次の約束の金曜日・・・チェギョンは電車に乗り約束の無人駅に向かっていた
もう≪豚さん貯金箱≫に入っていた小銭も残り少ない
(これが最後かなぁ・・・)
そう思いながらもシンの顔を思い浮かべると妙に心が弾んだ
(しかしシン君って掴みどころのない人。中学の同級生にはいないタイプだ。
だけどどうして・・・私に逢いたがるんだろう・・・)
家出が縁で知り合った二人。あまり人に自慢できる話じゃない
だがチェギョンはそんなきっかけで知り合ったシンと、三度目の約束が出来たことがなぜか嬉しい様である
静かに電車がホームに滑り込んでいく・・・シンの姿はまだ見えない
チェギョンは電車を降りると、いつもの待合室に入り隅の席に腰を下ろした
暫く待ってみるが・・・シンはなかなかやって来ない。
退屈になったチェギョンはスマホを取り出すとメディアニュースを開き読み始めた
その日シンは急な公務が入り地方に行っていた
元は皇帝陛下が出席する筈が皇帝陛下の都合が悪くなり、地方の国営美術館のオープニングセレモニーに
皇帝陛下の代役として出席し、無事皇太子としての役目を務めあげたのだ
その公務を済ませた帰りの車の中で、シンはコン内官に告げる
『コン・・・先週行った無人駅まで向かってくれ。』
『殿下!!それはなりません。そのような格好で下々の者に逢うなど・・・』
『少しだけの時間だ。そのくらいの便宜を図ってもよいだろう?
私は今日・・・陛下の代わりに公務を務めあげたじゃないか!』
『ですが殿下・・・』
『もう時間が無い。すぐに車に戻るから少しだけ立ち寄ってくれ!!』
『承知いたしました。』
本日のシンは皇太子のオーラを完璧に纏っていた
だがそのような物はなんとでもいい訳できると、シン自身は思っていたのだ
傍から見てもこれから高校に入学するとは思えないほど、完璧にスーツを着こなしたその姿は
やはり皇太子殿下そのものだったのだ
シンは皇室で用意して貰った焼き菓子を座席の横に置き、それを見つめながら微笑んでいる
(チェギョンは美味しいと言ってくれるだろうか・・・)
初対面の自分に優しい言葉を掛けてくれ、エッグタルトを振舞ってくれたチェギョン
どんなに短い時間でもその笑顔に触れたかった
『遅いなぁシン君。もしかして来られなくなったとか?あ~~電話番号くらい聞いておけばよかったな・・・』
退屈を紛らわせる為にスマホを操作し、あるニュースの動画をチェギョンは開いた
『あ・・・あれ?なんでシン君が?』
その画面に釘づけになる。アナウンサーの声が頭の中に響いて来る
【本日皇太子殿下イ・シン様は、●●市でオープンした国営美術館の
オープニングセレモニーに参加されました。】
『うっそだぁ~~。他人の空似よね?だって世界中には自分にそっくりな人が三人いるって・・・
それにシン君はスーツなんか着ないし、この人はどうみたって大人って感じ。
あれ・・・でも名前も同じ。同姓同名・・・』
今このスマホの動画の中に映っている人物が、自分が逢おうとしているシンであるのかどうかを考え
チェギョンは頭の中を混乱させた
『いやいや違うって!だって皇太子殿下が腹ペコだなんて、どう考えたっておかしいじゃん・・・。
でもあの黒塗りの車・・・』
先週逢った時にまるで待合室を監視するかのように停まっていた高級セダン
頭を悩ませ一人で自問自答しているうちに、やがて窓からは夕陽が差し込んで来る
随分長い間この場所で待った。もうシンは来ないかもしれない・・・そう思いチェギョンは席から立ち上がった
『はぁ~~・・・』
シンが来なくてがっかりした半面、来なくて良かったと思う気持ちもあった
あと5分ほどで電車が到着する。今までシンと逢った時に乗り込んだ電車だ
チェギョンはもう一度、先程の動画を開いてみる
やはり・・・シンのようにも見える
『そう言えば王立高校だって言ってたっけ・・・』
否定したい。だが考えれば考えるほどこの動画の人物がシンである様な気がしてくる
そんな時だった・・・
『チェギョン!!』
チェギョンは自分を呼ぶその声に気が付き、恐る恐る振り向いた
そこには動画に映っている人物と同じスーツを着たシンが立っていた
『シン・・・くん・・・・』
『すまない。遅くなってしまって・・・』
チェギョンは今まさに見ている動画をシンに向けた
シンは自分の素性がチェギョンにばれてしまった事で非常に困惑していた
『あ・・・あぁ。』
『これは・・・シン君だよね?』
『あぁ。』
『そっか・・・。私、もうお小遣い無いからここには来られない。でも約束守ってくれてありがとう。
あ・・・電車が来たから、私は行くね。』
『チェギョン待ってくれ!話をさせて欲しい・・・』
『いや、聞かなくてももう解ったよ。』
ホームに滑り込んできた電車。表情を失くしたチェギョンの頬に、電車が起こす風が髪を揺らした
『待ってくれ。これ約束の・・・』
シンは皇室から用意して来た焼き菓子をチェギョンに差し出したが、チェギョンは首を横に振り
電車の扉は二人を遮った
走り出した電車・・・チェギョンはシンに向かって一瞬だけ手を振った
シンはこんな形で自分の素性を知られてしまい、チェギョンとの短い出逢いが終わりを告げてしまう事に
やりきれない気持ちを抱いた
『チェギョン・・・』
あの笑顔に触れる事は出来なかった
(どうして俺は皇太子なんだ・・・)
電車が残響を残し走り去った後、いつまでもホームで立ち尽くすシンを見兼ねてコン内官は公用車から降りると
シンを迎えにやって来る
『殿下・・・』
『あぁ解っている。行こう。』
背丈は大人並みに大きいと言うのに、心が大人と子供の狭間で彷徨っているシン
普通ではない環境で育ってきたシンを、コン内官は心から案じ公用車に乗り込ませた
今回の家出で知り合った少女に、シンが心を動かされている事を見抜きそしてそれが終わってしまった事に
心を痛めずにはいられなかった
宮に戻り自室に入ったシンは、持参した焼き菓子の包装を開きひとつ口に運んだ
『あのエッグタルトの方が何千倍も美味しかった・・・』
それはその時のシンが空腹だったからなのか、はたまた隣にチェギョンがいたからなのかは分からない
だがシンは今までにあの短い時間ほど、心が穏やかになった事はないと改めて感じたようだ
自室にコン内官を呼び出し、途轍もない事を言い始めた
『コン・・・入学式が済んだら、宮殿でパーティーが開かれるんだな?』
『はい。さようでございます。』
『表向きは若い王族達の交流会となっているが、実際はお妃選びの場だろう?』
『はい。さようでございます。ですので王族の子息はパートナー同伴と言う決まりになっております。』
『なるほどな。令嬢を王族の子息に取られない様にと言う姑息な考えだな。』
『まぁ…確かにそうとも言えます。』
『解った。そのパーティーに出る気はなかったが、出る事にしよう。
だが一つ条件がある。』
『なんなりとお申し付けください。』
『ユルの入学する高校に私も入学する事にする。』
『えっ・・・殿下、入学する高校を変更されるのですか?』
『そうだ。それが私のパーティーに出る条件だ。すぐに手続きしてくれ。』
『はい。かしこまりました。』
王立高校は国の最重要人物の子息たちが集ういわゆる名門校である
だが従兄弟のイ・ユルが入学を決めた韓国芸術高校は、自由な校風が評判の高校である
シンは王族との見合いパーティーに出席する代わりに、三年間好きな映像技術を学ぶ道を選んだ
そんなシンの決定に従うとばかりにチャン・ギョン、リュ・ファン、カン・インの親友三名も韓国芸術高校への
入学手続きを取った
大急ぎで準備が整えられ、シンの新しい高校生活が始まろうとしている
その決断が・・・まさかシン・チェギョンとの再会を運んでくる事になろうとは・・・まだシンも知らない・・・
三度目の哀しいお別れで終わっちゃあ
寂しすぎるからね・・・
期待を持たせておくのだ❤
もう≪豚さん貯金箱≫に入っていた小銭も残り少ない
(これが最後かなぁ・・・)
そう思いながらもシンの顔を思い浮かべると妙に心が弾んだ
(しかしシン君って掴みどころのない人。中学の同級生にはいないタイプだ。
だけどどうして・・・私に逢いたがるんだろう・・・)
家出が縁で知り合った二人。あまり人に自慢できる話じゃない
だがチェギョンはそんなきっかけで知り合ったシンと、三度目の約束が出来たことがなぜか嬉しい様である
静かに電車がホームに滑り込んでいく・・・シンの姿はまだ見えない
チェギョンは電車を降りると、いつもの待合室に入り隅の席に腰を下ろした
暫く待ってみるが・・・シンはなかなかやって来ない。
退屈になったチェギョンはスマホを取り出すとメディアニュースを開き読み始めた
その日シンは急な公務が入り地方に行っていた
元は皇帝陛下が出席する筈が皇帝陛下の都合が悪くなり、地方の国営美術館のオープニングセレモニーに
皇帝陛下の代役として出席し、無事皇太子としての役目を務めあげたのだ
その公務を済ませた帰りの車の中で、シンはコン内官に告げる
『コン・・・先週行った無人駅まで向かってくれ。』
『殿下!!それはなりません。そのような格好で下々の者に逢うなど・・・』
『少しだけの時間だ。そのくらいの便宜を図ってもよいだろう?
私は今日・・・陛下の代わりに公務を務めあげたじゃないか!』
『ですが殿下・・・』
『もう時間が無い。すぐに車に戻るから少しだけ立ち寄ってくれ!!』
『承知いたしました。』
本日のシンは皇太子のオーラを完璧に纏っていた
だがそのような物はなんとでもいい訳できると、シン自身は思っていたのだ
傍から見てもこれから高校に入学するとは思えないほど、完璧にスーツを着こなしたその姿は
やはり皇太子殿下そのものだったのだ
シンは皇室で用意して貰った焼き菓子を座席の横に置き、それを見つめながら微笑んでいる
(チェギョンは美味しいと言ってくれるだろうか・・・)
初対面の自分に優しい言葉を掛けてくれ、エッグタルトを振舞ってくれたチェギョン
どんなに短い時間でもその笑顔に触れたかった
『遅いなぁシン君。もしかして来られなくなったとか?あ~~電話番号くらい聞いておけばよかったな・・・』
退屈を紛らわせる為にスマホを操作し、あるニュースの動画をチェギョンは開いた
『あ・・・あれ?なんでシン君が?』
その画面に釘づけになる。アナウンサーの声が頭の中に響いて来る
【本日皇太子殿下イ・シン様は、●●市でオープンした国営美術館の
オープニングセレモニーに参加されました。】
『うっそだぁ~~。他人の空似よね?だって世界中には自分にそっくりな人が三人いるって・・・
それにシン君はスーツなんか着ないし、この人はどうみたって大人って感じ。
あれ・・・でも名前も同じ。同姓同名・・・』
今このスマホの動画の中に映っている人物が、自分が逢おうとしているシンであるのかどうかを考え
チェギョンは頭の中を混乱させた
『いやいや違うって!だって皇太子殿下が腹ペコだなんて、どう考えたっておかしいじゃん・・・。
でもあの黒塗りの車・・・』
先週逢った時にまるで待合室を監視するかのように停まっていた高級セダン
頭を悩ませ一人で自問自答しているうちに、やがて窓からは夕陽が差し込んで来る
随分長い間この場所で待った。もうシンは来ないかもしれない・・・そう思いチェギョンは席から立ち上がった
『はぁ~~・・・』
シンが来なくてがっかりした半面、来なくて良かったと思う気持ちもあった
あと5分ほどで電車が到着する。今までシンと逢った時に乗り込んだ電車だ
チェギョンはもう一度、先程の動画を開いてみる
やはり・・・シンのようにも見える
『そう言えば王立高校だって言ってたっけ・・・』
否定したい。だが考えれば考えるほどこの動画の人物がシンである様な気がしてくる
そんな時だった・・・
『チェギョン!!』
チェギョンは自分を呼ぶその声に気が付き、恐る恐る振り向いた
そこには動画に映っている人物と同じスーツを着たシンが立っていた
『シン・・・くん・・・・』
『すまない。遅くなってしまって・・・』
チェギョンは今まさに見ている動画をシンに向けた
シンは自分の素性がチェギョンにばれてしまった事で非常に困惑していた
『あ・・・あぁ。』
『これは・・・シン君だよね?』
『あぁ。』
『そっか・・・。私、もうお小遣い無いからここには来られない。でも約束守ってくれてありがとう。
あ・・・電車が来たから、私は行くね。』
『チェギョン待ってくれ!話をさせて欲しい・・・』
『いや、聞かなくてももう解ったよ。』
ホームに滑り込んできた電車。表情を失くしたチェギョンの頬に、電車が起こす風が髪を揺らした
『待ってくれ。これ約束の・・・』
シンは皇室から用意して来た焼き菓子をチェギョンに差し出したが、チェギョンは首を横に振り
電車の扉は二人を遮った
走り出した電車・・・チェギョンはシンに向かって一瞬だけ手を振った
シンはこんな形で自分の素性を知られてしまい、チェギョンとの短い出逢いが終わりを告げてしまう事に
やりきれない気持ちを抱いた
『チェギョン・・・』
あの笑顔に触れる事は出来なかった
(どうして俺は皇太子なんだ・・・)
電車が残響を残し走り去った後、いつまでもホームで立ち尽くすシンを見兼ねてコン内官は公用車から降りると
シンを迎えにやって来る
『殿下・・・』
『あぁ解っている。行こう。』
背丈は大人並みに大きいと言うのに、心が大人と子供の狭間で彷徨っているシン
普通ではない環境で育ってきたシンを、コン内官は心から案じ公用車に乗り込ませた
今回の家出で知り合った少女に、シンが心を動かされている事を見抜きそしてそれが終わってしまった事に
心を痛めずにはいられなかった
宮に戻り自室に入ったシンは、持参した焼き菓子の包装を開きひとつ口に運んだ
『あのエッグタルトの方が何千倍も美味しかった・・・』
それはその時のシンが空腹だったからなのか、はたまた隣にチェギョンがいたからなのかは分からない
だがシンは今までにあの短い時間ほど、心が穏やかになった事はないと改めて感じたようだ
自室にコン内官を呼び出し、途轍もない事を言い始めた
『コン・・・入学式が済んだら、宮殿でパーティーが開かれるんだな?』
『はい。さようでございます。』
『表向きは若い王族達の交流会となっているが、実際はお妃選びの場だろう?』
『はい。さようでございます。ですので王族の子息はパートナー同伴と言う決まりになっております。』
『なるほどな。令嬢を王族の子息に取られない様にと言う姑息な考えだな。』
『まぁ…確かにそうとも言えます。』
『解った。そのパーティーに出る気はなかったが、出る事にしよう。
だが一つ条件がある。』
『なんなりとお申し付けください。』
『ユルの入学する高校に私も入学する事にする。』
『えっ・・・殿下、入学する高校を変更されるのですか?』
『そうだ。それが私のパーティーに出る条件だ。すぐに手続きしてくれ。』
『はい。かしこまりました。』
王立高校は国の最重要人物の子息たちが集ういわゆる名門校である
だが従兄弟のイ・ユルが入学を決めた韓国芸術高校は、自由な校風が評判の高校である
シンは王族との見合いパーティーに出席する代わりに、三年間好きな映像技術を学ぶ道を選んだ
そんなシンの決定に従うとばかりにチャン・ギョン、リュ・ファン、カン・インの親友三名も韓国芸術高校への
入学手続きを取った
大急ぎで準備が整えられ、シンの新しい高校生活が始まろうとしている
その決断が・・・まさかシン・チェギョンとの再会を運んでくる事になろうとは・・・まだシンも知らない・・・
三度目の哀しいお別れで終わっちゃあ
寂しすぎるからね・・・
期待を持たせておくのだ❤