『では殿下・・・そのようにお願いいたします。』
そういってチェ尚宮が部屋を去っていった後、シンは徐に立ち上がり隣の間に続く扉をこっそり覗いた
(あぁ・・・やはり・・・何の準備もない。)
落胆した表情でその扉を閉め再び座ったシンに、チェギョンは不思議そうに問いかけた
『どうしたの?シン君・・・何か嫌なことでもあった?』
『あぁ?いや・・・チェギョン、お前は前以て何か聞かされていたのか?』
『えっ?何を?』
『あ・・・いや、儀式の順番など・・・』
『うん。同牢の礼でお食事をして一連の儀式は終わりって聞いてたけど・・・それが何か?』
(つまり・・・チェギョンは合房の儀式がないことを知っていた。
だったらなぜ俺にはその通達が前以てない?
いや・・・前以て言われたとしても納得はしなかっただろうが・・・)
釈然としない気分のシンにチェギョンは天真爛漫な笑顔を向ける
『同牢の礼は儀式だからあまり期待していなかったけど、お食事とっても美味しかったね♪
さて~東宮に戻ろうか~♪』
立ち上がろうとしたチェギョンの肩を、シンは押さえつけた
『ちょっと~何するのよぉ~~!』
『あのなチェギョン・・・俺達は婚姻したんだぞ。』
『うん。そうだよ。』
『何か抜けていないか?』
『何か?』
『合房の儀式が抜けている。』
『ハッパン?』
『初夜の事だ。』
『しょ・・・///初夜///?』
『普通の夫婦なら当然のことだろう?』
『ふ・・・普通じゃないって事かな///あはは~~・・・そんなことまで儀式になるなんて~~!』
『このまま東宮に帰ってみろ。互いに自分の部屋から出ないよう見張られる。』
『だから?』
『ここに泊まっていくと二人で宣言しよう。』
『えっえぇ~~~っ!そんなこと言えないよぉ。』
『夫婦になって初めての夜は一緒に寝るもんだろう?』
『そんなこと同意を求められても・・・困るよぉ・・・』
『っつ・・・』
二人で抗議したら通るかもしれないと思うシンだったが、やはり皇帝陛下の命令に背くことなどできない
心の中で大ブーイングを叫びながら、シンはチェギョンが立ち上がらないように押さえつけた手に力を込めた
そしてやりきれない思いをチェギョンの唇に落とした
今まで交わしたキスとは違う、息もできないような激しさにチェギョンは身を捩った
『は・・・はふぅ・・・』
唇を離した時肩で息をするチェギョンは、恨めしそうにシンを見上げた
『も・・・///もぉっ///』
『くっ・・・』
どうせ今夜は眠れない夜になるのだから、廊下を隔てた部屋でチェギョンも眠れなくなればいい・・・
そんな若干恨めしい気分をチェギョンにも与えたシンだった
『さて・・・妃宮、東宮に戻ろうか。』
『ふぅ~~~///』
上気した顔のチェギョンと共にシンは部屋から出て行った
そして車に乗り込み東宮に戻る間ずっと、チェギョンの手を握りしめていた
少しでもチェギョンに触れていたいと願うシンだった
『では殿下・妃宮様・・・お疲れになったことでしょうから、ゆっくりお休みください。』
チェ尚宮にそう促され其々の部屋に入って行く二人・・・だがシンはすぐに部屋を出ると本殿に向かった
やはりこの釈然としない思いを、陛下にぶつけない事にはどうにも収まりがつかなかったのだ
本殿ではシンの行動を予測していたかのように、陛下と皇后が待ち構えていた
『太子や・・・良く来たな。婚姻おめでとう。』
『疲れておるだろうにどうかしたのか?』
満面の笑顔を向ける両親に対し、シンは思いの丈をぶつけた
『陛下・・・合房の延期はどういった理由でしょうか。
妃宮が嫁いでくるのを心待ちにしていたのを両陛下は誰よりご存知のはずです。
納得のいくお返事をいただきたく参りました。』
シンの憤った表情に両陛下は笑顔で答えた
『そのように感情を昂らせたまま合房の儀式を迎えたのでは、妃宮が憐れだ。
もっと気持ちの余裕を持って、妃宮に接することができる日まで待つがよい。』
『そうだ。それにまだ二人とも高校生だ。今懐妊なんて事になっては、国民に示しが付かない。
皇族は国民の手本でなくてはならぬのだ。よく考えなさい。』
確かに・・・自分の想いのままに合房に臨んでしまったら、チェギョンに無理をさせてしまうことは予想が付いた
大切に15年間慈しんできた人を最も大切にできるのは今ではないと、シン自身も納得する
『解りました。その時を…待つことにいたします。』
自身が気持ちを昂らせ過ぎていたことに気が付いたシンは、俯きながら東宮に戻っていった
その頃チェギョンはチマチョゴリを脱いで汗ばんだ身体にシャワーを浴びていた
『はぁ~気持ちいい❤皇室って水圧が高いんだ~♪すっきりする~~。
しかしシン君・・・あんなキスするなんて・・・もぉ!///
合房?チェ尚宮さんからはそんな説明はなかったもんね。
でも本当はあったの?そんな儀式があの後に・・・ひえ~~信じられない!』
濡れた髪を乾かしパジャマを着て部屋に戻り、ソファーに腰掛ける
『ひょっとして・・・おしゃべりしたくてもシン君の部屋に行っちゃあダメなの?』
そっと部屋の扉を開けて廊下を覗き見る
するとそこには女官が監視するかのように立っていた
チェギョンは静かに扉を閉め、すごすごとソファーに戻っていく
『ん~~結婚したのに別居しているみたいだぁ・・・』
そのうちには緊張と疲れが身体中を襲い、チェギョンはとても寝心地の良いベッドの住人となっていった
一方・・・本殿から部屋に戻ったシンは、シャワーを浴び納得をしながらも悶々とする自分を持て余していた
『そうだ。ギョンに電話しよう。』
チェギョンは既に眠ってしまった事を廊下に控えていた女官から報告されたシンは、携帯を取り出すと
ギョンに電話を掛けた
『ギョンか?』
『あれ~~新婚さんのシン君じゃないか~♪どうしたの?新婚初夜に~~。』
『いや・・・今日はありがとうと言いたくて・・・』
『そんなこと言って~~初夜の感想を報告したかったとか?勘弁してよ~~♪』
『いや・・・チェギョンは自分の部屋で寝てる。』
『はぁ~?どうして・・・』
『合房の儀式を延期されたからな。』
『えっ?一体誰に?』
『皇帝陛下だ。』
『あ~皇帝陛下もなんて無粋なことを~~!それで・・・退屈して俺に電話ってわけ?』
『あぁその通りだ。くくっ・・・』
『なんだか・・・皇族って可哀想だな。愛し合うことも自由にならないなんて・・・』
『いや・・・俺が無茶しないようにという陛下の配慮だ。』
『無茶?それはダメだ。やっぱり男は好きな女には優しくなくっちゃね。』
『ギョン・・・お前はどうなんだ?』
『俺?俺はこの上なく優しいよ。ガンヒョンに聞いてみたら?』
『ば・・・馬鹿///そんなこと聞けるか!』
ギョンと話ができたシンは少し気持ちが落ち着いてその夜眠りにつくことができたらしい
・・・シンく~~ん、朝ですよぉ~~起きて!
・・・もぉ~シン君ったら寝坊なんだから~~!早く起きないと朝の挨拶に遅れちゃうでしょ~~!
・・・まだ起きない。仕方ないな。おはようのキスでも・・・してみるか。ちゅっ❤
『おい!チェギョン・・・早く起きろ!』
『えっ・・・シン君が早く起きなくちゃ・・・えっ?もうスーツ着てる・・・』
『すぐに着替えろ。朝の挨拶に行くぞ。』
『ひえ~~~っ!!』
シンの事を起こしている自分は夢の中の自分だったと気が付き、チェギョンは慌ててベッドから飛び起きた
『き・・・着替えるから部屋で待ってて。すぐに行くから~~!』
『わかった。急げよ。』
『うん~~!』
新婚早々シンに起こされてしまったチェギョンは、慌てて身支度を整えシンと共に朝の挨拶に向かった
二人の夫婦としての日常が始まろうとしていた
合房の延期で不貞腐れちゃったシン君だったけど
陛下の言葉を真摯に受け止めて
その時を待つらしい(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
本格的に梅雨らしくなってきましたね。
既にお日様が恋しいですよぉ・・・