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蛍火 4 (最終話)

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その日公務を終えた俺は、住まいである景福宮のエントランスを歩いていく

すると妻のチェギョンは、いつもより数段頬を染め上気した顔で俺を出迎えた

『シン君!!シンく~~ん!!おかえりなさ~~い!!あのねあのね・・・』

まるで纏わりつく子犬の様に俺の周りを行ったり来たりし、矢継ぎ早に話しかけようとするチェギョンに

俺は少々呆れ顔で諭した

『チェギョン!お前は一体いつになったら、皇后らしくなるんだ?』

エントランスなど官人や女官も勢揃いしているのだ。。。周囲の視線があり過ぎる

ここは一応クールな皇帝を装うべきだろう

でれでれとしたニュートラルな俺など人前で見せられる筈もない!

だがチェギョンは、俺の呆れた表情など物ともせず次の言葉を続けた

『もぉ~~子供達がお待ちかねなのっ♪早く着替えて行きましょう~~。』

行く?もう子供達は食事もすんだ時間だと言うのに、こんな時間から一体どこに行くと言うのだ?

俺はチェギョンに急かされるままスーツを脱ぐと普段着に着替え、寝室を出て再びチェギョンに問い掛けた

『こんな時間に一体どこへ行くんだ?』
『庭のお池に~~♪』
『池だと?もう暗いのに水遊びでもする気か?子供達が危険だろう?』
『違うわよ~~。あのね…コン内官さんが、蛍を手に入れて来たの。
シン君の帰りを待って池に放すって言ってるの。もう~子供達、光る虫なんて見たことが無いって
夕方から大騒ぎよ♪』
『蛍…?それは子供達が喜ぶだろうな。くくっ。。。』
『だから早く行きましょう~~♪シン君のお食事、少し遅くなっちゃうけど我慢してくれるでしょう?』
『あぁ。』

蛍・・・確かにテレビの映像や映画などで見たことはあるが、実際に目にするのは俺自身初めてだと思っていた

その時までは・・・

チェギョンと並んで池のほとりまで歩いて行くと、小さく照らす街灯の下に三人の子供たちやコン内官

それにチェ尚宮はじめとする女官や官人が集っていた

コン内官は何やら両手で大切そうに箱を抱え、俺の到着を待っていたようだ

『陛下お帰りなさいませ。お迎えにも上がらず失礼いたしました。』
『いや…そんなことは構わない。』
『それでは始めさせていただいてもよろしいでしょうか?』
『始めてくれ。』

俺のその返事を聞いたコン内官は、部下に合図を送ったようだ

一斉に庭園の明かりは落された

そしてコン内官は、持っていたその箱をゆっくりと開けて行く

箱から・・・まるで光のシャワーの様に帆足りが飛び立っていく


『わぁ~~・・・』

第一子であり皇太子のギョムが感嘆の声を上げた。。。周りに居た女官や官人達も一瞬息を呑み

そして感嘆の溜息を洩らす

その箱の中からは無数の蛍が飛び立ち、池の周りをゆっくりと点滅しながら飛び交う

俺もあまりにも美しい光景に目を細めた

『綺麗だなぁ。。。』

素直なギョムは蛍の放つ光に視線を泳がせ、うっとりと眺めている

『と~~たま!!アタチ・・・ムチ・・・こあ~~い!!』

第二子のウナは、おませさんだが怖がりな一面もある

第三子のユニは、ベビーカーに座ったまま大はしゃぎで手をたたいて喜んでいる

池のほとりに生息する草に留まり休憩を取ったり、また飛び立ったり・・・蛍も宮の水が

どうやら気に入ってくれたようだ

そんなことを考えていた時・・・一匹の蛍が妻チェギョンの肩の辺りに留った

生憎と月の出ていない夜の事、俺はなんだか胸の奥底から湧きあがってくるような想いに心が震え

思わずチェギョンの左手を取ると握り締めた

唐突な行動だったに違いない・・・なのにチェギョンはその手を握り返して来た

そうだ・・・
俺はずっと遠い昔・・・
お前に出逢っていたんだな・・・

『チェギョン・・・』

思わずその名前を呼んだ時、妻のチェギョンは感極まった顔つきで振り向いた

『シン君・・・こんな事、あったね?ずっと昔…あったでしょう?』
『あぁ。確かにあった。』
『今の今まで忘れてた。』
『俺もだ。なぜ思い出せなかったんだろうな。』
『あの指輪は、二人が許嫁の証だったんだね。』
『あぁ、そうだな。』


念を押す様に俺は箱を持ったまま蛍に魅入られているコン内官に確認をしてみる

『コン内官、一つ聞きたいことがあるのだが。』
『はい、何でございましょうか。』
『昔・・・そうだな20年近く前だと思うが、私と皇后は逢っていないか?』
『はい。お二人はお逢いになっておられます。』
『だが、私達は二人共、その日の事を今の今まで忘れていたのだ。』
『まだ幼い時のことでございましたから無理もございません。それに聖祖皇帝が崩御され
当時の陛下はそりゃあ気落ちなさっておいででしたから。』
『だが同じ様に皇后もその日の事をすっかり忘れていたのだ。』

コン内官は寂しそうに遠くを見つめ俺に教えてくれた

『皇后様にとりましても、陛下と同じ様に最愛のお爺様を同じ頃亡くされたのです。
まだ幼かったその当時の皇后様には、そのことがどれだけお辛かったか。。。』
『そうか。皇后も深い悲しみから逃れようと必死だったのだな。』
『さようでございます。』
『ありがとうコン内官。素敵な夏の贈り物に感謝する。』
『お役に立てて光栄にございます。』

手を繋いだままのチェギョンはその会話をずっと聞いていたようだった

ふと見るとチェギョンの肩に留った蛍は、そのままずっとその場所に居る様だ

『まるでお前の事を見守っているお爺さんの様だな。くくっ・・・』

そう口角を上げ笑うと、チェギョンは俺に視線を向け微笑んだ

『だったら…シン君の肩に留っているのは、聖祖陛下かな?くすくす・・・』

俺はその声に自分の左肩の後ろで光が放たれている事に気がついた

そうか!そうなのかもしれない。。。

ひょっとしてあの時の蛍は俺達の祖先で、俺達が無事家に帰りつく道案内をしてくれたと

言うことなのかもしれない

『守られているんだね。』
『あぁ。守られているんだな。』

忘れ去ってしまっていた古い記憶を思い出した日・・・チェギョンにはどうやら第四子が授かったようだ

例え擦れ違っても例え回り道をしても、俺達の幸せな未来はずっと見守られている

それからは毎年、夏の恒例行事として蛍の放流が行われるようになったのは言うまでもない

俺達の未来を見守る魂は、俺達の家族にも引き継がれていく

暗闇で唯一の支えだったこの手。。。永遠に・・・俺はこの手を離さない



蛍火 完



≪使用しているラインは海外サイトからお借りしております。お持ち帰りはご遠慮ください。≫
≪画像はチング様が作ってくださいました。お持ち帰りはご遠慮ください。≫

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ーーーあとがきーーー
アフター★シンチェの完結として
このお話を描かせていただきました❤
後日この短編はアフター★シンチェの書庫に移動させていただき
恐縮ですがアフター★シンチェはこれにて完結と
させていただきます。

ぎりぎり16日に間に合うかな~~♪
お盆に帰って来たあなたを見守っている魂は
あなたの幸せを祈っている。。。
そんなお話にしたかったんです。
ちょっと不思議なお話になりましたが
お付き合いいただきありがとうございました★

では・・・また夏休み終了まで
コツコツと短編など書いて行こうと思っています、
今後ともどうぞよろしくお願いいたします❤

~星の欠片~ 管理人
★ emi ★

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