こんな風にチェギョンを抱き締めたのは、恐らく初めての事だろう
不自由そうな首で俺の胸元に顔を擦りつけるチェギョン・・・そうしていたいのは山々だが
聞きたいことが山ほどもある
俺はチェギョンの喜びの行動を中断させ、再び両手で肩を掴むとチェギョンに視線を向けた
っつ・・・なんて不服そうな顔をするんだ
『なぜ今まで黙っていたんだ?チェ・チュナなんて偽名まで使って・・・三年も戻ってこないなんて・・・』
チェギョンは更に不服そうな顔をし唇を尖らせると、逆に俺に問い掛けた
『先に聞きたいことがあります!シン君・・・ミン・ヒョリンさんとはどんなご関係?』
なんだと?ミン・ヒョリン?あぁ…こいつも新聞記事に踊らされたのか
『ただの友人に過ぎない。』
『ただの友人で新聞に載っちゃうんですかぁ~?』
妙に棘のある口調・・・こいつ嫉妬か?
『お前がいなくなってから気が付いたら傍にいたんだ。ただそれだけだ。』
『ほぉ~では・・・男女の関係ではないと仰るのですね?』
あぁ・・・丁寧な言葉遣いで俺を責め立てる作戦か?
『陛下からもその件については咎められた。傍にいることを拒まなかったのを後悔している。
だが・・・念の為言っておくが男女の関係などではない!友人の一人に過ぎない!』
『・・・安心した。』
漸く安堵した表情になったチェギョンは、あの屈託のない笑みを浮かべてくれた
『なぜ三年も戻らなかったか・・・これからちゃんと説明するけど、戻れなかった一番の理由は
私が記憶喪失だったから。』
『なにっ?記憶を失っていただと?一体いつ・・・記憶が戻ったんだ?』
『ついさっき。病院で目が覚めた時に思い出した。』
『じゃ・・・じゃあ、学校で話をしていたチェ・チュナは・・・』
『うん。記憶がまだ戻っていなかった。』
『信じられない。てっきりしらを切っているものとばかり・・・』
『そうじゃないよシン君。ただ・・・学校に編入する前に私は皇太子殿下の許嫁のシン・チェギョンだと
お姉ちゃんから聞いていたけどね。
二番目の戻れなかった理由は・・・もし戻ったら命が狙われるから・・・。』
『命を狙われるだと?』
その時・・・チェ尚宮と並んでいるコイギサが一歩前に出ると発言した
『殿下・・・その件でしたら、私からご報告があります。』
『言ってくれ。』
『三年前の事故は・・・実は仕組まれたものでした。』
『なにっ?』
『ブレーキに細工がされていたのです。あの時ブレーキが利かなくなって、あの事故が起こってしまいました。』
『だが・・・皇室警察は事件性はないと・・・』
『はい。そう処理されたと聞いております・・・』
視線を落としたコイギサ・・・その時、東宮から俺を連れてきたハンイギサが一歩前に出た
『殿下・・・その件について発言してもよろしいでしょうか。』
『あぁ。知っていることを話してくれ。』
『私はコイギサからそのことを聞き、三人を事故車から救い出し皇太后様の指示の元病院に運びました。
そしてその後すぐに皇室警察に駆け付けました。
ところが事故車両はきちんとした調査もされないまま、廃車処分にされてしまったのです。』
『なにっ?』
『私は皇室警察の警察官にその理由について尋ねました。
そうしましたら・・・警察署長に≪事件性はないから廃車にするよう≫命じられたというのです。
私はコイギサが嘘を吐くような人間でないことを知っています。
なので独自にその当時東宮に仕えていたイギサを調べました。
そうしたら・・・事故の直前に赴任し、事故後一カ月も経たないうちに辞めたイギサが一人おりました。
その日チェギョン様が乗られる公用車を点検したのはその男です。
私はその男が怪しいと考え・・・今でもその男の身辺を人を使い監視しております。』
『だが・・・東宮に仕えるイギサが、皇太子の許嫁の暗殺を企てだりするだろうか・・・』
『もちろんその男は、金で雇われた者に違いないと確信しております。羽振りのいい生活を送っておりますから。』
『今の話では皇室警察の署長さえ抱き込んでいるということになるな?』
『はい。間違いございません。』
皇室警察署長を抱き込めると言ったら・・・相当の大物
王族クラスでなければ、警察署長を意のままに動かせる筈がない
王族?黒幕は王族なのか?信じられない・・・信じたくない・・・そんな思いで視線を漂わせた時
まさに皇帝陛下も俺と同じように憔悴しきった表情をしていた
『だから・・・皇室警察はあてにならなかったのだな・・・』
陛下はポツリと呟くと俯いた
一国の皇帝があろうことか皇室警察署長に欺かれるとは・・・そんな落胆の想いが感じられた
『それで・・・黒幕の目星はついているのか?』
『うん。』
いきなりチェギョンがそう答え頷いた
『チェギョン?お前・・・何か知っているのか?』
『実は・・・事故に遭う直前、番号非通知の電話がかかってきたことを思い出したの。
事故が起こることを匂わせる内容の電話・・・』
『一体何と言ってきたんだ?』
『≪身の程を知らないあなたに罰を与えるわ。≫って。これから事故が起こることを知っている人じゃないと
言えないセリフでしょう?』
『チェギョン・・・一体誰が、そんなことを・・・』
『シン君もよく知っている人だよ。ミン・ヒョリンさん・・・』
『ミン・・・ヒョリンだと!』
嘘だろう?まさかそんなことが・・・だったらヒョリンは、チェギョンがいなくなった俺に同情したのではなく
チェギョンを俺の隣から引きずり下ろし、まんまとその場所を手に入れたことになるじゃないか!
しかもミン家といったら王族の中でも頂点を競うほどの権力を持っている
ミン家だったら皇室警察署長を抱き込むことも容易いだろう
知ってしまった衝撃的な事実に動揺しながらも、俺はチェギョンに目を向け今一番重要なことを問い掛けた
『そうだチェギョン・・・怪我は大丈夫なのか?』
『うん。大丈夫。ただのむち打ちだよ。でも打ち所が悪かったら死んでいたかも・・・。
まぁ敵にとってはその方が都合よかったかもしれないけど・・・』
『敵?どういう意味だ?』
『私をこんな目に遭わせた首謀者は・・・ミン・ヒョリンさんだから。』
俺は言葉を失った
ミン・ヒョリンは一度ならず二度までチェギョンを狙ったことになる
いや・・・今回はチェ・チュナだ
俺はなんという女を傍に置いてしまったのだろう
後悔してもしきれない
衝撃の事実を聞いてシン君は相当ショックを受けたみたい
その後そこ場にいる全員で、三年前の事件をどう解決に導くか話し合われた
『しかし・・・事故に遭った公用車は廃車にされ・・・証拠という証拠が何一つ残っていない。』
皇帝陛下は悔しそうに首を垂れた
『陛下・・・もしかしてミン・ヒョリンさんの携帯の履歴を調べたら、私に電話をした証拠が掴めるかもしれません。
ただ・・・彼女が電話番号を変えていなければの話ですが・・・』
人の命さえなんとも思わない人種だもの・・・きっと悪知恵が働く筈
『チェギョン・・・だがもしそなたにミン・ヒョリンが電話を掛けたことが証明されれば、
大きな証拠となる。早速調べてみよう。』
『あ・・・でも陛下、陛下自らが行動を起こすのは目立ちすぎます。
陛下付きのキム内官様にお願いしたらいかがでしょう。』
『おぉそうだなチェギョン。そなた・・・三年経って随分と成長したな。賢くなった。』
『チェ尚宮お姉さんのかげです。あと・・・コお兄さんのおかげでもあります。』
『チェ尚宮とコイギサには大変な苦労を掛けてしまったな。』
『『とんでもございません。』』
お姉ちゃんとコお兄さんは声を揃えて答えた
『とにかく一日も早くこの事件を解決し、訓育を急がねば・・・』
そう仰った皇后様にお姉ちゃんは満面の笑みで答えた
『皇后様・・・ご心配には及びません。訓育はほぼ終了しております。』
『なんとチェ尚宮・・・そなたがチェギョンについていてくれて、本当に良かった。礼を言うぞ。』
お姉ちゃんは誇らしげに会釈をした
皇帝陛下は東宮殿に仕えるハンイギサさんに命令を下された
『ハン・・・その事故の後に辞めたイギサの事を大至急調べ、私の元に報告に来るのだ。』
『かしこまりました陛下。』
『では皆の者・・・来週またここに集おう。』
来週までに何らかの進展がみられることを期待して、皆さんそれぞれに宮殿に戻っていく
シン君は最後までそこに残り、私に問い掛けた
『チェギョン…今、どこに住んでいるのだ?』
『どこって・・・えっと・・・』
私に聞かれても山の上としか答えられない
お姉ちゃんが代弁してくれた
『殿下・・・チェギョン様は先の皇帝陛下の別荘にお住まいです。』
『なんと・・・一時間もかかる場所ではないか。』
『はい。さようでございます。』
『あぁ・・・チェ尚宮、明日からチェギョンの弁当はいらない。宮で用意させよう。』
『かしこまりました。ですが…まだあまり目立った行動はなさらないでください。
お二人で一緒にいるのが見られたら、ミン家の娘がまた凶行に及ぶかもしれません。』
『もちろんわかっている。チェギョン・・・いいな。明日ガンヒョンにチェギョンを連れて来るよう言っておくから
昼休みに俺の部屋で食事をしよう。あの二人にも協力者になって貰わないとな。』
『うん。それがいい。』
私達はスマホのデータを交換した
シン君の名前はアルフと偽名を使った
そうだ!ガンヒョンともやっとまともに話ができる
ガンヒョンの前でシン・チェギョンに戻れるんだ
嬉しさのあまり天にも昇る気分の私だった
翌日・・・登校していくとガンヒョンは私の首に巻かれたギプスを見て、心配そうに問いかけた
『チュナ・・・その首?』
『ん・・・ちょっと転んだだけよ。』
『無理しないでね。あ・・そうだ。今日のお昼休み・・・付き合って貰えない?』
来た来た~~♪待ってましたその言葉♪
『ええ。構わないわ。』
と答えながらもう気分がウキウキしてしまう私・・・早く昼休みにならないかな~♪
そう思いながら休み時間に洗面所で手を洗い出て行ったら・・・昨日私を殴った図体のデカい男が
立っていた
一瞬身構える私・・・でも敵は一人だ
万が一のことがあってもかわすことはできるだろう
てか人目があるからそんなことするはずない
まぁ・・・関わらない方がいい・・・そう思って男の横を通り過ぎようとした時、声を掛けられた
『チェ・チュナ・・・』
『なんでしょう?』
私はぎこちなく振り向くとその男と向かい合った
そしてその顔を思い切り睨みつけてやった
てっきり睨み返されるかと思ったら、そいつ図体の割に困り果てた顔をして俯いた
『怪我・・・大丈夫か?』
『ええ。むち打ち程度で済みましたから・・・』
『すまない。すまなかった。』
えっ?詫びを入れに来たの?
『女の子に乱暴を働いて・・・昨晩ずっと反省した。』
『なぜこんなこと・・・したんです?』
『俺達はミン家の支援を受けてこの学校に通わせてもらっている。ミン・ヒョリンの言う事には逆らえないんだ。』
つまり弱みがあるってこと?でも・・・だからって…こんなこと許されない
『じゃああなたは、もしミン・ヒョリンさんの命令なら人も殺すの?
昨日の件だって打ち所が悪かったら死んでいたかもしれないわ!』
『すまない。本当に・・・ごめん。』
『許すことは到底できないけど、あなたもお仲間も犯罪に手を染めるのはやめた方がいいと忠告しておくわ。
学費の為に人生を棒に振るような真似しないで。』
『すまない・・・』
腰を直角に折り曲げ私に詫びる男に哀れみは覚えたけど・・・そんなものの犠牲に私がなるのだけは真っ平よ
許すことなんかできない・・・そういいながら、私は心のどこかでその男を許していた
首はまだ痛いし頭も痛むけど・・・
そうして待望のお昼休みがやってきた~♪
さて・・・ギョン君とガンヒョンに告白だ~~♪
ではすまないでござる。
次回お話の更新は5/8です~❤
しばし・・・お休みお許しを~❤