それから私とお姉ちゃんは綿密な打ち合わせをおこなった
口裏を合わせておかなければならないことが多すぎるのだ
スマホに入っている画像データを呼び出し、一枚一枚写真を見ながら親しくしていた友人を教えて貰う
中でもイ・ガンヒョンという子は、何かと力になってくれるかもしれないが・・・一番危険な人物だと聞かされた
『イ・ガンヒョンさんはチェギョン様の無二の親友です。記憶が戻るまでは悟られない様ご注意くださいね。』
つまり・・・シン・チェギョンという人間を一番わかっている人という事ね
私はお姉ちゃんに問い掛けた
シン・チェギョンという人が一体どんな人間だったのか・・・知る必要があった
『お姉ちゃん・・・記憶を失う前の私は、どんな子だった?』
『チェギョン様は・・・そうですね、破天荒なタイプでした。ご自身の感情に忠実で、殿下に対する好意も
人目を憚ることなく態度で示すような・・・』
えっ!お姉ちゃん私って・・・そのままじゃん
つまり皇太子殿下の事を≪私の男≫呼ばわりしたそのままの性格ってことね
『ですからチェギョン様はご注意なさってください。今まで習った立ち振る舞いを守り、
おしとやかに装ってください。そうすればきっと、ご友人の目も欺けることでしょう。』
お姉ちゃん・・・装えってさすが私をわかってらっしゃる
えっと復習ね・・・私は今まで海外留学して帰国したチェ・チュナ高校三年生
明日着ていく制服をハンガーにかけ、初めて通う学校ってどんな感じだろうかと想像する
いや・・・三年前までは同系中学に在学していた私だ
チェ・チュナを今まで受けてきたレッスン通りに振る舞えばいい
よ~し!いざ出陣だ~~~♪
翌朝コお兄さんの車で学校まで送って貰う私
『チェギョン様・・・帰りもお迎えに上がりますので、私の車が到着するまでお待ちください。
到着しましたら電話を鳴らしますので、この場所まで来てください。』
『コお兄さん・・・チェギョン様って呼ぶのはやめて。でないとボロを出しそうですぅ。』
『はっ!申し訳ございませんチュナさん・・・』
お兄さんの口調が堅苦しいのは以前からだったけど、今まで以上に堅苦しくなった気がする
それにコお兄さん・・・変装なのかな?執事って感じの格好に銀縁眼鏡なんて・・・なんか変
コお兄さんに職員室の場所を教えてもらい、私は昨日お姉ちゃんからもらったばかりの新しいスマホを
ポケットに忍ばせると車から降りた
もちろんいつも通りコお兄さんの車に手を振るなんてことはせず、軽く会釈だけすると職員室に向かった
どこでだれが見ているかわからない
用心に用心を重ねなくっちゃ
職員室で担任の教師に挨拶をし、早速教室に案内された
その間も・・・なんだか視線をすごく感じる
シン・チェギョンはもしかして・・・相当な有名人だったのかな?
『ここだ。ここが今日から君のクラスだよ。』
『はい。』
担任の先生に促され教室に入って行くと、ざわめいていた生徒たちはみんな席に着いた
『みんな~この学校に編入してきた新しい仲間を紹介しよう。』
ん~?半数位は目を真ん丸にしてまさにびっくり仰天という顔付きだ
その時一人の生徒が立ち上がった
『あーーーーっ!』
私を指差して大きく口を開けるなり、教室から飛び出していったその生徒・・・あれ?あの子って・・・
『こら!イ・ガンヒョン一体どこに行くんだ!』
あ・・・やっぱり。私のスマホの中に一番2ショットの写真が多かった子だ
確か最後の発信履歴もあの子だった
あぁ・・・一体どこに行っちゃったんだろう
戸惑いながらも私は自己紹介をする
『イギリスから帰国してきました。チェ・チュナといいます。どうぞよろしくお願いいたします。』
微笑みながら軽く会釈をする私・・・するとあちこちから密かなざわめきが耳に入った
『えっ?チェ・チュナ?』
『あれってチェギョンじゃないのか?』
『うん。チェギョンにそっくりだ・・・』
『チェギョンだよな…』
こりゃあ・・・よほど気合いを入れないとダメかも
頑張るぞぉ~~~!!
その日登校した俺は席に着き、、ホームルームの時間を過ごしていた
特進科は優等生が多い・・・よってホームルームの時間は静かなものだ
ところが・・・いきなり教室の後ろの扉が開き、中学からの同級生でチャン・ギョンの彼女のガンヒョンが
血相を変えて俺を呼んだ
『皇太子!ちょっと来て!!』
『あぁ?ガンヒョン・・・今はホームルームの時間だろう?』
『ホームルームどころじゃないのよ。早く!!先生・・・皇太子をちょっとお借りします!』
ガンヒョンの剣幕に気圧され、俺は教室から出て行った
もれなくギョンも一緒についてきた
まぁそりゃあそうだろう・・・自分の彼女が他の男を呼び出すなんて、ギョンにしたら許せないよな
俺が教室から出ていくのを待って走り出したガンヒョン・・・俺はわけがわからず必死に追いかけた
もちろんギョンも後に続いている
『ガンヒョン・・・一体どうしたんだ!』
ガンヒョンの背中に俺は質問を投げかけた
『いいから!来れば分かるって・・・』
来れば分かる?全く意味が分からない
ガンヒョンは俺とギョンを自分の教室に連れて来ると、一旦教室に入って行きすぐに誰かの手を引いて
再び廊下に出てきた
あぁっ?・・・・チェギョン・・・チェギョンだ!チェギョンが・・・俺の目の前にいる
『見せたかったのはこれよ!』
『チェギョン・・・』
俺はチェギョンに近づくとそのピンクの頬を両手で包み込んだ
この感触・・・チェギョンに間違いない!
ところが・・・
『あ・・・あの皇太子殿下。はじめてお目にかかります。チェ・チュナと申します。』
『チェ・チュナ?』
しかもはじめてお目にかかる?いやいや・・・違う!これは絶対にチェギョンだ
『嘘つくなよお前はチェギョンだろう?一体今までどこに行っていた?どれだけ探したと思っているんだ?』
『えっ?あの・・・ですから、私はチェ・チュナと申します。殿下のお知り合いの方と、
そんなに似ているのですか?』
嘘だろう?信じられない
外見はチェギョンで中身が違うとか?そんな馬鹿なことあるはずない
何よりも三年前事故に遭いいなくなる以前の反応が返ってこないことに妙に腹が立つ
俺はチェギョンの両肩を掴み説得するように問い掛けた
『違う。お前はシン・チェギョンだ。なぜ名前を偽る必要がある?』
チェギョンは困惑したまま首を横に振る
なぜ・・・三年ぶりに帰ってきたのにあの時のような笑顔をくれないんだ?
さらにチェギョンを追い詰めようとした俺をガンヒョンが止めた
『皇太子・・・悪かったわ。あまりに似ているからチェギョンだとばかり思ったんだけど、違うみたい。』
『ガンヒョン・・・お前までそんな事を言うのか?』
『だって…そうでしょう?もし本当のチェギョンだったら、皇太子の顔を見て抱きついている筈よ。
まるで大木に留まるコアラみたいにね・・・』
あ・・・確かにそうだ
もしこれが本当にチェギョンだったら、俺を見てこんな態度が取れるはずはない
くっついて離れないはずだ
違うのか?本当に・・・チェギョンではないというのか?
釈然としない気持ちのまま自分の教室に戻りながら、俺は呟くようにギョンに問い掛けた
『ギョン・・・さっきの女どう思う?』
『チェギョンだよ。間違いない。』
『だが親友のガンヒョンがああいうんだ。』
『何か・・・事情があるんじゃないの?』
『何か事情が?』
悶々とした気持ちでその日一日を過ごした俺は、迎えの車が来た時・・・あの女がやはり車に乗り込むのを見かけ
慌てて運転するイギサに命令した
『あの車を追いかけてくれ。』
『殿下・・・あの車をですか?』
『あぁそうだ。』
『かしこまりました。』
市街地を抜け大通りに出ようとしたその時、あの女の乗った車は急に進路変更をしまんまと皇室の車の尾行を
まいて走り去った
『殿下・・・申し訳ございません。』
『いや。仕方がない・・・』
同じ学校に通うことになったんだ
これからはいくらだってそのチャンスはある
あの女が本当にチェ・チュナという名前なのか・・・それとも本当は俺の許嫁のチェギョンなのか・・・
必ずその正体を掴んでやる!
皆様~お友達の≪ゆぱ≫さんが
1話と2話にイラストを描いてくださいました❤
貼り付けておきましたので
良かったら見てやってください~~❤