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Channel: ~星の欠片~
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パウダースノーの降る夜に 29

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『うぅぅ・・・生まれるかも・・・』

と言ったと思えば、その数分後には何事もなかったかのようにけろっとした顔をする妻のチェギョンに

王立病院に向かう車中、シンは半ば呆れ顔を向けた

だが王立病院に到着する頃には、額に脂汗を浮かべ呻くことしかしなくなったチェギョンを

シンは落ち着かない心持ちで王立病院への到着を待った

イギサを急かしたところで到着時間はさほど変わらない。逆に焦らせて事故でも起こしたら大変である

そうしている間も妻のチェギョンはシンの身体に凭れかかり、苦しそうな呻き声を上げた

『うーーーっ・・・はっはっはっ・・・・』

必死に浅い呼吸を繰り返し痛みから逃れようとする。シンはただ見守ることしかできなくてその額に浮かぶ汗を

ポケットチーフで何度も拭った

助手席に座るコン内官がシンに向かって話しかけた

『殿下、漸く王立病院に到着いたしました。ただ今マスコミを避け裏口に向かっております。
医師や看護師も既に待機しておりますのでご安心ください。』

シンはコン内官に向けて頷いて見せる。それからチェギョンに励ます様に話しかけた

『チェギョン・・・病院に到着した。もうすぐだ。頑張れ!!』
『ひぃ~~・・・・』

既に叫び声を上げているチェギョンである

裏口に到着した公用車・・・イギサが後部座席を開けると、医師と看護師は一斉にチェギョンを車から降ろし

ストレッチャーに乗せると分娩室に向かった

シンもすぐ後を追いかけるように向かう。そして無情にもチェギョンは分娩室に消えてゆき、

シンは自分の目の前でその扉が閉まるのを、いたたまれない想いで茫然と眺めた

時間ばかりが・・・ただ過ぎていく

立っていても座っていても落ちつく事の出来ないシンは、ついコン内官に独り言のように話しかけていた

『コン・・・男と言うものは無力なものだな。妻が苦しんでいると言うのに、何もしてやれない・・・』

コン内官は殿下の気持ちに添う様に答える

『確かに・・・殿下、こんな時ほど男の不甲斐なさを感じる事はございません。
ですが妃宮様は今、女性として立派に戦っております。もうしばらくの辛抱です。殿下・・・』

優しく諭す様に言い含めるコン内官。シンは人生の先輩のコン内官の言葉に安堵し

それからは椅子に座ったまま、両手を重ね合わせ、分娩室のチェギョンがどうか無事である事を祈り続けた


どれほどの時間が経ったのか・・・窓から差し込む光が僅かに蒼く変わった頃、分娩室の中から元気な泣き声が

響き渡った

『生まれた・・・』

シンは立ち上がりその扉の前で右往左往する。チェギョンは無事なのか・・・子供は無事なのか

閉められた扉がもどかしい・・・

やがて医師が満面の笑みで姿を現し、その背後から一人の看護師が生まれたばかりの赤ん坊を抱いて出てくる

『殿下・・・親王様がお生まれになりました。』
『親王ですか。』

シンは看護師の抱いている生まれたての赤ん坊の顔を覗きこみ、漸く笑顔を浮かべた

『それで・・・妃殿下の容体は?』
『大変お疲れのご様子ですが、元気でいらっしゃいます。殿下・・・妃殿下にお逢いになられますか?』
『もちろんです。』

医師に案内され入って行った分娩室。チェギョンはお腹の上に何か載せられ目を閉じていた

『チェギョン・・・』

汗で額に張り付いた髪を指先でどかしながら、シンはそっと話し掛けた

『シン…君。』
『良く頑張ったな。』
『うん。頑張ったよ・・・赤ちゃん・・・見てくれた?』
『あぁ。すごく暴れん坊な顔をしていた。くくっ・・・。ありがとう。』
『ん?なにが?』
『頑張ってくれて…』
『そんなの・・・当たり前だよ。ガンヒョンもヒョリンも頑張ったんだもの。私だって頑張らなくちゃ・・・』
『でもそれでも・・・ありがとう。』

シンはチェギョンの頬に片手を添えると、もう片方の頬にキスを落とした

愛する妻に最大の敬意を表した感謝のキスだった




東宮に親王≪チェウォン≫が仲間入りして三カ月後、南宮殿のギョン皇子に親王≪ガンウ≫が誕生し

宮中はますます賑やかになって行く

北宮殿ではイン皇子が内親王の≪ヒョリ≫を溺愛し、宮中の庭では毎日の様に

ベビーカーに乗った≪チェウォン≫と≪ガンウ≫そして歩き始めた≪ガンジュ≫と≪ヒョリ≫を連れて

皇子達そして元姉妹達が集う。。。

時には中宮殿に来ていたスニョンも仲間に加わり、元姉妹達はシン家に住んでいた時の様な賑やかさを見せた





季節は巡りチェギョンが東宮に嫁いでから二度目の春がやって来た

第四皇子のユルとヒスンが・・・とうとう帰国して来たのだ

兄弟達は其々に生まれた子供を連れ、謁見の間に集う

ユル皇子とヒスンは満面の笑みで、イギリス帰りの洗練された様子を兄弟達に見せつけた

『子供がこんなに・・・』
『二年の間に四人?』

驚きと喜びを胸に二人は子供達の顔を見て回った

『この子が・・・ギョンのところの≪ガンジュ≫と≪ガンウ≫で・・・この子がイン兄貴のところの≪ヒョリ≫
それからこっちがシンのところの≪チェウォン≫だね?』
『そうだ。』
ファン兄貴・・・二年の間に結婚しなかったなんて・・・ひょっとして僕達の帰国を待っていてくれたんじゃないの?』
『うん。まぁね。』
『すまなかったね。さて・・・僕達も帰国した事だし、ファン兄貴のところと僕のところの婚姻の日取りを決めよう。』
『ああそうしよう。すまないがユル・・・僕達が先でもいいかな?
もうさんざん当てつけられてきたからね。早く結婚したいよ。ふふふ・・・』
『うん。ファン兄貴そうしてくれ。僕達は二年間、十分すぎるほど楽しい日々を過ごしたからさ。』


その春・・・皇室は立て続けに二度の婚礼の儀を執り行った

そして兄弟と元姉妹達が全員揃い。宮中はますます賑やかになって行くのであった

もちろん夜泣きが治まった頃から、チェギョンのネット漫画家活動は再開された

やはりその第一声は・・・

≪生まれた赤ちゃんは自分がない物を持っているんですぅ・・・≫

そんなくだりで始まり、活動再開を心待ちにしていた宮中や一般のファン達を虜にした

同じ女性として経験した育児の悩み・・・成長の過程・・・

そのすべてが共感できるものだったのである

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では次回30話で、こちらのお話は完結させていただきます❤







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