ギョムが生まれてから暫く、私は夏休み中ということもあり自室で身体の回復と育児に専念していた
そんなある日、公務から戻ったシン君はいつも通り真っ先に私の部屋を訪れた
しかもすごく大きな箱を持ってきたので非常に驚いた
『チェギョン・・・ただいま。』
そういいながらシン君はその大きな箱をテーブルの上に置くと、いつものようにギョムのベッドを覗き込んだ
『ギョムただいま・・・今日もいい子にしていたか?あぁ?少し逢わない間にまた男前になったんじゃないのか?』
少し逢わない間って・・・今朝顔を見たじゃない・・・
私は呆れながらシン君におかえりを言う
『シン君おかえりなさい。』
『あぁ・・・ただいま。』
そしてシン君はベッドサイドに腰掛け私にキスをくれる
男児が生まれたのにもう私は二番目?これじゃあ女の子を産んだら先が思いやられるわ
少し拗ねながらシン君のキスを受けた私は、その大きな箱が気になって仕方がなかった
『ねえシン君・・・あの箱は何?』
『あぁあれは・・・今さっき宮殿の入り口で、元相撲部五人組が俺を待っていてこれをくれたんだ。
ギョムの誕生祝だそうだ。』
『えっ?元相撲部のみんなが来てくれたの?あぁぁ・・・逢いたかったなぁ。』
『馬鹿をいうな。お前は産後の一番女性らしい時期なんだ。逢わせられるは筈ないだろう?』
えへへ・・・妻に対しての愛情はまだ健在ってわけね
『みんながくれた贈り物って・・・何だろう?』
『見てごらん。』
私はなんだかワクワクする気分でベッドから降りると、ソファーに腰掛けその大きな箱を開けた
『うわぁ・・・すごい。』
箱の中には中身がわかるようにすべてラッピングされた、大量のベビーグッズで溢れていた
『こんなに・・・どうしたんだろう。』
『みんなでアルバイトしたお金で購入したそうだ。』
そうか・・・男の子だってわかってから買い揃えてくれたのね
青や緑の男児用ばかりだ
『でも一体どんな顔して買ったんだろうね。おしゃぶりまであるなんて・・・あはは・・・』
『全くだ。俺も彼らが買い物している姿を見てみたかったよ。くくっ・・・』
『でも本当にありがたいね。こんなに思って貰えて・・・』
『あぁ。感謝しないとな。』
『みんなは・・・どんな様子だった?』
『みんな精悍な顔つきをしていた。まだ元相撲部の名残はあるが、一回り引き締まっていたよ。
それぞれに頑張っている証拠だろう。』
そうか・・・みんな頑張っているんだ
またいつかみんなに再会できると信じ、私はすぐにでも使えるものをその箱の中からいくつか出し
お姉ちゃんに洗浄をお願いした
ギョムは本当に手のかからない子で、夏休みが終わって私が大学にまた通うようになってもお姉ちゃんや
他の女官のお姉さん型に非常に懐いてくれた
また皇帝陛下を始め皇后様や皇太后様も、この上なくギョムを可愛がってくれた
おかげでギョムは人見知りしない屈託のない子に育っていった
でもね…癪に障るのは一番最初に発した言葉らしくものが『パ~♪』だったこと
ママじゃなくてパパよ!
普通はママでしょ?
まぁすぐに『マァ~♪』って呼んでくれたから許してあげるけど・・・
大学生活も順調・・・夫婦仲も順調・・・公務も順調・・・ギョムもすくすく大きくなっていった
日々成長していくギョム・・・休みの日に俺はギョムとたくさん遊んだ
芝生の上でよちよち歩きし始めた頃は、心配で皆が付いて回っていたが・・・そのうちしっかりと歩きだした頃には
あまりの可愛さに皇太子である俺が、自ら馬になってやるほどだった
俺の親馬鹿ぶりは相当なものらしい
なぜそんなに溺愛するのか・・・それはギョムは容姿は俺に似ているが、性格はチェギョンにそっくりだからだ
ふとした拍子にする仕草など、まるでチェギョンかと錯覚させるほどだった
しかし・・・こんなにクールな顔つきで、性格が憎めないのだから将来は無敵の皇子になることだろう
将来ミン家のような王族が、ギョムを狙ってくるかもしれない
もう同じことは二度と繰り返してはいけない
ギョムを見ていて心からそう思った
そういえば・・・
俺はミン・ヒョリンのことを思い出し、コイギサにミン・ヒョリンの状況を尋ねてみた
『ミン・ヒョリンは非常に模範的に過ごしているそうです。事件の事も心から反省していると
更生施設の施設長も言っておりました。恐らく10年よりもずっと早く出て来るのではないかと思われます。』
『そうか・・・』
『ただ・・・ひとつ殿下にお伝えしたいことがございます。』
『なんだ?』
『殿下のご学友のカン・イン様が何度か面会に訪れていると報告がありました。』
『なにっ?インが?』
インのやつ・・・あれほどヒョリンにはもう関わるなと念を押したのに、まだヒョリンと逢っているとは・・・
だが恋心はそんなに簡単に割り切れるものではないことも俺は知っていた
三年間・・・チェギョンが失踪した時、俺が諦められなかったのと同じだ
そう考えると俺との約束を破ってまで、ヒョリンに逢いに行ってしまうインが憐れに思えた
その日東宮に戻った時、俺はチェギョンにヒョリンの様子を話した
『チェギョン・・・ミン・ヒョリンの事だが・・・』
『ヒョリンどうしているって?』
『事件を起こしたことを反省し、非常に模範的に更生施設で過ごしているそうだ。』
『そっか。だったら早く出てきそうだね。』
『あぁ。不本意だがな。』
『シン君・・・私ね、親になって思ったんだ。』
『何をだ?』
『ヒョリンが出てきた時、ミン家の夫人を恩赦して貰えないかなって・・・』
『なんだって?』
『だってミン家の夫人はご主人のとばっちりを受けて終身刑を言い渡されたんでしょう?
決して自らが何か手を下してわけじゃない。ヒョリンが出てきた時にもし一人ぼっちだったら寂しいよ。
ミン家の夫人もきっと娘が心配でならないと思うんだ。』
『確かにミン家の夫人は・・・大きな罪を犯したわけじゃない。
ただ夫の計画を知っていながら黙っていた罪で連帯責任を負わされているんだ。』
『それでは刑が重すぎると言ってるの。もちろんヒョリンのお父さんに関しては、自分の身内を殺めているんだから
その責任は取らなきゃならない。でも夫人は誰も殺めていない。
ヒョリンを一人ぼっちで世間に晒すなんて、すごく非道なことだと思わない?』
なんて人の良い事を言っているんだ
そう感じたが・・・親になってみて初めて分かる子供の大切さ
それが分かるからこそチェギョンは温情を施したいのだろう
『その時までに考えておこう。』
もちろん快諾はできない
だが皇太子命令なら恩赦もできない事ではない
ヒョリンが出てきたら・・・その時検討しよう。俺はそう思った
俺達の夫婦仲の良さを羨ましく思ったのか、親友のギョンは大学四年の春ガンヒョンと婚約をした
大学を卒業しチャン航空に入社したら、すぐにでも結婚するつもりのギョンに対しガンヒョンはクールだった
ある日ギョンは俺にこんなことを相談してきた
『シン~聞いてくれよ。ガンヒョンったら就職試験を受けるなんて言うんだぜ~~!
結婚して専業主婦をしてもらうのが俺の夢なのにさ・・・』
あぁ?ギョン・・・お前って奴は長い付き合いの割にガンヒョンをわかってないな
ガンヒョンは大人しく家庭に納まる器じゃないだろう?
『ギョン・・・お前は結婚したいんだろう?』
『もちろんさ~!』
『だったらガンヒョンの希望をのんだ方がいいぞ。ガンヒョンにも好きな仕事をする自由をやらないとな。』
『でもシン~~!』
『いいのか?折角婚約に漕ぎつけたのに、自分の考えだけを押し付けたら破談になるぞ。』
『そ・・・それは嫌だ。』
『だったらガンヒョンの意思を尊重してやれ。』
『わかったよぉ・・・』
折角婚約できたのにこの縁を破談になどさせたくなくて、俺はギョンを説得した
だがそのあと考え込んでしまった
チェギョンは?俺の妻にだって夢はあった筈だ
俺に嫁いだことで何もかもを取り上げてしまった形になるのだ・・・そんなことに今更気づき俺は不安になった
その日寝室で、俺はチェギョンに問い掛けた
『チェギョン・・・お前はなりたかった職業とかあったんじゃないのか?』
チェギョンの事だから嘘など言わず本心だけを言ってくれるだろう
『ん?なりたかった職業?そうだなぁ~シン君のお嫁さん?』
あぁ?それは職業じゃないだろう?
『いや・・・そうではなく、俺の嫁さん以外に・・・』
『ないよ。』
『あぁ?ないのか?』
『うん~♪だって幼い頃から皇太子妃に何れなるんだって言われて育ったんだもん。
今シン君と一緒に公務に行ったり、皇孫であるギョムを育てるのが私の仕事。
いわゆる天職ってやつよ~♪』
くっ・・・そうなのか?安心した
お前の可能性を遮ってしまう男じゃなくて良かった。これからもお前が伸び伸びとした皇太子妃でいられるよう
俺は頑張らないといけないな
そんな風に俺の不安を一瞬で拭い、常に味方でいてくれる妻への愛情がさらに深まった頃・・・
チェギョンに再び妊娠の兆候が現れた
なんだかね・・・昨日ニャオで映画観てから
パソコンがヒートアップしてるんですよぉ・・・・
ゴーーーっていうので怖いのよ。
真央さん・・・本当に残念でなりません。
よく頑張られましたね。
どうか安らかに・・・