家に戻ってから数日が過ぎた
相変わらず私は宮からの命を受けた公用車で送迎をされていた
今までだってコお兄さんに送迎されていたのだから、そんなに身構える必要はないのに
ハンイギサさん以外の送迎の時は、妙に緊張した
他のイギサさんを信用していないわけじゃない
私を迎えに来るのはコお兄さんが信用してその役目を担った人ばかりだ
だけどそれでも余計なことは話してはいけないと思い、私は挨拶以外終始無言のことが多かった
そんな気の重い送迎の時間・・・私は運転席に座るイギサさんの顔を見て一瞬で満面の笑みを浮かべた
『コお兄さん~♪』
『お迎えに上がりましたチェギョン様。さぁ早くお乗りください。』
『はぁ~い♪』
心なし声まで弾む
車が動き出した時・・・私はコお兄さんに向かって話しかけた
『もう~!コお兄さん、ちっとも来てくれないから・・・』
『チェギョン様、まだ家に戻って一週間も経っていないじゃないですか。』
『あ・・・そうか。えへへ~♪』
『ご自宅には連絡しておきました。これからご同行いただきたいところがあります。』
『えっ?どちらにですか?』
『皇室警察署です。』
『あ・・・はい。』
事件解明のためになんでも証言するつもりの私だったが、やはり皇室警察署は敷居が高く感じられた
きっと不安げな顔をしたのだろう
コお兄さんはすぐにその理由について教えてくれた
『あの時・・・タンクローリー車を運転していた者が逮捕されたんです。
チェギョン様も運転手の顔を見ましたね?』
『はい。見ています。』
『私と一緒に証言していただけますか?』
『もちろんです。でもあの時の男の人が運転していた証拠は見つかったのですか?』
『運転していた証拠は・・・もちろんありません。なぜならその男の指紋は一切残っていなかったからです。
ですが・・・あの男がタンクローリー車を盗難したところは、あのタンクローリー車を所有する会社の
防犯カメラにしっかり残されていました。』
『そうでしたか。でも防犯カメラの画像だけで、よくその男の人が見つかりましたね。』
『あ・・・それは既に犯罪歴のある男だったんです。犯罪者リストから容易にあの男の居所を突き止めましたよ。』
『そうでしたか。すごいなぁ・・・』
話している間に車は皇室警察署に到着した
『ではチェギョン様、参りましょう。』
『はい。』
コお兄さんに促され皇室警察署に入って行くと、なんだか恭しくお辞儀をされた
あ・・・あの私が幽霊に扮した時に、体育館に来ていた警察官さんだ
『こんいちは。』
『ようこそお越しいただきました。コさんと一緒についてきていただけますか?』
『はい。』
一高校生の私にそんなに丁寧な対応をしなくてもいいのに・・・そう思いながら、自分の立場を思い知る
この事件が解決したら私は皇太子殿下の婚約者となるのだ
あ・・・なんか急に肩の辺りがずっしり重くなった
警察官の後に続き、私とコお兄さんは小さな部屋に通された
マジックミラー越しにある隣の部屋に、あの時の男の人が座っていた
『私は何も知りませんよ・・・』
『しらを切っても無駄だ!タンクローリー車を盗んだのはお前だと、監視カメラが見ていたんだ!』
『顔の似ている男なんて・・・いくらだっていますよ。』
取り調べ中の刑事さんは、相当イライラしているだろうな
こんな風にのんべんだらりと罪を逃れようとするなんて・・・
『あの人です。間違いありません。』
私はコお兄さんと一緒に、その男の人があの時の実行犯であることを証言した
私達の証言によって・・・あの男の人は殺人未遂罪となるのだ
事の重大さ、自分の置かれた状況を知った時・・・あの人はこんな危ない仕事を引き受けてしまった事を
ものすごく後悔するに違いない
皇室警察署であの事件の実行犯と面通しを済ませた私は、コお兄さんに送られて家に戻った
夜になってその旨をシン君に電話で報告する
シン君は徐々に明らかになっていくこの事件について、安堵したように呟いた
『あと少しだチェギョン・・・』
『あと少し?』
『あぁ。あとは宮廷内に潜んでいるミン家のスパイを炙り出すだけだ。』
『それが一番難しいんじゃない?』
『あぁ。そうだな。表向き従順で忠誠を誓っている者が、実は反旗を翻すこともあるからな。』
『チェお姉さんは・・・元気にしている?』
『あぁ。少し疲れているようだがな。今回の件が片付いたら、チェ尚宮とコイギサには、休暇をやらないとな。』
『うん。休暇とたくさんご褒美が貰えるといいな。
だって二人がいなかったら・・・今の私はいないもん。』
『あぁ。よくわかっている。』
私にとってあの二人が家族同然だってこと・・・シン君には知っていてほしいと思った
東宮に戻ったチェ尚宮とコイギサは、毎日忙しそうに宮殿内に仕える者を捜査していた
通常の仕事を外れ、今は宮中に不穏分子が残らない様身元から洗い出している
時にコン内官を巻き込んでの仕事になるのだが・・・一体いつ寝ているのだろうかと思うほど遅い時間まで
二人は職員名簿を綿密に調べ上げ・・・そして不審な者がいた時には面接を行った
三年前のヨンイギサの一件から・・・宮中にいる者も安全ではないと考えているチェ尚宮とコイギサ
東宮に戻ってから一週間後・・・本殿の皇帝陛下に仕える一人の女官に、ミン家と繋がりのある者を
発見したチェ尚宮は、俺に相談を持ち掛けた
『殿下・・・皇帝陛下に仕える女官に、母親がミン家の使用人をしている者がおりました。
先程皇帝陛下付きの尚宮に評判を聞いたところ、仕事ぶりはとても真面目で不審なところはないとの事ですが
一度面接したほうがよろしいかと・・・。』
『あぁそうしてくれ。面接には私も立ち会おう。』
皇帝陛下に報告の上、早速その女官を東宮に呼び出した
東宮の執務室に呼ばれたその女官の名はイムといった
<トントン>
『失礼いたします。イムでございます。』
『入れ。』
入ってきた女官はまだ年齢は若く・・・俺とそう変わらないように思えた
『そこに掛けてくれ。』
『はい。』
イム女官が腰かけた隣りにチェ尚宮は腰を下ろし、いよいよ面接が始まろうとしていた
『イム女官・・・あなたのお母様はミン家の使用人をしていますね?』
『えっ?は・・・はい。ですが私はミン家とは何の関わりもございません。
きちんと正規の手続きを踏んで宮殿に上がったのです。ミン家の事件とは・・・一切関わりはございません。』
『ミン家の事件?まだ表には出ていない筈ですが?』
『あ・・・はい。母から電話がかかってきて、それで知りました。』
『なんとかかってきたのですか?』
『ミン家の方々が皇太子殿下の許嫁殺人未遂容疑で逮捕されたので、暇を出されたと・・・』
『それだけですか?』
『それだけです。どうか信じてください。私は何も知りません!』
『宮中に仕える以上、一点の曇りもあってはならないのです。あなたに非があるわけではないのですが
私は宮中の女官の人事に関して一任されました。残酷なようですが万が一のことを考え
あなたを解雇いたします。』
『そんな・・・』
真面目に働いてきた女官だとチェ尚宮も聞いていた
だが・・・ミン家と繋がりがあったことは、この先どのような不幸をもたらすかわからない
常に温厚なチェ尚宮にしてみれば、苦渋の選択といえよう
だが・・・三年間先帝の別荘に隠れ住んで、記憶喪失のチェギョンの訓育を終了させたチェ尚宮だからこそ
チェギョンの未来の為にこの選択をせざるを得なかったのだろう
俺は妹としてチェギョンを慈しみ、三年間大切に育ててくれたチェ尚宮に感謝の思いを抱いた
その後次々と宮殿内で面接が行われ、結果…怪しいと思われる女官3名とイギサ5名・・・そして内官2名を
解雇したチェ尚宮とコイギサ・・・・
仲間を切り捨てるその胸中は、どれほど辛いものだっただろうかと思う反面・・・
それはすべてチェギョンの幸せの為だと、自分自身に言い聞かせたに違いないと感じた
それから程なくしてミン家の当主が、長く続く取り調べに疲れ果て自供を始めた
ミン・ヒョリンに関しては・・・相変わらず黙秘を貫いている
昨晩は私の個人的な記事に
たくさんの方にお越しいただきありがとうございました❤
個別の御返事は失礼させていただきました。
どうぞお許しを~♪
たくさんの方にお越しいただきありがとうございました❤
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