サマーキャンプ当日・・・私は大きなボストンバッグを肩に掛けて家から出て行った
そろそろコお兄さんの車が迎えに来る頃だ
両親は私の背後でしきりと話しかけた
『チェギョン・・・いいかい?危険なことはしないようにな。』
『何か困ったことがあったらチェ尚宮さんに相談するのよ。』
あ~もう煩いな・・・シン君やお姉ちゃんの次に煩い
そう思いながらもやはり私が外泊するのは心配なのだろうと、振り向くと安心させるために笑顔を浮かべた
『うん♪お父さんお母さん行ってきま~す♪』
コお兄さんの車が迎えに来て、私は後部座席に乗り込んだ
すると驚いたことに、今日はお姉ちゃんも後部座席に座っていた
『チェギョン様・・・お供致しますので。』
『お姉ちゃん・・・バスの中はどうするの?』
『私はチェギョン様の乗られるバスに、乗っていきます。』
『コお兄さんは?』
私は運転席のコお兄さんに向かって身を乗り出し問い掛けた
『私はバスを先導していきます。学校内に車を残していくわけには参りませんから・・・』
そっか・・・コお兄さんにしてみれば、運転する車を離れることは非常に恐ろしいことだったね
私が乗ると知って・・・また細工をする奴がいたら大変だもんね
なんとなく緊張感漂う二人を笑わせたくて、私はつい軽口を利いてみる
『どうせならお姉ちゃん・・・うちの学校の制服を着てきたらよかったのに~♪』
その瞬間・・・
『チェギョン様!』
と・・・叱られた
あははは~つまんないこと言わなきゃよかった
学校に到着した時、既にクラスメートたちはバスに乗り込んでいた
『チェギョン早く~♪』
『ガンヒョ~ン、すぐに行くよ~♪』
皇室のイギサさん達だろうか
バスの点検をしている
なんだか私が参加を決めたばかりに、皆さんの仕事を増やした気がして申し訳ない気分になった
ボストンバッグを荷物を入れる場所に収め、私とお姉ちゃんは乗り込んでいった
私は真ん中の辺りの席に腰掛け、お姉ちゃんは担任の先生や他のクラスの先生と共に一番前の席に腰掛けた
さぁ~♪出発だ~~♪
同じバスの中にはホン・ジュソン君他相撲部の面々も乗っていた
大型のバス二台・・・一台は美術科、もう一台は映像科らしい
私の乗ったバスは先頭を走っていく
あ・・・でもその前にはコお兄さんの車が走っているけどね
窓の外を飛ぶように流れていく景色・・・でもこの景色はなんだかいつも見慣れた景色のような気がする
ん?三年間住んでいた家の方向に向かっているんじゃないの?
私はガンヒョンとおしゃべりをしながら、懐かしい場所を通っていることに気が付いた
そう・・・記憶を取り戻すきっかけとなった、あの書店の前を通り過ぎたのだ
じゃあ・・・この道を上っていくと、三年間住んでいた家?
そう思い私はその上り坂に視線を向けた
あ・・・山の入り口に大きな門がある・・・しかもそれが締まっている
そっか・・・ここは先帝の所有地だったね
私はガンヒョンにこっそりと教えた
『ガンヒョン・・・この道を上っていくと、三年間私が住んでいた家があるんだ~♪』
『えっ?この山の上に住んでいたの?』
『うん。』
なんだか懐かしさがこみ上げる
懐かしい家に続く山の入り口を通り過ぎ暫く道を走っていくと、やはりバスは急斜面を上り始めた
あ~~なんだ!あの家から見えていた隣の山に向かうんだ~♪
私は全く知らない場所に自分が向かうのではなく、慣れ親しんだ家から毎日見ていた山に向かって
いくのだと知った
『わ~空気が美味しいわ。』
感嘆の声を上げるガンヒョン・・・確かに都会っ子には感動ものかもね
マイナスイオンが身体に染みわたる~~って感じかな♪
私達はそれぞれ割り当てられたコテージに荷物を置き、それから屋外のテーブルと椅子を使って
持参したお弁当を広げた
するとお姉ちゃんったらすかさず駆け寄って・・・
『チェギョン様お毒見を・・・』
なんていう
私はお弁当のおかずを箸でつまみ、お姉ちゃんの口元に持って行った
『お姉ちゃん・・・食べて♪』
『チェギョン様、チェ尚宮です。』
『もぉ~わかったから~♪』
お姉ちゃんは照れ臭そうに毒見を遂行し、私の海苔巻きも食べさせられた
『私は後でいただきますから・・・』
そういっていたけどきっとそんなことしないと思う
お姉ちゃんがお腹を空かせたら大変だと、私はせっせと自分のお弁当を分け与えた
そうしたらガンヒョンも・・・
『チェ尚宮さん、これ・・・チェギョンに食べさせたいのでお毒見を・・・』
なんていいながらお姉ちゃんの口元におかずを運ぶ
『は・・・はい。かしこまりました。』
お姉ちゃんは照れ臭そうにしながらも、私達と一緒にお弁当を食べるのを楽しんでくれたみたい
昼食を食べてパワー充填した私たちは、思い思いの場所でスケッチを始めた
映像科の生徒たちは写真を撮ったりビデオカメラを回したりしている
皆それぞれに楽しそうに、得意分野を発揮しながら他の科の生徒とも親睦を深めた
ホン・ジュソン君率いる相撲部男子は、私とガンヒョンの周りに点在しながらスケッチを始めた
もしかして・・・護衛しているの?くすくす・・・
その大きな護衛に囲まれながら、私はガンヒョンと楽しい時間を過ごすことができた
夕食はカレーとサラダ・そして野菜スープだ
生徒たちがそれぞれに分担し、お米の炊飯から配膳・後片付けまで行うシステムだ
私はカレー担当となり、大鍋をぐるぐるかき混ぜてカレーを作る
あまりにもその鍋は大きすぎて腕が疲れたけど、炒めた肉と野菜を煮込んだあとニャーモントカレー辛口のルーを
大鍋に割り入れる
ん~~益々腕が疲れるけど、いい香りがしてきたよ~♪
やっぱカレーはニャーモントだね~♪
ご飯を盛りつけられたカレー皿を持って、生徒たちは私の前に並んだ
相撲部の五人なんか・・・超メガ盛りよ~♪どんだけ食うんだ~あはははは~♪
皆で作った食事は格別美味しいの
私はお姉ちゃんとコお兄さんの分も食事を盛りつけ、ガンヒョンと私が座るテーブルに招いた
『お姉ちゃ~ん・コお兄さんここ~♪』
『チェギョン様!チェ尚宮です。』
『あ~また間違えちゃった♪さぁ~食べましょう。』
お姉ちゃんやコお兄さんは毒見のつもりなのか、別々のものを先に口に入れた
『美味しい・・・』
『本当に美味しいですね。』
『美味しいでしょう?一生懸命かき混ぜたんだから~♪
ガンヒョンなんかレタスをちぎるのに、手がふやけちゃって・・・』
ガンヒョンは溜息を吐きながら皆に掌を見せた
みんな笑顔で美味しい食事を頂いた後は、それぞれに片づけを済ませシャワールームを使い
私とガンヒョン他三人はコテージの部屋に布団を敷いた
心地よい疲れが・・・眠気を誘う
でもそこでハッ!と我に返った
シン君に連絡しなくちゃ・・・きっとコお兄さんから連絡は受けているだろうけど、それでもね・・・婚約者だしね
私は部屋を抜け出し、ドアの外でシン君に電話を掛けた
今日はサマーキャンプの日・・・天候は快晴、きっとチェギョンは友人と楽しく過ごしている事だろう
時折かかって来るコイギサ・ハンイギサからの連絡では不審な人物もいなければ、変わったことも起こっていない
だが・・・当のチェギョンからは全く連絡が入らない
糸が切れた凧みたいに楽しくて俺の事など・・・どこか行ってしまったんじゃないのか?
っつ・・・忌々しく携帯を睨みつける
そんなことを何度したことか
10回ほども睨みつけ・・・そろそろ俺の眼力で携帯が壊れるんじゃないかと思った頃・・・漸く我が婚約者からの
電話が入った
『もしもし~シン君?』
『あぁ。』
『連絡が遅くなっちゃってごめんね~♪』
『いや・・・』
不満を募らせていたせいか、どうも言葉が少ない
あぁぁ・・・折角楽しんでいるチェギョンに、俺の不機嫌を悟られてはならない
俺は必死に気を取り直しチェギョンに問い掛けた
『夕食は済んだのか?』
『うん~♪大鍋でカレーを作ったの。すんご~く美味しかったんだよ~♪
シン君にも・・・食べさせたかったな。』
それはきっと俺が今まで口にしたどんな高級カレーよりも美味しかったんだろうな
『俺も・・・食べたかったな。』
『そうでしょう~?大鍋でぐつぐつ煮込んだカレーだよ。相撲部の連中なんかメガ盛りだったよ~♪』
あいつら・・・っつ気に食わん
『そうか。それは是非食べてみたかった。』
『でも・・・シン君は無理だよね。』
『そうだな・・・』
制約されることの多すぎる俺自身が・・・本当に嫌になる
電話を切った後・・・俺はずっと考えていた
少しだけ・・・ちょっと顔を出すくらいならいいんじゃないか?
婚約者が参加しているんだ。ちょっと顔を見に行くぐらい・・・しかも食事時に・・・
そうと決まれば・・・
俺は翌日の執務を早めに切り上げ、ちょうど夕食時に到着するようにコン内官を従えて公用車に乗り込んだ
チェギョンの庶民としての最後の楽しい時間を、俺も共有したかった
なんだかね・・・気分がどよ~~んとしちゃってね。
折角お仕事順調なのに
飛び火・・・しちゃうのかな・・・
はぁ・・・
折角お仕事順調なのに
飛び火・・・しちゃうのかな・・・
はぁ・・・