ミン・ヒョリンとイン君を前に、私は憎悪が抑えきれなかった
八つ裂きにしても足りない・・・確かにそう思っていた
だけど・・・そんな私の元に、お姉ちゃんがやってきてそっと耳打ちしてくれた
『殿下・妃宮様・・・内親王様は栄養状態も良く、どこにも異常は見当たりません。』
それを聞いて心から安堵する
ヒョリンはあの子に殺意があったと口にした
昔、私にしたように抹殺しようと考えたのだ
だけどできなかったという・・・
『あなたのせいで私の家はメチャクチャになった・・・』
それは私のセリフよ。あなたの家族が私にしたことをよく考えてみなさい!
そんな憤りが胸の中を過る
あなたの家族は私と私の両親二代に渡って、子を失う恐怖を味合わせたのよ
『極刑にしたらいい・・・』
半ば自暴自棄になっているヒョリン。それも当然かもね・・・事件を公にして私が望めば、あなたの命さえ
公然と抹殺できる立場に今の私はいるもの
あなたが私だったらきっとその選択をしたことでしょうね
でも・・・私はあなたとは違う
人の命を奪ってその恨みを末代まで買うなんてまっぴらご免よ
もうこの辺りで終わりにしたいの
恨みの連鎖なんて良いことは絶対にない
そう思った私はイン君に尋ねた
『イン君・・・あなたは今回の一件に加担していないのね?』
『はい・・・知りませんでした。』
『でもヒョリンとは連絡を取っていた・・・これはこんな事件を起こしたヒョリンでも、
あなたは受け入れる覚悟があるという事?』
『えっ?』
イン君は相当面食らった顔で私を見つめた
もちろん夫であるシン君は、私が何を言い出すのか皆目見当もつかないみたい
『ご実家を捨ててもヒョリンを守れるのかと聞いているの。』
イン君は私の目をじっと見つめ、その真意を必死に探ろうとしていたみたいだけど、本音は隠せない
すぐに頷いた
『はい。』
その目に嘘はないと思った
シン君だけが狼狽え、私を止めようとしたけど・・・今回の件は私に決着をつけさせてもらうわ
だって・・・元々私とヒョリンの戦いだもの
『だったらヒョリンとお母様を連れて、海外に行っていただけないかしら。
ヒョリンのお母様はヒョリンが出て来たら恩赦を願い出るつもりだったの。
あなたの負担は大きいけどお願いできる?
皇室や皇室警察の貴重な人材を、ヒョリンの監視の為に赴任させることはできないわ。
だからあなたの責任でヒョリンを見張っていただけるかしら?もう二度とこの国に戻って来ないように・・・』
私の言葉に愕然としたのはヒョリンだった
『何を言っているの!あなたおかしくなったんじゃないの?』
ええ確かにおかしくなっているのかもしれない
でも復讐心の連鎖を止めるには、これしか方法はない
『チェギョン・・・落ち着いて考えてくれ。少し冷静になって・・・』
私の手を握り締め今言った言葉を撤回させようとするシン君
私は至って冷静だわ・・・言葉にはせず私はシン君に微笑みかけた
それからヒョリンを見つめ私の真意を伝えた
『あなたは海外でイン君とお母様と一緒に暮らすの。そして結婚して子供をもうけるがいいわ。
子供が生まれた時・・・あなたは自分のしたことを死ぬほど後悔するだろうから。』
『なっ!』
『その子供を育てながら、自分の罪を悔いて生きていくがいい。それがあなたに対する処罰よ!』
ヒョリンは思いもしなかった言葉を私に告げられ相当戸惑っているようだ
イン君は?イン君はどこか安堵した表情で自分に言い聞かせるように何度も頷く
あなたには本当に大きな重荷を背負わせてしまうけど、これもヒョリンを愛したあなたへの処罰だと思ってほしい
『それじゃあ・・・私はまだすることがあるのでこれで失礼するわ。
お母様が出所される時連絡を入れるから、イン君・・・よろしくね。』
『解りました。』
『それと・・・国を離れる前に一度だけ、ヒョリンとお母様に終身刑のお父様と面会させるわ。
それを今生の別れだと思ってちょうだい。
念を押しておくけど・・・イン君はともかくあなたとあなたのお母様はもう二度とこの国の地を踏めない。
また・・・このような事件が起こった折には、今度はあなたを支えてくれるイン君やイン君のご実家さえ
破滅させてしまうことを承知して頂戴。もちろんあなたのお父様は・・・その罰を一番最初に
受けることになるでしょう。』
私が立ち上がるとシン君も共に席を立った
シン君の言いたいことはわかっている
このような生ぬるい処罰では・・・きっと納得してもらえないだろうと思った
叱られるかもしれない
でも皇族が一旦口にした言葉を撤回することはできない
それも承知で・・・私は処罰を命じたのだった
チェギョン・・・俺の妻はにわかに信じられないことを言い放った
だが・・・ミン・ヒョリンにその言葉を言い渡している時の妻は、毅然として皇族に生まれ付いた俺よりも
皇族にふさわしいと思えるほどだった
傍目に見たらとんでもなく甘い処罰だろうが、恐らくミン・ヒョリンの心を呪縛したに違いない
子を産んだ時・・・子を育てている時・・・
幸せに思える瞬間にも、常に自分の罪に苛まされるのだ
また・・・今度は自分の子が奪われるのではないかという恐怖心も抱くに違いない
自分がしたことは必ず我が身の恐怖となって返るのだ
これは精神的にとても酷な処罰と思えた
ミン家の夫人の恩赦に関して、俺はこの事件が起こってから認めまいと決めていたが・・・
チェギョンがそう望むのなら仕方ないだろう
とにかくここから先皇室警察の対応は俺がしよう・・・少しでもチェギョンを休ませてあげないとな・・・
そう思っていた俺だったが、チェギョンにはまだすることが残っていた
イム看護師と元宮殿の女官が待っている部屋へと向かったのだ
そうだな・・・
ヒョリンに寛大な処罰を下しておいて、イム看護師を厳重に罰するのは平等ではない
今はチェギョンの思ったままに、行動させてやろう
それが内親王を無事出産したチェギョンへの褒美だ
二人を待たせた部屋に入って行くと、二人は項垂れテーブルの上に水たまりができるほど涙を零していた
そうだろうな・・・事が露見するのは時間の問題だとイム看護師も知っていた筈だ
『申し訳ございません!殿下・・妃宮様・・・』
先に声を掛けたのは元女官だった
『チェ尚宮さんから話は聞いておりました。お母様を説得してくれてありがとう。
おかげで無事・・・内親王も戻りました。』
チェギョンがそう声を掛けた途端、イム看護師は椅子から立ち上がり床にひれ伏した
『とんでもないことをいたしました。どんな罰も受ける覚悟です。
本当に申し訳ございません!!』
俺は我慢できず本音を口にした
『看護師ともあろう者が、生まれたばかりの赤ん坊を連れ出すなんて到底許せることではない!!』
『十分わかっております。』
ひれ伏したまま泣き崩れるイム看護師
驚いたことにチェギョンは椅子から立ち上がると、イム看護師の元に歩み寄りその身体を起こした
『あなたが付いていてくれたから、あの子は生きていられた。あの子のお世話をしてくださっていたんでしょう?』
チェギョン・・・何を言っているんだ?この女は俺達の娘を連れ去った憎い女だ
『すみません・・・すみません・・・』
再び泣き崩れそうになる女をチェギョンは椅子に腰掛けさせ、ひとつ深呼吸をした
それから二人に対する処罰を口にした
『私からの処罰を言い渡します。イム看護師・・・あなたはもうこの王立病院で働くことはできません。
それはお分かりですね?』
『はい・・・』
『東宮で内親王の世話係を命じます。』
『えっ・・・?』
これにはさすがの俺も驚いた
『チェギョン・・・』
だがチェギョンの決心は変わらない
俺の呼びかけに答えることなく、先の言葉を続けた
『終生東宮で内親王のお世話をするのです。それが今回の事件に対するあなたへの処罰です。』
『妃宮様・・・そっそれは・・・』
チェギョンの視線は娘に移動した
『あなたも・・・お母様が東宮でどんな待遇を受けているのか心配でしょう。
宮殿の女官に復職してください。そして万が一にもお母様が罪を犯さない様、見張ってください。』
『妃宮様・・・そんな・・・本当にそのような温情を掛けていただけるのですか?』
『ブランクがあるので大変かと思いますが・・・チェ尚宮さんの下で働いてください。
それだったらあなたも安心でしょう?』
『妃宮様・・・』
元女官は先ほどまでと違った涙で顔を濡らした
処罰を下した後チェギョンは漸く安堵の笑顔を浮かべた
間違いなくイム看護師は、内親王の忠実な世話係となるだろう
こんな処罰・・・俺には考えられなかった
凛とした笑顔のチェギョンの横顔は、まるで五年前ミン・ヒョリンと対峙した時以上の神々しさがあった
蒼い月・・・今は怒りの炎ではない
温情に満ちたその月は俺にさえ口出しできない神々しい光を放っていた
いや~~ん、もうみんながっかり?
でもここのチェギョンの下した判断は
これだったんです~♪
台風の被害・・・いかがでしょうか。
ここに来て下さる方で
警戒地域にお住いの皆様
どうか被害が出ないことをお祈りしております。
でもここのチェギョンの下した判断は
これだったんです~♪
台風の被害・・・いかがでしょうか。
ここに来て下さる方で
警戒地域にお住いの皆様
どうか被害が出ないことをお祈りしております。