その日シン君と電話してからなかなか寝付けなかった私は、同室のみんなとおしゃべりに明け暮れ
翌朝はガンヒョンにたたき起こされる始末だった
参加者全員で簡単な朝食を作り食べた後は、昨日デッサンしたものに色付けする作業に取り掛かった
其々に水彩絵の具や油絵の具・・・またはパステルなどで色を入れていく
私は無難に水彩絵の具で柔らかいタッチの色付けをする
私が描いているのは向かいの山・・・つまり三年間私が住んでいた場所だ
緑の山の中に小さな屋敷・・・ここが先帝の所有していた別荘だ
お姉ちゃんとコお兄さんの温かな庇護の元、見えないたくさんの慈愛を受け過ごした場所は
私の人生の中でとても大切な存在だ
それはこれからも変わることがないだろう
なにかある度にシン君を誘ってあの別荘を訪れるに違いない
『はぁ~完成だ~♪』
感嘆の溜息を吐いた私の絵を、隣りでガンヒョンが覗き込んだ
『チェギョン・・・上手く描けているじゃない。さては・・・三年間修業を積んだわね?』
『ううん!三年間絵なんか描かなかったよ。』
そう三年の間私は、みっちり訓育と学業を学ばされたのだ
今・・・シン君と婚約できているのも、お姉ちゃんの教育の賜物だ
感謝しなくっちゃ♪
私はその水彩絵の具で描いた絵をさりげなくお姉ちゃんに見せ、満足げに笑った
お姉ちゃんもその意味が解っているらしく、一度小さく頷いて微笑んでくれた
課題が済んだあとは夕食の支度に取かかる
今夜は庭にたくさんのバーベキューコンロを置いてバーベキューパーティーだ
女子は肉を切り分けたり野菜を洗浄したり食材の準備に取り掛かり・・・
男子はバーベキューの為の力仕事を受け持った
太陽が傾き隣の山の向こうに沈みかけた頃・・・先生の号令で生徒たちは肉や野菜を網に乗せ始めた
辺りに肉や野菜の焼ける香ばしい匂いが充満し、私のお腹もぐぅ~っと鳴いた
『さぁ~そろそろ食べ頃よ。チェギョン食べよう♪』
『うん~~♪』
サンチュに包んだ肉や野菜を口いっぱいに頬張り、ついでにご飯も口に入れた
『美味しいね~~♪』
『本当に美味しいわ。こうやって屋外で・・・しかも大勢で食べると格別ね。』
私やガンヒョンはもちろんサンチュに包んだ肉や野菜を、お皿に取り分けお姉ちゃんとコお兄さんにも振る舞った
ついでにご飯も一膳・・・目の前に置いたよ
折角参加したんだもの、精一杯楽しまなくっちゃ~♪
お毒見という名目がなければ、共に食事をすることも許されないお姉ちゃんとコお兄さん
こんな私の為に・・・いつも本当にありがとう
そんなことを思い少し感傷に浸っていた時・・・背後で聞き慣れた声が聞こえた
『あぁ・・・心配になってこんなところまで我が婚約者殿の様子を見に来たら、随分楽しそうじゃないか・・・』
えっ?・・・この声って・・・まさか!!
思いっきりぐるりと振り向いた私の目に飛び込んできたのは、やはり愛しのシン君♪
『シン君~♪』
手にはサンチュで包んだ焼き肉を持ったまま、シン君の元に駆け寄った私
もちろん生徒たちの目があるわけだから、ここは私だっていつもの愛情表現は我慢だ
『どうしたの?ビックリしたなぁ。よく来られたね。』
『あぁ。昨日の電話でお前があまりにも楽しそうだったからな。』
『そうか~♪あ・・・シン君、お夕飯食べてきたの?』
『いいや。空腹だが?』
私は自分が持っていたサンチュ包み焼き肉を、シン君に向けた
『食べ・・・てみる?』
『あぁもちろん。お前まさか・・・こんな山奥まで態々やってきた皇太子に、
食事も振る舞わないつもりじゃないよな?』
『もちろん♪』
『だったら・・・』
シン君は私に向かって口を開けた
えっ?まさか今持っているのを食べさせろと?いや~~ん公衆の面前だよ。そんなことできな~い!
『シン君・・・これは私サイズだからお肉が大きいの。おちょぼ口のシン君には一口じゃあ無理。
今すぐに他のを包んであげる。』
『いや・・・まずはそれを・・・』
またシン君が口を開けた
あぁ・・・恥ずかしいなぁ~もう!でもここで拒絶したらシン君に恥をかかす
私は手に持っていたサンチュ包み焼き肉をシン君の口に放りこんだ
途端にシン君は口をいっぱいにし、少し苦しそうな顔になる
ほら・・・だから言ったでしょう?シン君はおちょぼ口なんだって!
生徒たちの冷やかすような声を浴びながら、私はシン君の手を引っ張りテーブルの場所まで行くと
私の飲んでいたお茶を差し出した
『これ飲んで!』
『うぐっ・・・ごくごく・・・はぁ~本当に大きな肉だった。お前・・・一口でこれを食べるのか?』
『当然よ。庶民を舐めて貰っちゃあ困るわ。あははは~。
さぁ・・・シン君、小さいところを包むね。』
私は焼けた肉や野菜を次々と包み、シン君の口に運んだ
気を利かせたガンヒョンが持ってきてくれたご飯だって、私の手から食べるシン君
もぉ・・・こういうことは二人の時にして!!
『美味しかった。こんな美味しい肉・・・初めて食べた。』
食事が終わった時シン君はとても嬉しそうな顔で微笑んでいた
そうだよね。シン君がこんな学校行事に参加する事なんかなかっただろうし・・・みんなと同じ物を食べるなんて
初めての事だろうから美味しく感じたに違いない
もちろんお姉ちゃんやコお兄さんのお毒見があったからこそ、シン君も食べられるのだろうけど・・・
隣りのテーブルではコン内官さんやハンイギサさんが、生徒の接待を受け食事を楽しんでいたのだから
少しくらいは楽しい思い出ができたんじゃないかしら
それから後片付けをしている私の背後で、シン君は小さく呟いた
『チェギョン・・・まだ終わらないのか?』
『うん。もうちょっとだよ。どうして?』
『退屈だから・・・』
『もぉ~シン君!暇しているなら他の男子と一緒に、キャンプファイヤーの準備を手伝って!』
『っつ・・・わかった。そうしよう。』
シン君は渋々と言った感じで私の元を離れ、薪を積み上げている男子の仲間に加わった
皆で食べる食事というのは本当に美味しく感じるものだ
チェギョンに包んでもらった焼肉は格別の味がした
宮で食べ慣れているどんな高級食材よりも美味しく感じられ、思えば俺はいつもよりも食事量が
多かったんじゃないのか?
片づけをしているチェギョンの後ろで待っていたら、チェギョンは皇太子であるこの俺を邪魔者扱いする
挙句の果てには男子と一緒にキャンプファイヤーの準備をしろと命令する
まぁ・・・婚約者にくっついて歩く皇太子って言うのも、あまり格好の良いものではないと
俺は男子のいる場所に向かった
すると案の定・・・俺に手伝えという者はいない
そりゃあそうだろうな。怪我でもされたら大変だものな
俺は薪を積み上げているホン・ジュソンを見つけると、奴のところに行って話しかけた
『ホン・ジュソン・・・進路はもう決めたのか?』
『皇太子殿下…まだ迷っているんです。夏休みが明けたら皇太子ルームに伺います。』
『そうか。お前は成績も優秀だし・・・上の大学を考えた方がいいんじゃないかと思っている。』
『ありがとうございます。自分自身の為にどうするのが一番いいことなのか、よく考えてみます。』
やがて教師の手によってキャンプファイヤーに火が入り、赤々と燃えるキャンプファイヤーを囲み
皆で歌を歌ったりダンスを踊ったりもした
もちろんダンスの時には、俺はパートナーチェンジをせず婚約者を独り占めした
楽しい時間は瞬く間に過ぎていく・・・俺は婚姻間近の婚約者を残し、後ろ髪を引かれる思いで
公用車に乗り込んだ
同じ学校の生徒たちと共に過ごす貴重な時間・・・俺にとってもかけがえのない思い出ができた
夏休みの間に東宮には皇后様や皇太后様がチェギョンと共に選んだ家具が運び込まれ・・・
あとはその部屋の主が嫁いでくるのを待つばかりとなった
こうして俺達の高校最後の夏休みが終わりを告げた・・・
最近・・・午後二時半から四時半まで
ご長男がいらっしゃるんですよぉ・・・
邪魔してくれるものだから
いつも更新が遅くなってすまんですぅ・・・
ご長男がいらっしゃるんですよぉ・・・
邪魔してくれるものだから
いつも更新が遅くなってすまんですぅ・・・