『シン・・・着いたよ。別荘使って構わないから、彼女と心置きなく話してきなよ。』
ギョンは後部座席に振り向くとシンに別荘の鍵を手渡した
『ギョン・・・すまない。』
『俺達はここで見張っているからさ。』
『あぁ・・・』
シンは扉を自ら開け車外に出ると、チェギョン側に回りその扉を開けた
『チェギョン・・・降りてくれ。』
『はい・・・』
チェギョンは不機嫌そうな顔ではあったが、シンに促がされ車から降りた
二人はチャン家の別荘の鍵を開け中に入っていく・・・その光景をバックミラー越しに見つめながら
イ・ガンヒョンは不安そうに呟いた
『大丈夫かしら・・・』
『うん。二人が話をしたからと言って、陛下が一度下した決定を覆すとも思えないけど。』
『じゃあ・・・チェギョンはやっぱり留学させられるって事?』
『それは解らない。ただこのまま、ちゃんとした話し合いも持たずに、離れていいとは思えなくってさ。
なぁ君?殿下の腰ぎんちゃくって、俺の事呼んだよね?撤回して貰えない?
俺はチャン・ギョン。意外と頼りになる男だろう?』
『ふふふ・・・それはどうかしら。でも腰ぎんちゃくは撤回するわ。アタシ・・・イ・ガンヒョンよ。』
『ガンヒョンか~~♪どうぞよろしく♪』
人懐っこい笑顔で差し出された右手。。。何の因果かは知らないがこんな出逢いをした二人である
ガンヒョンはギョンから差し出された右手を、微笑むと握り返した
一方、ギョンから別荘の鍵を受け取ったシンは、その鍵を開けると別荘の中にチェギョンを誘った
とにかく唯一自分の心の琴線に触れて来たこの女の子を、自分のせいで海外に追いやってはいけない
その一念だった
自分が甘かった・・・無防備にも自分の想いを口にし、唯一傍に置きたいと願う子を追い詰めた
シンはチェギョンの背中を押す様にその別荘の中に足を踏み入れると、エアコンのスイッチを入れ
それからリビングのソファーにチェギョンを掛けさせた
カーテンも閉まったままの薄暗い室内・・・シンはチェギョンと隣り合わせに腰掛けるとまじまじとチェギョンの顔を
覗きこんだ
随分久しぶりに逢う様な気がするチェギョンは、憔悴しきった面持ちで膝の上に置いた自分の手を
じっと見つめている
その深刻な顔は、皇太子ルームでいつも百面相をしてみせたチェギョンとは別人のように思えた
『チェギョン・・・俺が悪かった。俺が考えなしの行動をしたからこんな事に。』
『今からでも陛下に撤回してください。私の父に言った言葉は冗談だって、撤回してください!』
『それは・・・できない。』
『なぜ?殿下は陛下に反旗を翻したかっただけでしょう?どうして私の事なんか持ち出すんですか?
そんなことするから、私は父にまで厄介者と思われてしまったじゃないですか・・・』
チェギョンは大きな瞳を見開き、悔しくて堪らないと言った表情でシンを睨みつけた
『すまなかったと…思っている。だが、俺は嘘は吐いていない。お前と付き合いたいと思ったのは本気だ・
お前がいい返事をくれなかったから、シン内官に直談判にいった。それが本音だ。
王族会の決定した妃じゃなく、自分の心が選んだ人と一緒にいたい。
それは以前から言っていただろう?それが・・・シン・チェギョンお前だっただけの話だ。』
『はぁ・・・私はどうしたらいいんですか?』
『内官の娘だとかそう言うしがらみは忘れて、俺を選ぶと言ってくれ!』
『・・・それは・・・』
『俺の片想いでは陛下に立ち向かうこともできない。』
『陛下に立ち向かう?それは・・・無理でしょう。』
『なぜだ?なぜ無理なんだ?』
『陛下はこの国の絶対的な最高権力をお持ちだからです。陛下に敵う人はいません。』
『何れはそれに俺がなる。だからこそお前の力が必要なんだ。頼むから・・・俺を選ぶと言ってくれ。』
言ってしまったらどうなるのだろう・・・チェギョンにはその顛末は予想が着いた
内官である父はよくて左遷・・・最悪の事態は罪に問われよう
そして自分は恐らく、生きてこの地に再び帰っては来られまい
自分や家族の保身とシンに恋焦がれる気持ちの狭間で、チェギョンは揺れ動いていた
『王族会の決めた女となんかじゃ、俺は絶対に無理だ。お前のサポートがこの先も必要だ。』
熱くその想いを語るシン・・・だがチェギョンはその言葉を遮る
『王族会ご推薦の令嬢方にお逢いしてもいないのに、どうしてそんなことが言えるんです?
実際に逢ってしまえば、生きる環境も似通った同士・・・話も弾むかもしれません。』
『逢ったこともない?全員逢っているさ。王族会の推薦する令嬢などただ俺の機嫌を取ろうとする
退屈で野心の塊のような娘たちだ!お前とは全然違う人種だ!
俺は・・・俺自身の目で、心でお前を望んでいる。それに応えてはくれないのか?
損得抜きで俺と接してくれたのは、お前だけだ・・・』
哀願するこの皇太子の目は、ある意味魔性の輝きを持っているとチェギョンは思った
そしてイエスもノーも答えられず俯いたチェギョンを、シンは感情のままに抱き寄せると力任せに抱き締めた
まるで折れてしまいそうなほど強い力で抱き締められたチェギョンは、答えの代わりに呻き声を発した
『ぐっ・・・』
必死にシンの腕の中から逃げ出そうともがくチェギョン・・・その時シンの制服のポケットから着信音が鳴り響いた
シンは片手をポケットに突っ込むと、発信して来た相手を確認しその電話を取った
『ギョン・・・なんだ?』
『シン・・・もうタイムリミットだ。皇室警察署員に包囲された。』
『なんだと?』
シンはチェギョンを抱き締めたその手を緩めると、ソファーから立ち上がりカーテンの隙間から外を窺い見る
『このままじゃあギョンとイ・ガンヒョンにも迷惑が掛かる。外に出よう。
チェギョン・・・頼むから、俺と一緒に生きると言ってくれ。』
ソファーの方に振り向いたシンは、うっすら目に涙を溜めたチェギョンが小さく頷くのを確認し
緊張のあまり強張っていたその表情を漸く和らげた
別荘からシンとチェギョンが出て行くと、皇室警察署員は一斉に二人を取り囲んだ
シンはチェギョンと引き離されない様、チェギョンの手をしっかりと握り締め署員たちを睨みつけた
『一体何の騒ぎだ?』
シンが問い掛けるとその中でも一番年長に見える署員が答えた
『殿下が連れ去られたと出動要請がありました。』
『それは一体どこからだ?』
『皇室からです。』
『私は連れ去られてなどいない。友人に頼んでここに連れて来て貰っただけだ。』
『解りました。殿下はお迎えが来ておりますので車にお乗りください。』
そう言ったと同時に署員たちはチェギョンの腕を捕え、シンから引き離そうとする
シンは繋いだ手に力を込め取り囲んだ署員たちを威圧した
『無礼な真似はやめて貰おう!!この者は私が宮に連れて帰る。』
『ですが殿下・・・』
『お前達の出る幕ではない!!それと・・・そこにいる車に乗った男女は、私の友人だ。
失礼があったらただじゃ済まない!』
『・・・かしこまりました。』
チェギョンを捕えようとした皇室警察署員は、漸くその手を離し・・・二人に道を開けた
シンはギョンの車の横を通りながら、ギョンに軽く頭を下げた
『二人共迷惑かけてすまなかった。気をつけて帰ってくれ。』
そう言いながら別荘の鍵をギョンの手に返すのを忘れなかった
その時の哀しげな眼は(巻きこんでしまってすまない。)明らかにそう告げていた
俯きながらシンに続くチェギョン・・・シンはチェギョンに歩幅を合わせながら、漸く見つけた愛する人を
絶対に離すまいと心に決めた
別荘の敷地から外に出て行くと、コン内官が公用車の外で待っていた
そしてチェギョンの姿を見るなり、なんとも複雑な顔つきでシンに話しかけた
『殿下・・・大変申し上げにくいことですが、シン・チェギョンさんはこの車にお乗せできません。』
『なぜだ?私の客だ。宮に一緒にいって貰う。』
『殿下・・・その理由はシン・チェギョンさん本人が、一番よくご存じな筈です。
どうかお一人でお乗りください。』
父と同じ内官職に就くコン内官に窘めるような言葉を掛けられ、チェギョンは一瞬戸惑いシンの手を離そうとする
だが、そんな妨害に負けないとばかりに、シンは公用車の後部座席を開けるとまずチェギョンを乗せ
それから自分も乗りこんだ
『すべて私の責任でしていることだ。コン内官に迷惑はかけない!』
溜息交じりに助手席に乗り込んだコン内官に、後部座席からシンはそう告げた
そして公用車は宮に向けて出発し、シンとチェギョンは一言も交わさないまま
やがて公用車は宮殿の敷地内に入っていく
シンの想いは・・・またチェギョンの想いは、皇帝陛下の決定を揺るがすことになるのか
それとも・・・
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ーーーこの~~八方ふさがりな感じが、読んでいて耐えられないでしょ?---
書いてるあたしもそうなのよ(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
しばらく辛い展開どんぶらこですが
皆様~~頑張って♪
その代わり・・・もう一方は甘いから❤
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!