安静時間が過ぎ漸く分娩室から出て特別室に移動した時、私はお姉ちゃんに言った
『お姉ちゃん・・・休んでなんかいられないの。どうか私を行かせて。
私・・・まだあの子に初乳もあげていないのに・・・』
そういいながら自分は一体どこに探しに行くというのだろうかと思う
探す当てが私にはないのだ
その時にはお姉ちゃんも冷静さを取り戻したらしく、私を諭した
『妃宮様・・・ただ闇雲に探して見つかる筈がありません。ただいま殿下も動いてくださっています。
それに私も以前皇帝陛下にお仕えしていたイム女官の連絡先を入手しました。
今こちらで電話を掛けさせていただいてもよろしいですか?』
『構いません。』
僅かでもあの子の居所に繋がるのであれば・・・そんな藁にも縋る思いだった
お姉ちゃんはその後、自分でも不安に感じていることを呟いた
『ただ・・・この携帯電話を今でも使っていてくれたら・・・の話なんですが・・・』
じっと携帯を見つめ、入手した番号を押したお姉ちゃん
相手はすぐに出たみたい
『イムさんの携帯ですか?』
『はい。』
相手の声が電話越しに聞こえる
『夜分遅くに申し訳ございません。私は東宮殿に仕えるチェ尚宮と申します。大変ご無沙汰しております。』
『えっ?チェ尚宮様?あの・・・一体どうなさったんですか?』
『少しお尋ねしたいことがございまして・・・』
以前は部下だったとしても今は一般人だ
お姉ちゃんの電話応対はさすがだと思った
『なんでしょうか。何なりとお尋ねください。』
宮殿を離れて五年経ってもきちんとした受け答えをするその女性・・・こんな人の母がこんな大罪を犯すだろうか
そう思った時・・・お姉ちゃんは核心を突く質問を投げかけた
『イムさん・・・あなたのお母様は王立病院にお勤めですか?』
『はい!その通りです。ミン家が解体した後、母はずっと昔勤務していた王立病院に再雇用されたのです。
あの・・・それが何か?』
『あなたのお母様は産婦人科勤務ですね?』
『はい。その通りです。よくご存知ですね。』
『先程・・・妃殿下が内親王様を出産なさったのですが、あなたのお母様と共にその内親王様の消息が
分からなくなったのです。もしかして・・・あなたは何かご存知ですか?』
『えっ?ちょっ・・・ちょっとお待ちください。母が・・・内親王様を連れ去ったと疑われているのですか?』
『残念ながらそうとしか考えられないのです。』
『そんな・・・何かの間違いです。母はとても真面目な性格で仕事熱心で・・・生まれたばかりの内親王様を
連れ出すような人では・・・』
『お気持ちはわかりますが・・・これは事実です。
現にミン家の娘が、今日・・・更生施設を出たと報告がありました。』
『えっ・・・』
『恐らくミン家の娘の差し金でしょう。』
絶句する女性・・・
お姉ちゃんは宮殿の尚宮として毅然とした態度で命じた
『とにかく内親王様が無事に戻ることが先決です。もう皇室警察も捜索を始めています。
皇室警察はあなたのお母様の行方を必死に探していることでしょう。
自首させてください。そして内親王様を無事妃宮様の元にお帰してください。』
『ちぇ・・・チェ尚宮様・・・かしこまりました。私の命に代えても内親王様をご無事な姿でお連れいたします。
どうかお任せください。』
『お願いいたします。』
電話を切ったお姉ちゃんは小さく溜息を吐いた
『妃宮様は身体を休めることに専念なざってください。』
『そんなことできるはずないでしょう?』
『できなくてもそうなさるのです。今はそれが妃宮様の務めです。』
そう言い切ったお姉ちゃんだけど、私の気持ちが分かるだけに辛いのだろう
私をベッドに横たえるとそっと頭を撫でてくれた
あの事故の後・・・寝付けなかった時、いつもそうしてくれたみたいに・・・
横になっていても思うのはあの子の事ばかり…まだあの子が生まれた痛みが強いのに、
なぜあの子はここにいないの?
病室から出ることを禁じられた私は、外に見張りが立ち・・・軽く軟禁状態だ
普通だったら動きたいなんて思わない
だけど今は非常事態だ
そっとベッドを抜け出し痛む身体を奮い立たせドアのところまで歩いていく
するとシン君の声が聞こえた
どうやらホン・ジュソン君がここにやってきているみたい
『殿下・・今、イギサと皇室警察が連携して捜索を続けておりますが、まだ・・・何の手がかりも掴めません。』
『そうか・・・』
『申し訳ありません。私はミン家に仕えていた使用人の顔を知っていました。
もし私が護衛にきていたら・・・防げた事件かもしれません。』
『ホン・ジュソン・・・それはない。看護師は皆マスクを着用していた。顔が分かる筈がない。
それに・・・看護師が分娩室に入るのは裏口からだ。もしお前が護衛に来ていても気づく筈が無い。
だからお前は自分の事を責め必要はない。』
『ですが・・・』
無念そうなホン・ジュソン君の声・・・立派なイギサになっても、ミン家に呪縛され続けるなんて・・・
ホン・ジュソン君が去っていった後、シン君は特別室のドアを開けた
そしてその場所に立っている私に驚き、ベッドに連れて行こうとした
『シン君・・・探しに行かなくちゃ。私はお母さんなんだもの・・・探しに行かなくちゃ・・・』
『チェギョン、ダメだ。まだ動ける身体じゃない。』
『でも・・・』
泣き顔になってしまう私を、シン君は強く抱きしめて無理やりベッドに押し戻した
親であるというのに・・・私はあの子の顔さえ碌に見ていない気がした
『シン君・・・イン君から連絡は?』
『まだない。』
『こっちから掛けてみて・・・』
『何度も掛けた。電源を切っていた。』
『えっ・・・』
二人揃って途方に暮れる
『だが・・・チェ尚宮が連絡した元女官もきっと動いてくれている筈だ。今はここで静かにあの子の無事を祈ろう。』
何も話せないまま時間だけが過ぎていく
もうそろそろ夜が明けるのだろう。窓にかかったカーテンの色が朝が来ることを教えてくれた
そんな時・・・シン君の携帯が鳴り響いた
『イン!インか?』
『ああシン・・・こんな時間になってしまってすまない。』
『内親王は?』
『無事…お連れした。』
俺は老化で待機していたチェ尚宮に、この病院の裏口に向かうよう命じ、インと会話を続けた
『それで・・・ミン・ヒョリンは?』
『今ここにいる。』
『連れ去った女もいるのか?』
『ああ。その女と娘も一緒だ。三人とも皇室警察に出頭すると言っている。』
その時隣にいたチェギョンが俺に言った
『私が・・・話をするわ。イム看護師と娘さんにもこちらに来るよう伝えて。』
四人はチェギョンの入院している特別室のある階に、イギサに取り囲まれやってきた
俺達の子供は・・・チェ尚宮に抱かれすぐに診察室に入って行った
生まれてから・・・連れ去られてから10時間も経っているのだ
チェギョンはミン・ヒョリンと顔を合わすと、キッと今まで見たこともない憎悪に満ちた目で
ヒョリンを睨みつけた
インに付き添われたミン・ヒョリンは、特別室の隣にある応接室で俺達と向かい合った
開口一番ヒョリンは言った
『どう?大切なものを奪われる気持ちって・・・』
『ふざけないで!あなたのしたことは一番卑劣な手段よ!』
『ふっ・・・そんなのわかっているわ。わかっていてやったんだもの。あの小さくて頼りない子を抱いて、
その首をひねってやろうかと思ったわ。実際に手を掛けたわ。でも・・・あの子、私の指を掴んだ・・・
生きたいって・・・まだ生まれたばかりの子が言ったのよ。
まぁ・・・殺そうとしたのは事実。だから皇室警察を呼んで!私を極刑にしたらいい!!』
『極刑?そんなものじゃ生ぬるいわ。あなたを八つ裂きにしてやりたいくらいよ。
でも・・・あなたも牢獄にいるご両親にとっては大事な娘。その娘がこんな大それたんことをしでかしたと知ったら
どんなに悲しむかしら。
それに・・・元使用人の運命まであなたが変えた・・・』
ミン・ヒョリンはチェギョンがイム看護師の事を口にした途端、顔色を変えた
『あの人は・・・イムさんは何も悪くないわ。私の為にしてくれたことよ。
あの子の面倒もイムさんが一生懸命見ていた。だからイムさんは・・・罪に問わないで!』
『そんなことができるはずない!』
二人の会話を黙って聞いていた俺だったが、つい声を荒げた
『私はもう・・・家族もいないしどうなっても構わない。でもイムさんは違う。あの人の娘さんを悲しませないで!』
こんな非道なことを企んだのに、ミン・ヒョリンにも人並みに人間としての情があったのかと俺は驚いた
『それにここにいるインも・・・何も罪はないわ。』
俺はインさえも罪に問いたい気分になっていた
ところが・・・
ぶひぃ・・・昨日の疲れが残ってて
中途半端なところで切る私を
許してたもれ~~❤
この続きは水曜日にね~~★
中途半端なところで切る私を
許してたもれ~~❤
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