・・』
ね・・・これが一番いい方法だと思うの。『前向きに考えていただけないかしら?』
『・・・よく考えてみます。』
ミンはその後、店内で気に入った雑貨を数点購入し意気揚々と去っていった
その後ろ姿を見送りながら、チェギョンはひとつ溜息を吐いた
(はぁ・・・ピョルと二人で、平和に暮らしていたんだけど・・・あのお母様はピョルがシン君の子だと確信しているし
シン君はピョルが他の男の子だと思い込んでいるし、ピョルにはなんて話したらいいのかわからないし・・・
一体どうしたらいいの~?)
シンを拒む理由などどこにもないのだが、10年の歳月が思い出に変えた恋を再燃させるには時間が必要だった
チェギョンの店の袋を両手に提げ、ミンが駐車場に歩いていった時の事だった
前方から手提げかばんを持ったピョルが、なんだかしょんぼりと歩いて来るのが見えたのだ
『ピョルちゃ~ん♪』
ミンの声に俯いた顔を上げたピョルは、満面の笑みをミンに向けた
『おばちゃ~~ん♪』
『昨日はどうも。ケーキは食べたかしら?』
『はいぃ~♪朝ご飯の後食べちゃいました。美味しかったですぅ~♪あれ?ママの店に行ったんですかぁ?』
『ええそうよ。今お買い物してきたのよ。それよりどうしたの?随分悩んでいますって顔つきをしていたけど・・・』
『えっ?あ・・・』
ピョルは咄嗟に思いついた
ミンなら何か知っているかもしれないと・・・
『あの・・・おばちゃんにちょっと相談があるんです。』
『えっ?相談?もちろんなんでも相談に乗るわよ~♪じゃあちょっとこのお買い物袋を車に置いて来るから
そうしたら近くのカフェにでも行きましょう~♪』
『はいぃ♪』
ピョルを従えて一旦車に戻ったミンは、トランクルームに今買ってきたばかりの雑貨をしまった
それから再びピョルと歩き出す
『お店の近くに確かカフェがあったわね?』
『あ・・・おばちゃん、お店に近くない方がいいです。』
ピョルのその口ぶりで、あまり近所の人と遭遇したくない、込み入った相談事だと察したミンは笑顔で告げた
『じゃあピョルちゃん、そこのパーラーはどうかしら?』
『あ・・・そこだったら大丈夫です。』
『じゃあ行きましょう♪』
パーラーに入った二人は、ピョルの要望で隅っこの席に腰を下ろした
そしてそれぞれに思い思いのものを注文したあと、ピョルは真剣な眼差しで問いかけた
『あの・・・おばちゃん、昨日私のパパは左利きだって言ったでしょう?』
『ええ。あなたのお母さんがそう言ったのよね。』
『はい。今日・・・気づいちゃったんです。シンさんも・・・左利きだって・・・』
(ほら見なさい。この察しの良さ・・・私の孫に間違いないわ!)
『そうよ。シンも左利きなの。』
『おばちゃん・・・もしかして私は、ママとシンさんが不倫して生まれた子・・・なんでしょうか?』
『えぇっ?・・・』
ミンは絶句した
ピョルは察しがいいばかりに、余計なことまで心配しているのを知り啞然とした
『だからもしかしてシンさんは、奥さんと離婚したのかなって。
私が・・・いるから・・・なのかなって・・・』
ミンはすぐに首を横に振った
『ちっ・・・違うわピョルちゃん。そうじゃないわ。
実を言うとね・・・ピョルちゃん、私もピョルちゃんのお父さんはシンなんじゃないかって思っているの。』
『おばちゃんも?』
『ええ。でもあなたのお母さんは・・・それを認めなかった。そうだともそうじゃないとも答えなかったの。
あなたのお母さんは不倫なんかする人じゃない。いつも胸を張って堂々としているでしょう?』
『はい。ママはいつも堂々としています。』
『大人の話だから難しくなるけど・・・きっと昔二人はすごく愛し合っていたと思うの。
だけどその時シンは会社の為に結婚する相手が決まっていてね。
泣く泣く二人は別れた。そして別れた後ピョルちゃんがお腹にいることにあなたのお母さんは気が付いた。
きっとそんな感じじゃないかと思うのよ。』
『は・・・い・・・』
『でもチェギョンさんはそのことをシンに言わなかった。だからシンはピョルちゃんが自分の子供だと知らない。』
『知らない・・・んですか?』
『あくまでも私の推測だけどね・・・。ピョルちゃんはシンの事が嫌い?』
『いいえ。すごく好きです。優しいしカッコいいし。』
『だったらおばちゃんと一緒に、二人を結婚させちゃいましょうよ。』
『えっ?』
『そうしたらピョルちゃんにはお父さんができるわ。』
『でも・・・もしかしたら違うかもしれない・・・』
『そうね・もしかしたら違うかもしれない。でもおばちゃんは真実を確かめたいわ。
ピョルちゃんの髪を2~3本おばちゃんにくれる?』
『えっ>どうしてですか?』
『シンと親子鑑定してみるわ。』
『なんだか少し怖いけど・・・』
ピョルは戸惑いながらも数本髪を引き抜いた
『これで・・・いいですか?』
『あ~こんなに抜いちゃって、痛かったでしょうに・・・』
ミンはピョルの髪を数度撫でた
『大丈夫です♪』
『もしもピョルちゃんとシンが親子でなかったとしても、私はもうピョルちゃんのおばあちゃんになるつもりよ。
だからピョルちゃんは・・・お母さんの説得をお願いね。』
『どう説得したら・・・いいんですか?』
『お母さんの前でシンの事を褒めちぎるの。≪あんなパパが欲しいな~~≫ってね。できる?』
『できますとも~♪』
その時ウエイターがオーダーした物をテーブルに運び、二人の密談は少し中断された
『さぁ食べましょう♪』
『はいぃ~♪』
ミンはコーヒーフロートを・・・そしてピョルはチョコレートパフェを食べながら密談を再開させた
『あ~でも・・・お母さんに内緒でピョルちゃんと連絡を取る方法はないかしら・・・』
『あ・・・おばちゃん、私携帯を持っています。』
『まぁ!そうなの?じゃあ番号を交換しましょう♪』
『はいぃ♪』
ピョルはミンのナンバーを≪おばちゃん≫とだけ入力し、ミンは≪イ・ピョル≫と入力した
こうしてミンとピョルは、二人を結婚させる為に最強のタックを組んだ
『さぁ遅くならないうちにおうちに帰りなさい。』
店が見える場所までピョルを送り、ミンはそっとその背中を押した
『はい!じゃあおばちゃん・・・今日もご馳走様でした。』
『電話するわね。』
『はいぃ~待ってまぁ~す♪』
その場でピョルを見送るミン・・・ピョルは店に入る前一度振り向いてミンに向かって小さく手を振った
(まったく・・・なんて可愛い子なのかしら。それにしても自分を不義の子だと思うなんて
なんて可哀想なことをしたのかしら・・・さぁ~急いで親子鑑定しなくっちゃ。
私にはピョルちゃんという強い味方がいるんですもの~おほほほほ~♪)
駐車場に戻ると一旦自宅に戻り、その後またすぐに懇意にしている医師の元に急ぐミンだった
その夜、チェギョンの携帯には10年ぶりにシンの名前が表示された
『チェギョンか?』
『ええ。』
『電話をするのが久し振りで緊張した。』
『くすくす・・・いい大人が何を言っているの。あ・・・そうそう!今日あなたのお母様が店に来られたわ。』
『えっ?一体何をしに?』
『えっ?・・・ただの買い物よ。』
『そうか。母はきつい性格だから、何か嫌なことでも言われてないかと思って・・・』
『そんなことはないわ。』
『今日はご馳走様。』
『えっ?何のこと?』
『昼食だよ。』
『くすくす・・・特別な物じゃないわ。スタッフさんも同じもの食べているのよ。』
『俺にとっては特別だった。とても美味しかった。』
『またどうぞお越しください♪でもね・・・昼食を抜くなんていけないわ。だから昼休みに来る時には
事前に連絡して。昼食を用意しておくから。』
『あぁ。ありがとう。』
他愛のない会話がシンの胸を熱くさせた
ずっと飢えていた家族とは・・・こんな温かさがあるのじゃないのかと思い、
シンは益々チェギョンと離れた10年の距離を、縮めていこうと心に誓った
う~~ん・・・残暑厳しゅうございますね。
暑いし雷は怖いし
本当に日本の気候はどうなっているんでしょう。
そうそう・・・最近ね
朝お洗濯干しにベランダに出ると
必ず≪ブーン≫って怖いのが飛んでくるんです。
これがカナブンなのかスズメバチなのかわからず
ベランダで洗濯物を振り回し
戦うアタクシなんですぅ・・・
近所の人が見たら、なかなかシュールな光景です。
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!